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dear 15

桃伽奈



 高橋さんが店に入ってきた時、女将さんと一緒に「いらっしゃいませ」と、ごく普通に挨拶をした。
 その後、彼と目が合い誰なのかを認識したら、あたしは固まって動けなくなっていた。
「つくしちゃん、こんばんは」
「……こんばんは、高階さん」
 一人で来店した彼はカウンターに座り、メニューを開いた。
 頃合いをみて、メニューを聞きに高階さんに話かけると、
「つくしちゃんのおススメって何かな?」
「あ、あの……。そのつくしちゃんって言うのは……」
「ああ、ごめん。嫌だった? 太田さんがつくしちゃんって言ってるから移っちゃってね」
 人懐っこい笑顔を顔に張り付けているが、太田さんとは恵美ちゃんの苗字だ。
 親しくしている恵美ちゃんを苗字で呼ぶのに、あたしは名前って……。
 何となく警戒心が芽生えてくる。
 早々にこの場を離れたいなって思い、
「決まらなければ本日の定食がおススメです」
「それじゃ、それお願いします」
「はい。ありがとうございます」
 と言って、女将さんの方へ下がった。


 先週は道明寺の誤解を解きたくて、彼が来店する事があったら話をしようと思っていたけど、冒頭の馴れ馴れしい態度のせいかあまり話したくないって思ってしまい、さりげなく他のお客様の相手をして、高階さんの傍には近寄らないようにしていた。
 けれど無視するわけにもいかず、ちょっとしたスキに彼の方から話しかけてきた。
「この後、ちょっと話したいんだけど、バイト何時に終わる?」
「……すみません。閉店までなんで遅くなるので、話は後日でもいいですか?」
 あたしは話すことなどないので、穏便に断ろうとしていたら
「それじゃ、連絡するよ。番号教えてくれる?」
「え?」
 それは話すよりも、もっと嫌な感じがしてしまう。
 そんなあたしの態度を敏感に感じ取った彼は、はぁと溜息をついて
「太田さんに聞いても教えてくれないし、困った子だよね」
「……困った子?」
 他人の個人情報を勝手に教えたりしないっていうのは、常識なんじゃないの?
「彼女、俺の会社に入りたいんでしょ。俺も信用できる人じゃないと会社に紹介できないし……」
「……」
 ……やっぱりあたしの事で恵美ちゃんに迷惑かけているんだ……。
 そんな事本人は全然言わないから、気づかなかった。
 けど、閉店してからだと時間が本当に遅くなってしまい、銭湯に行けなくなってしまう。
 かと言って、番号を教えるのは躊躇われる……。
 どうしようと悩んでいたら
「つくしちゃん、今日は閉店作業の方はいいから先に上がっていいわよ」
 あたし達の話が聞こえていた女将さんが、助け舟を出してくれた。
「あ、ありがとうございます。すみません」
 
 あたしはいつもより早く店を出て、駅前の夜中まで開いているファミレスに高階さんと入っていった。

 店の中に入り、ドリンクバーを注文して席に持ってくると
「やっと落ち着いて話せるね」
 合コンの時と同じ笑顔で話しかけてきた。
「……はぁ」
「今なら花沢は日本にいないし、つくしちゃんと二人でゆっくり話せると思ったんだ」
「なんの話がしたいんですか?」
 その言い方って、高階さんと類って仲悪いのかな。それにあたしの事を名前で呼ぶのはやめてほしい。
 本当はすぐに席を立って帰ってしまいたい気分だったが、恵美ちゃんにこれ以上迷惑をかけたくないので自分を叱咤した。
「いろいろ。……俺つくしちゃんに興味湧いちゃってさ」
「……?」
「この前の映画館で花沢にあんな事言われたから、ちゃんと調べたんだよ。そしたら、あんた凄いね」
 調べた? あたしの事を?
「あの道明寺財閥の息子と付き合っていたんだって? 赤札っていうのも聞いたよ。それに学園を辞めた本当の理由もわかった」
 
 この人は、人のプライバシーを何だと思っているんだろう。
 類も以前借金の事で、あたしの事を調べたって言っていたけど、こんな嫌な気分にはならなかった。
 なのに、高階さん相手だとこんなにも嫌悪感でいっぱいになる。
 『興味が湧いたから?』 
 だからって、人の過去に土足で入っていいほうはない。
 咲良も恵美ちゃんも、あたしの昔の事を本当は詳しく知りたいって思っているのかも知れない。
 でも、話したくないあたしの気持ちを汲んで聞かないでいてくれている。
 それが人と人の絆ではないのだろうか。
 類だって、あたしの事を調べたのは何とかしてあげたい。助けたいって思ってくれたからだ。
 高階さんみたいな、自分の自己満足のためにあたしの過去を暴いたりしなかった。


「それで……あたしの事を知ってどうだっていうんですか?」
「花沢と別れて俺と付き合おうよ」
「は?」
「花沢の立て替えた借金のお金は、俺が払うから心配しなくていいよ」
 何言ってるのこの人?
「あたし、類とは付き合っていませんけど。それにあなたの事もそういう対象で見た事がないので……」
「うそ、じゃぁ花沢は彼女でもないあんたの借金を払ったっていうの?」
 あたしが作った借金……みたいな言われ方にもカチンとくるが、「あいつって本当何考えてるのかわかんねぇ」の言葉に怒りが込み上げる。
 こんな人に、類のやさしさはきっと理解して貰えない。同じように道明寺の事も。

