Welcome to my blog

種と蕾の先へ 43

桃伽奈



つくしside

「いいか、つくし。話を聞いてからでも辞めたいって思ったら降りていいからな」
 なんて往生際悪く付け加えるヤスにあたしは、
「わかったから。早く教えて」
 と先を促した。



「俺とヒロは美作商事の諜報員だった頃、リーダーのハル……。お前の父親の晴夫さんと……あと数人でチームを組んで、ある施設について調べていた」
「……?」
「これは美作商事からの仕事じゃなく、美作社長……当時は常務だったが……美作大河氏からの個人的な依頼だった」
「それって、夢子さんの旦那さん?」
 つまり美作さんのお父さんって事?

「ああ。だからその事を知っているのは極限られた人数だった」
「……何を依頼されて調べてたの?」
「なのはな青少年更生施設がどんなところか……。俺とハルがそこの職員となり潜入捜査をして、他のメンバーはサポートに回っていた」
「……青少年更生施設?」
「ここだよ」
 オウム返しに聞くあたしに、ヒロがパソコンを動かして施設のHPを見せてくれる。
 ソファから立ち上がり、パソコンの画面が見えるところまで移動して、ざっと中身を読んだ。

「20歳前後までの子供達が入っている場所だよ。入居者は主に犯罪などの非行に走った者からひきこもり。社会に適応できなかった子供達を預けるような場所」
「少年院みたいなのとは違うの?」
「違う。ここは民間が運営している施設だ。規則正しい生活と集団活動を学ぶのが主な目的だな」
 あたしの問いには、ここへ直接潜入捜査をしていたヤスが答えてくれた。
「へぇ……」
「朝6時に起きてまずは運動場で体操をする。そして朝食を取ったら、各々やりたい勉強をして一日を過ごす」
「……勉強?」

「主に学校の勉強だな。ここに来る奴は割り算や分数でつまずきそのまま16歳になってしまったような子も珍しくないから、個人の学力に合わせた勉強法を取り入れていた。目標は中学校卒業レベルの学力……だったな。他にも希望者には職業訓練のような授業も用意されていて、資格が取れると関連企業への就職も口利きして貰える。『更生施設』の名の通り、社会からはじき出されてしまった子供たちが、再び社会に出るために必要な場所って感じの所だった」

 ヤスは当時の事を思い出しながら、どこか遠い目をして説明してくれる。
「……そんな施設があるんだ」
「集団生活を学ぶところだが規則はそんなに厳しくないから、入居者はのびのびとした顔をして過ごしていた」
「あたし『更生施設』なんていうから、軍隊みたいなのを想像しちゃってた……」
 時間に厳しく移動は駆け足。返事はお腹から……みたいな。
 厳し過ぎて施設からの脱獄者がでちゃうようなところ……。
「勉強も強制じゃないからな。どんなにやさぐれた心を持って入居しても、次第に周りの雰囲気に乗せられてどんな子も前向きな考え方になっていった」
「なんかいいところだね」
 あたしが褒めると、歯切れが悪そうにヤスは「……ああ」と返事をした。
 どうしたんだろうって思っていると、ヒロが続きを話してくれる。

「つくし、この施設で働いている1人の職員から先日連絡があったんだ」
「連絡?」
「ヤスに会いたいって……」
 ヤスに……?
 ヤスの方を見ると気を取り直したように、また話し出した。
「11年前、任務途中でハルが亡くなった。その後すぐに俺とハルが美作の諜報員だと施設側の人間にバレて捜査は中止。俺達は任務途中で施設を後にする事になった。その時仲良くなったそこの中川って職員が先日何かの映像を撮って、俺がまだ美作にいると思いこみ会社へ送ってきた」

「……え? いないじゃん」
「ああ。美作を辞めたって言わなかったからな」
「ちゃんと言ってたらこんな回りくどい事にならなかったのにね」
 ヒロは恨めしい目でヤスを睨むと「るせっ」とだけ言ってそっぽ向いた。
「半年程前に偶然富山で出会ったんだよ。中川は親戚の法事で出向いていたらしいが、俺は調べものの為にあの時は富山に住んでいた」
 ヤスの姿をこの1年見ないと思っていたら富山にいたのか……。
 あたしは納得して続きを待った。

「少し話しただけだったが、11年振りに会うあいつはひどく疲れた様子で何かを思い悩んでいるようだった。それでそいつが言ったんだ。『11年前、美作商事がうちの施設の事を調べていたけど……それってあれの事?』ってな。けど俺には「あれ」が何なのか見当つかなかったし『何か知ってるのか?』と逆に聞くと、証拠がないと言って口を固く閉ざした」
「……」
「だから俺は証拠を見つけたならこれを使えって言って、その時持ってたヒロが作った暗号ソフトをそいつに手渡したが、連絡先の交換をうっかり忘れていてお互いしていなくてな。何かの証拠を掴んだその中川は美作商事の方に映像を送った」
「……なるほど。それでその映像を回収しに今度は美作商事に潜入するの?」
「するかっ。アホっ」
 あたしは真剣に聞いたのにヤスは呆れたように言い、ヒロは「はははっ」って笑いながら教えてくれた。
「だから昔チームを組んでいたメンバーで、まだ美作で働いている人から連絡を貰ったんだよ。なのはな更生施設の中川職員がヤス宛に映像を送ってきて会いたがっているって」
「ああ、なるほど」
 潜入して盗まなくても、映像は手に入るんだ。

「映像は先日、その元同僚からヤスが受け取った。まさか僕が作ったあの暗号を解くブログラムを作れる奴が美作にいるとは思わなかったけど……。それでその連絡をしてきた中川職員とも明日ヤスと会う手筈になっている」
「そう」
「だから今のところつくしに手伝ってもらう事はないよ。必要になったら呼ぶから、それまで学校生活を満喫しといで」
「ああ、それがいい。呼ばねぇかも知れないから今聞いた事は忘れていいぞ」
 ヒロは優しく言ってくれるが、後に続くヤスの言葉にあたしはまたカチンと来た。
「何よそれっ。手伝うって言ったでしょっ!」

「はいはいはい。喧嘩しないの」

 再び始まりそうなあたしとヤスの言い合いに、呆れたように手をパンパンと叩いてヒロがまた仲裁に入った。


関連記事

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply