find a way プロローグ



 あの島の別荘の帰りに、道明寺が刺された。
 だが一命は取り留め、順調に回復。
 医者からの報告では後遺症はなし。


 ……あたしの記憶だけがないことを除けば。


 道明寺が無事だった事をみんなが喜んでいる。
 もちろんあたしだって嬉しい。
 刺されたときは涙が止まらなかった。
 このまま彼の目を見ることはないんじゃないかと、不吉な予感が頭を過った。
 港で担ぎ上げた時の意識がない男の人の重さに恐怖し、彼の血の匂いをまだ昨日のことのように覚えている。

 その彼が目を覚ました。
 病院の屋上でみんなに囲まれて、以前のように会話をしている。


 ……ただ、あたしを見てくれない。


 道明寺の中では、あたしと一緒に積み重ねてきた大事な時間が消えてしまっている。

 道明寺が悪いんじゃない。それは分かっているのに、彼の差すような冷たい瞳に耐えなければならないのが、あたしの心を重くした。
 目を開けても、あたしが見たかった目を彼はしてくれない……。


『今度は俺が支えるって。よかっかっていいよ』


 花沢類があたしにそう言ってくれて、少し心が軽くなった。

 あたしが家に帰るのを、寒い外で何時間も待っていてくれた花沢類。
 あたしの心よりも冷たくなった彼の手が、あたしに温もりを与えてくれた。

 大丈夫。

 あたしは、そう思えるようになった。

 今、彼は生きている。
 ……目を開いて……起き上がって……そして歩く。
 あたしへの冷たい言葉も生きているから言える事だ。

 いつか思い出してくれる。
 
 だって彼は道明寺だもん。

 天下の道明寺司だから。


 軽くなった心で彼に会いに行った。
 お弁当を作ってお見舞いをして、寝ている彼に思い出してくれるおまじないもかけて……。


 それも効果がないと分かったのは、彼が退院したと知った時。






 ……は?
 た、退院?

 あたしは思わずそれを2度見してしまった。
 電車の吊り広告には、道明寺の写真とともに「退院」「自宅療養」の文字が書いてある。

 ……いつの間に……。

 電車を降りてすぐ、あたしの着信専用携帯に西門さんから電話がかかってきた。
『あいつ退院したの知らせねーんだよ。すげームカつく』
「西門さんも知らなかったんだ」
『俺達を何だと思ってやがんだっ。まったく』
 それを言うなら、あたしもだよね。

 ……ああ、違うか。道明寺はあたしが彼女だとは思っていないから、あたしに連絡なんてあるはずがないんだった。

 そう思うと、花沢類に軽くしてもらった心にまた重い何かが圧し掛かった。

 ううん。
 思い出してもらうためにも道明寺に会わなきゃ。

 あたしはバイトが休みの日に、花を持ってお見舞いがてら彼の館を訪ねた。
 ……でもすごく勇気がいる。
 彼の家へ行く足取りが重い。
 自分が悪い事をしたわけじゃないのに、こんなにも敷居が高いものだっけ……。
 思わず館の入り口で立ち止まってしまうと、警備員の人がインカムであたしが来た事を他の人に伝えてくれた。
 警備員が「どうぞ」と言って先を促してくれるので、重い足を持ち上げ玄関のドアを開ける。

「牧野様お久しぶりです」
「お元気そうで何よりです」
「もうお会いできないと思っていたんですよっ」
「ほんとにさびしかったですっ」
 館の中では以前の仕事仲間たちが集まり、あたしを歓迎してくれた。
 あたしの顔がほっこり熱を持ったことに、ずっと血の気の引いた顔をしていたんだと気づいた。
 ……うれしい。
 ……変わってない事もある。あたしが積み重ねてきたものが、すべて彼の記憶がないせいでなくなってしまった訳じゃないんだ。
 あんなに入りにくかったこの館も、自然と馴染んだものに移り変わっていき、ほぅっと息がつけた。