 もうこれ以上話していたくないので
「あたしそろそろ失礼します」
 と言って、席を立とうとしたら、机の上に置いていた左手を掴まれゾワっと鳥肌が立つ。
「それじゃ、別れる手間が省けた。俺の彼女になってよ」
「さっきも言いましたけど、あなたの事をそういう……」
「あんたの考えは別にいいよ。第一あんたは断れないだろう。太田さんにあんたの過去話しちゃうよ。それとも今いる大学のみんなに知らせちゃうのも面白いよね」
「……っ」
「俺、夜逃げした人と初めて会った」
 くっくっくっ。と笑っている。
 怒りが沸点を超えそうなのに、頭のどこかはすごく冷静でいた。
「高階さんは私の事が好きなわけじゃないんですよね……どうしてですか?」
「興味があるってだけじゃダメかな」
 興味がある……本当にそれだけなんだろうか。
 何か隠している事はないか高階さんの顔を見ると、観念したかのように語りだした。
「……俺、花沢の事嫌いなんだよね。いつも俺は関係ないって顔して回ってさ。花沢物産の後継者もさ。あいつ一人だから何もしなくても将来は約束されてるじゃん」

 何もしなくてもって……。この人は本気でそう思っているんだろうか。
 今、類が日本にいないのだって会社を継ぐための修行なのに。
 高校の時は、あの3年寝太郎が働いている姿なんて想像できなかったが、今は頑張っているんだってよくわかる。
 「柊」に来る時もよく疲れた顔をしている時がある。
 人と関わるのが好きじゃない彼が、必死に努力して人と関わって仕事しているんだって事が想像できる。
 庶民のあたしでさえわかる事なのに、同じ立場のジュニアのこの人は気づけないんだろうか。

「そんな事ないって顔だね。花沢も苦労しているって? あいつのなんて俺に比べれば苦労なんてものじゃないよ」
「……?」
 高階の顔にいつもの余裕の笑みが消えている。
 闇のように暗い目がまるで別人のように見えて怖い。
「高階商事は一族経営だからね。今は父が社長をしているが、だからって次俺が社長になれるわけじゃない。他に優秀な人材が一族にいればそいつがなるんだよ。わかるかい? 俺は社長の息子なのに優秀じゃないから社長になれなかったって、後ろ指指されながら生きていかなきゃいけない可能性があるって事」
「それって類とは関係ないんじゃ……」
「もちろん今までだったら、あんなスカした奴相手にしなかったさ。俺の周りはいつも人が大勢いて、アイツには美作と西門だけ。張り合う価値もないって思ってた」
「……」
「けど俺ムカついたんだよね。あんな事言われたの初めてだったから『部外者は黙ってろ』ってやつ」
 目が血走らせながら、毒を吐くように類の事を話す。
 あたしは合コンの時を思い出した。
 彼が今言ったように、合コンでは中心的な存在だった。
 おそらく普段の生活も人の輪の中心にこの人はいるのかも知れない。
 それは将来会社を継ぐためのステップアップのためのか、ただ単に中心にいたいだけなのかわからないが、人と広く付き合ってきた彼が部外者扱いされて、のけ者にされるのはプライドが傷ついたのだろうと想像できる。
「類の事が嫌いなのはわかったけど、あたしと付き合うのとは繋がらない気がするんだけど」
「あんたが花沢にとって特別な人なんだっていうのはすぐにわかるよ。いつも無表情で感情なんて表に出さないのに、あんたといる時のあいつの笑った顔や怒った態度なんて初めてみた。ああ、こいつも人間らしい感情があるんだって思った」
「……」

「あんたと俺が付き合ったらさ、どんな顔するんだろうね。花沢のやつ。ねぇ、つくしちゃん」
 合コンの時と同じ笑顔をされたが、それは悪魔のような顔に見えた。



 どうやってアパートに帰ってきたか覚えていないが、ファミレスでの高階さんとの会話がグルグル回っている。
 類が嫌いだから、高階さんがあたしと付き合う……?
 付き合わなかったら咲良達や、大学のみんなに夜逃げした事や赤札を貼られてイジメられていた事を話す……。
 恵美ちゃんの就職も……。

 あんな……人を道端のゴミ物扱いするような目をする人と付き合うの?
 他人は俺のいう事は聞いてあたり前って考えを持っているあの人と……?
 類も道明寺も強引な所はあるけど、ちゃんとあたしの事を一人の人として見てくれている。
 高橋さんと初めて会った合コンの時では、あんな嫌な人だとは思わなかった。気遣いができて、エリートを鼻にかける人じゃなかったのに。
 あの高階さんは演技だったんだろうか。会社を継ぐため、みんなの中心でいるための……。

 手を触られたら気持ち悪くて寒気がした。これから彼女として、あの人の近くで過ごさなきゃいけないの?


 類のちょっと冷たいけど、握ると心が温まる手が恋しかった。


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Posted by桃伽奈

Comments 2

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2018/05/18 (Fri) 11:22 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

金様
 訪問&コメントありがとうございます。

 はじめまして。
 私もF4はみんな大好きです! が、やっぱり一番好きなのは類なので、類に幸せになって欲しくここでこっそり妄想話を書いております。
 ピンチの時に助けてくれるっていうのは、ポイント高いですよね><w

 つくしちゃん……。なんで類を選ばなかったんだって、何度もそんな分岐点になると思ってしまってました。
 マイペース&のんびり更新ですが、ひっそりと続けていきたいと思います。
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

 

2018/05/19 (Sat) 02:52 | EDIT | REPLY |   

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