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種と蕾の先へ 51

桃伽奈



花沢開(類の父)side


 ……どうすればいい?

 俺は返事がないのは分かっているのに、そう目の前の里佳子の墓へ問いかけた。

 秋晴れの10月。
 行楽日和にピッタリの今日は、墓地がある隣の公園には弁当を持った家族連れから楽しそうな声が聞こえてきた。
 里佳子が生きていた頃は、3人であの中に混ざって休日を一緒に過ごしていた事を思い出す。
 まだ類が幼稚舎に通っていた頃の事だ。
 その後、里佳子が死んでいつの間にか類も高校生になった。



『いつも何を母さんに報告してるの?』

『偽善者ぶるのもやめろよな』


 類があんな風に考えていただなんて思いもしなかった。
 いや……里佳子が亡くなった時、あれだけ騒がれたんだ。
 ボランティア活動や教育に力を入れ講演会などを行い、聖職者のように人を導いていた里佳子の……不倫ゆえの自殺……。

 もっと類に気遣ってやるべきだった。
 幼少期にずっと信じていた母親を悪しき様に色々言われたんだ。
 記事が出た直後は、類に外出禁止命令を出して、テレビなどの情報も一切入らないようにさせた。
 それでもどこからか類の耳に入ってしまっていたんだろう……。

 あんな感情的になって、俺に何かを言う類は初めて見た。



 里佳子……俺はこういう時は、類にどう接したらいいんだ……?

 何度目かの問いかけにも、墓からは里佳子の声は聞こえない。



「……お久しぶりです。開先輩」
 里佳子の墓前に手を合わせていると、後ろから遠慮がちな声が聞こえてきた。
「夢子か……」
 俺が毎年墓参りを欠かさないのと同じように、夢子も里佳子が死んでから一度も欠かしたことがない。
「1年振りですね。お変わりないようで。今日、類君はご一緒じゃないんですか?」
 夢子は持ってきた花を墓前の前に置き、周りを確認しながら話す。
「……」
 何も言わない俺に、夢子は「あら?」とした顔をした。

「子供はいつまでも子供じゃないって事ですわ。……私も最近のあきら君を見てるとどんどん離れて行って……」
 寂しいわって続く夢子の言葉に、
「そういう愚痴は俺じゃなく、旦那の大河にでもしてやれっ」
 と言い放つと「そうですわね」っと、動じた様子も見せずに笑った。


 里佳子の墓前に手を合わせ終えた夢子は立ち上がり、俺の方を向いた。
「開先輩ご存知ですか? つくしちゃんが今、英徳学園に通っていますわ」
「つくし? ……千恵子の娘か?」
「ええ、2年前の中学3年の時に「英徳に通ってみたい」って言って私に連絡をしてくれたの」
「あの姉弟はあの後……」
「父親の晴夫さんと親しかった美作の社員だった人が育てたみたいです。本当は私が引き取りたかったけど、大河さんからは彼らに任せた方がいいって言われて……」
「千恵子の実家の鍋島はどうした?」
「晴夫さんが亡くなった時、何も言ってこなかったみたいです。もう代替わりをしていて、家は10歳以上年が離れたお兄さんが継いでいたので……」
 実家の鍋島家からは一切の援助はしないと言われ、勘当同然で家を飛び出し好きになった男性と結婚した千恵子。
 鍋島家は千恵子が亡くなり、結婚した男性が死んで子供達だけになっても、一切関わる気がないって事か……。

「けれどつくしちゃんは、詳しい事は何も聞かされてないようですわ」
「……そうか」
 たしか類の1つ下だったはずだ。
 なら父親が死んだときは5歳くらいだろう……。
「それなら何も知らない方がいい」
 下手に知ってしまったから、類は里佳子の事をあんな風に思ってしまった。
 世の中の真実をすべて知りたいなんて思わない方がいいんだ。

「……はい。私もそう思って何も話しませんでしたし……つくしちゃんを育てた人もきっと同じ考えです」
「……」
「でも開先輩……」
「……?」
「私、最近のあきら君を見て思うんです。子供はいつまでも籠の中にはいてくれないんだって……。きっと親が子離れをするずっと前に、子供の方から巣立っていってしまうものかも知れないって……」
「……何が言いたい?」
 夢子の真意が分からない。
 先程知らない方がいいという、俺の考えに同意したばかりだ。
「……私……里佳子先輩からポケコンを預かっているんです」
「ポケコン? ……ポケットコンピュータか? 里佳子の?」
「はい。中に何が入っているのかは開けていないので知りません。……ただ渡された時に「類が大人になって知りたいって言ったら渡して」って言われました」
「……」
 里佳子が……。
 一体中に何を入れたんだ……?

「里佳子先輩の言った「知りたい」……が何なのか。それは私の想像でしか判断できませんが、類君が「知りたい」って言ったら渡そうと思っています。それが……」
 真っすぐな目で俺を見ながら話していた夢子が一度言葉を区切る。一瞬迷うようなそぶりを見せたが、すぐにハッキリと宣言した。
「それが、開先輩が類君に知られたくないって思っている事でも……」
「……っ!」
 類に知られたくない事……。
 今までひた隠しにしていた事……。


「……それが里佳子から夢子へ託された事なら俺には止められない。里佳子の想いを実行してくれ」
「開先輩……」
 俺の言葉を聞いて、夢子は辛そうに顔を歪める。

 そのポケコンに何が入っているのか俺は知らない。
 里佳子の遺品にポケコンがない事すら、今言われるまで気付かなかった。
 生前、里佳子が考えていた事が入っているポケコン。

 里佳子の……類への遺言……。

 今日、類にどう接したらいいのか、墓前で里佳子に問いかけても答えはでない。
 俺にはどうすればいいか分からないから、……里佳子に任せる。

 ダメな父親だな……。

 いつまでも里佳子に甘えて。


 俺を心配そうに見つめる夢子から背を向け帰ろうとすると、後ろから夢子の声が聞こえる。
「あっ! 主人が……もう少ししたら長期出張から帰ってくるんです」
 大河が……?
「……それはよかったな」
「……はい……」
 俺の言葉に、夢子は少し寂しそうに返事をした。


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Posted by桃伽奈

Comments 2

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2018/02/15 (Thu) 22:34 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

ま様
 訪問&コメントありがとうございます。

 いつもありがとうございます♪
 ややこしくならないよう、ゆっくりと謎解きを行っておりますが、初めてのジャンル(?)に、皆様がこんがらがっていないか正直不安です^^;
 ゆっくり過ぎて逆にもどかしいと感じているかも;;

 お察しの通り、パパ達も今後ちょっと関わってきますw
 今さらですが登場人物多いですよね><;
 これでもかなり減らしたのですが、もうすでに反省点が多々あります;;
 
 でも過去に何があろうが、これから何が起ころうが、一番大事なのは類とつくしのラブww
 それだけは忘れずに最後まで書き上げたいと思います♪
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/02/16 (Fri) 10:43 | EDIT | REPLY |   

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