 そうだ楽しい事を考えよう。
 彼の記憶が戻ったらのことを。
 あの事を話したらどんな顔をするかな……。
 あんたのお母さんが1年間の猶予をくれたんだよ。
 これからどこへ行くにも邪魔は入らない。
 やっと彼氏彼女らしく、デートとか出来るんだよ。

 でもあんたの事だから、デートの規模とかがきっと違うんだよね。
 飛行機に乗ってどこか……とか。
 でもたまには庶民デートにも付き合って貰おう。
 だってそんな豪華なデートばっかりじゃ、疲れちゃうもん。
 豪華な食事もいいけど、たまには庶民のご飯も食べないと……総菜料理が恋しくなるよね。


「よく来たね。坊ちゃんなら東の部屋にいるよ」
 タマさんの言葉に、他のメイドさん達は瞬時に微妙な表情になる。
「……?」
「一人じゃないけどね」

 付け加えられたその言葉で、なんか分かった気がした。
 それ……って。
 もしかして……。

「負けるんじゃないよ」

 そんなタマさんの声を後ろで聞きながら、あたしは東の彼の部屋へ向かった。

 部屋の中から聞こえてくる2人の笑い声。
 思った通り中にいたのは、……海ちゃん。
 少し空いたドアの隙間からは、道明寺の顔が見える。

 ……笑っている。

 あたしには見せない笑顔。
 落ち込む気持ちに蓋をして、グッと我慢をし自分に言い聞かせた。
 楽しいこと。楽しいことを考えよ。
 まずはあたしらしく。そうしたらきっと思い出してくれる。

 そしてその楽しことを端から実現していってやるんだ。
 豪華デートも庶民デートも、全部あいつに付き合って貰うんだ。
 道明寺がブーブー文句を言いながらも、あたしの希望をすべて叶えてくれるその姿を思い浮かべた。


「あ、いらっしゃい。つくしちゃん」

 入口にいるあたしに海ちゃんが気づいて声をかけてきた。
「こ、こんにちは」
 ……い、いらっしゃい……って。
 なんかあたしよりもここの住人になってるよね。
 あ、ダメだ。……顔が引きつりそう。
「海ちゃんも退院したんだ。おめでとう」
「ありがとー。あ、これお見舞いの花? あたしが生けてくるね。座ってつくしちゃん」
 あたしから花を受け取って、海ちゃんは部屋の外へ出て行った。
 部屋の中には道明寺とあたしの2人っきり。
 彼の顔を見るとさっきまでの笑った顔とは違い、病院で会った時と同じ鋭い目つきに変わっていた。
「……退院おめでと。具合どう?」
「なんなの? おまえ、どうやってここまで入ってきたわけ?」
「……」
「類の女だからって、人んちズカズカ入り込んで知らねーつーの。帰れよ」
 
 ……あたしらしく。

「あたしは類の女じゃないし、あたしはあたしなの。誰々のあたしじゃない」
 
 あたしらしくしよう。

 道明寺が好きだったあたしらしく……。



 ……でも現実は厳しい。
 話があるからと声をかけられ、言われた海ちゃんの言葉……。
「もうここには来ないであげてほしいの」
「……!?」
「つくしちゃんが来るとイライラするみたいだし。それはつくしちゃんにとってもマイナスだと思うんだよね」
 ……海ちゃんの言葉の意味が瞬時に理解できなかった。
 頭の中で理解しようと努力しているあたしの目の前で、楽しそうな2人の会話が耳を通り抜ける。
「そろそろお茶の時間だよね」
「ずーずーしいな、おまえは。2日連続で人んちでお茶してくのかよ」
「だって最高においしいんだもん」

 ……昨日もきたの?
 毎日きてるの……?
 馴れ馴れしくしないでよ。それはあたしの彼氏なんだから……。
 なんで道明寺も黙ってるの?
 ベタベタする女の子嫌いだったよね……。
 惚れてもいない女には興味ないんじゃなかったの?

 それともあんたにとって、海ちゃんは特別なの……?

「このあいだ枕元にあった弁当、また作って」
「いいよっ。明日作ってくる」
 道明寺のおねだりのような言葉に笑って返事をする海ちゃん……。

 ……枕元の弁当?

 あたしが作ったやつ?
 ……海ちゃんが作った事になってるの?


 ……。


 ……。

 ……ああ、なんかもういい。


 もういいや。


 あんたはあたしが好きだった道明寺じゃない。
 あたしを見つけてくれないんじゃ……もういい。



 自然と涙がこぼれたが、何も考えたくない頭と何も感じたくない心を持って、あたしは道明寺邸を出て行った。


 気が付いたらアパートにいて、進の「姉ちゃんお腹空いた」の一言で、ロボットの様にご飯を作り出した。





 季節は3月。
 ああ、今日って桃の節句だ。……って、まぁそんなのを祝う年でもないか……。
 毎日バタバタしっぱなしだったし、ちらし寿司なんて用意したら進にどんな嫌味を言われるか。
 ……進に何を言われようが、負けないけど。

 でも平穏が一番。
 あたしは英徳に入学した当初の気持ち、こんな穏やかな日に憧れていたなぁってことを思い出しながら、非常階段でボーっとしていると、、
「司の退院祝い今日するんだって。これ招待状」
 声をかけられ花沢類の方を見ると、封筒を差し出してくれた。
 ……招待状?
 あたしのささやかな平穏を打ち破る名前とアイテムに思わず眉間に皺が寄る。

 封筒は受け取らずジッと見ながら、……西門さんあんなに怒っていたのに「退院祝い」なんだ。友達思いだよね……。まぁ、発案者は美作さんなんだろうと思うけど。
 ささくれだった心には、可愛くないあたしが顔を見せた。
 いつまでも招待状を受け取らないあたしに花沢類は、
「……牧野?」
「あたし行かない」
「……?」
「もういいって思ったの。だからもう道明寺には会わない」
「……なにかあった? もしかしてあの女?」
 あたしの横に座り首を傾げながらこっちを見るビー玉のような瞳。
「何にもない。あたしの気持ちの問題っ」
「……そっ」
 これ以上は詮索されても答えるつもりはなかったけど、彼もこれ以上突っ込んで聞いてくるのはやめたみたいだった。
「あっ。そうだ花沢類。今日道明寺の家に行く前に、あたしんちに寄ってくれる?」
「……?」



 全部手放そう。
 思い出の品、全部。
 あたしはアパートへ戻り、紙袋を用意する。
 「土星人だ」って言ってくれた土星のネックレス。
 名前は忘れたけど、記念のホームランボール。これを受け取ったころが一番楽しかったかも……。彼氏彼女らしく誰にも見つからない制服デート……。
 そして道明寺のお母さんが持っていたぬいぐるみ。お母さんがあんたの事を大事に想っていてくれた証のもの。教えてあげたらどんな顔するだろうって、ゴミ箱から取り出した時はワクワクしていた。
 でもそれを教えるのはもうあたしの役目じゃない。
 新しいあんたの恋人が……あんたから貰ったネックレスを首につけた可愛い彼女が、きっと教えてくれるよ。


「これ、道明寺に返しといて」
 あたしはアパートの玄関前で花沢類に、思い出の品を全て入れた紙袋を手渡した。
「……?」
 チラッと紙袋の中身をみた花沢類は全てを悟ったような目をして、
「自分で渡した方がいいよ」
「もう会いたくないの」
「……これを渡したら、もしかしたら思い出すかも知れないじゃん」
 ……。
 ……その可能性はゼロではないかも知れない。
 けど思い出さなかったら……?
 そんな小さな可能性にすがりつく惨めなあたしも、今は誰に対してか分からないプライドが邪魔をして素直になれない。
 惨めでも何でもいいって思える程、今のあたしは強くない。
 道明寺の事を強く想えない。
 もう傷つくのも辛いのも嫌だ。
「いいの」
「俺から渡すより牧野から渡した方が、きっと思い出す確率は上がるよ」
「いいのっ」
「……後悔するかもよ」
「いいって言ってんじゃん。ダメならもういい。頼まないっ!」
 手渡した紙袋を花沢類から奪い取ろうとしたら、ヒョイっと上に持ち上げられた。
「……?」
 紙袋を見上げたあたしの頭の上に、荷物を持ってない方の彼の掌が優しく乗る。
「いいよ。牧野が後悔しないっていうなら、俺が預かっとく」
「……うん……」

 彼の笑顔に癒される。

 片意地張った力がすうっと抜ける瞬間……。

「……今日バイト休みだろ」
「……? うん」
「司の退院パーティー早めに切り上げてくるから、その後俺とデートしよ」
 ……デ……デート?
「……は、花沢類と?」
「うん、支度して待ってて」
 それだけ言うと、彼は楽しそうにアパートの階段を下りていった。

 あたしと花沢類が……?


 デート……?



 ……そっか。道明寺と付き合ってないって事は、誰とデートしても浮気とかにはならないんだ。
 誰に咎められることもない……。


 ……えっ……と。

 一応……何着てこう。





※今回はこの分岐点からのお話です。私は原作の時、ああ類……もうちょっと頑張れよ……。類つくになるチャンスなのにって思ったものです。何とも言えないモヤモヤ感が私の中を走りました。
 ですので、今回ちょっとだけ類に頑張ってもらうお話です。誤字脱字などあるかと思いますが、おかしな点は雰囲気だけでも掴んでいただければ嬉しいです^^;
 拙い文ですが私の妄想話について来れる方、よろしくお願い致します。
 桃伽奈

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オ様
 訪問&コメントありがとうございます。

 おはようですw
 そうですよね。原作ではここのシーンは辛くてあまり読み返したくないかも……私もみんなが知っている内容だって事で、今回の記事の前半は箇条書きみたいにしちゃいました。辛いからつくしちゃんの感情を追いたくなくて><
 
 類に頑張ってもらいたいって気持ちで書いています。でも原作って、あと「一歩」のところでいつも後ろに引いてしまうんですよね……。そうならないように気をつけたいと思います^^;
 見守る愛より、攻めの愛になれるように><w
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈
 

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み様
 訪問&コメントありがとうございます。

 あたたかいお言葉ありがとうございますw
 類好きの世界へようこそ……^^v お仲間が増えて嬉しいです♪
 今回のお話は、あの時こうなったらいいなっていう、私の妄想からスタートしました。いつも通り私のペースですが、類が幸せになれるよう頑張りたいと思います。
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈
 

マ様
 訪問&コメントありがとうございます。

 いつもありがとうございますw
 「ポルポ~」と一緒で今回のお話も、初めて読んだ時に感じた……こうなったらいいなっていう妄想を肉付けしました♪
 いつも通り私のペースですが類が幸せになれるよう頑張りたいと思います^^
 まだストックが少なく一日おきですが><;
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

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m様
 訪問&コメントありがとうございます。

 こんばんはw
 あたたかいお言葉ありがとうございますw
 原作を読んでいてこうなったらいいなっていう、いつもの私の妄想から始まるお話です♪
 今回は類に頑張ってもらう予定です^^
 まだそんなにストックがなくドキドキのスタートですが、ちゃんと最後まで走れるよう頑張りたいと思います。
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

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k様
 訪問&コメントありがとうございます。

 おはようですw
 同じ気持ちでいて下さり嬉しいです。あの時もうちょっと……ですよね><w
 つくしちゃんが幸せになれるよう……私のペースで頑張りたいと思います^^
 そのために類には頑張ってもらう予定です♪
 嬉しいお言葉ありがとうございます。ちゃんと完結できるよう頑張りたいと思います。
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈
 
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桃伽奈

Author:桃伽奈
管理人が花男の類にLOVEになってしまい、思わず開いてしまった2次小説のブログです。苦手な方はこのまま閉じて下さい。小説など書いた事がないのですが、溢れんばかりの愛はありますので、このまま突っ切ろうと思います。
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