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種と蕾の先へ 53

桃伽奈



 類side

 次の日になっても俺の中は、何で? どうして? が繰り返される。


 何で母さんの不倫相手が牧野の父親なんだ?
 どうして牧野なんだ?

 胸の中に、重い鉛のようなものが圧し掛かり、呼吸は出来ているはずなのに、息苦しさを覚えた。

 父親が死んだ事で、両親がいなくなってしまった牧野。
 俺には父さんがいたけど、牧野はどう過ごしていた?


 何で……体が弱いなんて嘘をついて英徳に入学したの?


 この学園に来たのは……もしかして俺に近づくため?

 不倫相手の子供同士……。


 俺に近づいて……何がしたかった……?



「ちょっと類、聞いてるの?」

「……?」

 ハッと顔をあげると、目の前には母さんの妹で英徳学園の理事長である杏子さんの怒った顔がある。
 ……あ。
「聞いてなかったでしょっ」
「……ん」
 呆れたようにいう杏子さんに、俺は聞いていなかったと正直に答えた。
 昨日、あきらと電話をし終えた後、ロスにいる椿姉ちゃんと電話で話した。
 それからはずっと同じ事で俺の頭の中は占められていて、時計塔の中に籠っていた俺を杏子さんが強引に外へ引きずり出した。
 そして俺達は今、非常階段にいる。
 俺は階段に座るが、杏子さんはスーツが汚れるのが嫌なのか、それとも俺を上からしっかり叱りつけたいからなのか座らずに仁王立ちのままだった。

「ん……。じゃないでしょっ。一昨日お姉様の命日だったのに、ちゃんとお墓参りしたの?」
「……」
「お義兄様と一緒には行かなかったでしょ!」
「なんで知ってるの?」
 父さんと一緒に行かなかった事……。
「お墓で会ったからに決まっているじゃない。類は来ていないって言ってたわ。……後から1人で行ったの?」
 ……行ってない。
 ……。
 だからか昨日、母さんが枕元に立って化けて出た……。なんて言ったらさらに怒られそうなので、俺は黙っていた。
 俺の沈黙をどう受け取ったのか、杏子さんは続けて話し出した。

「家にも帰らず、時計塔に入り浸ってるって話も聞いたわ。私は一時避難の場所としてあそこを類に渡したのよ。引っ越して住んでいいだなんて言ってないわ」
「……ん」
 俺がいつもの無表情で返事をすると、杏子さんは怒った顔を引っ込め眉を下げて心配顔に変わった。
「……」
「……」
「類……」
 杏子さんはずっと仁王立ちをしていたのに、階段に両膝をつき俺と目線の高さを合わせる。
 キレイに手入れされた手が俺の両頬を包んだ。
「……あまり心配させないで」
「……」
「昔から類とお義兄様が少しギクシャクしているのは知ってるわ。こんな時、お姉様が生きていたらきっと間に入って取り持ってくれるのに……って思ってしまう。でもそれが叶わないから、……だからせめてもの息抜きにと思って、時計塔の鍵を渡したのよ。決して2人の中を引き裂くためじゃないわ」

 ……知ってるよ。
 杏子さんの気持ちは。
 何で杏子さんがそんな泣きそうな顔してるの。

 最初は一日数時間だったんだ。
 時計塔の中で過ごす時間は。
 夜はちゃんと家に帰って寝てた。

 でも次第に家よりもずっと楽でいられる時計塔で過ごす時間が長くなっていった。


 あの自殺から、父さんは一度も裏切った母さんの事を悪く言わない。
 と言うよりも、母さんの話題を極力さけているみたいだった。
 最初は怒りや悲しみが父さんの心の中で整理できていないから、……だから母さんの事は口にしないんだろうって思っていた。
 俺も酷く混乱していたし、同じように整理はついていなかった。
 当時、こっそり見たテレビで報道される内容は、まるで別人みたいで母さんじゃないように思えた。

 けれど何年経っても母さんの事を口にしない父さん。
 何も話さず命日の墓参りを欠かさない父さんの姿は、次第にただの義務の様に俺の目には写ってくる。
 すると途端に、汚れたもののように感じた。
 母さんがした事も、父さんの偽善者のような行動も。

 そして俺はそんな2人の息子なんだって思うと、そこから動けなくなる。


「類……」
「杏子さんは母さんの事……どう思ってるの?」
「お姉様の事……?」
 俺の質問に杏子さんは虚を突かれたような顔をした。
「強くてとても優しい方だったわ。私は物心がついた時からいつも6歳上のお姉さまを見習って生きてきた。いつの間にかお姉様の年を超えてしまったけれど、今でも壁にぶち当たるとお姉様ならどうするかなって考えるわ」
 ……不倫して心中するような人なのに……?
 そんな憎まれ口が音を出そうとする直前、非常階段のドアがガチャっと開いた。

「「「……っ!」」」

 あっ。
 牧野……。


 俺と杏子さんを見て、ドアノブを持ったまま固まった牧野と目が合う。
 どうやら話している間に授業が終わり、休み時間になっていたみたいだ。
 杏子さんは俺の頬を触っていた手を放して、立ち上がった。

「こんにちは」
 生徒に会ったらまず挨拶。
 杏子さんは俺に見せていた時とは違い、いつもの理事長の顔をして牧野に声を掛けた。
「ご、ごめんなさいっ。お邪魔しましたっ!」
 牧野は今日も恐らく何かを叫びにきたんだろうけど、挨拶も返さずよく分からない謝罪をした後、何も叫ばず慌てて校舎の中へ戻って行った。

「……」
「……」
「……あの子、勘違いしちゃったかしら」
 多分ね……。
 そう思うが俺は口には出さなかった。
「大丈夫よね……。だって私達が親戚だってこの学園で知らない人なんていないもの」
 学園の理事長の顔を知らない人なんていない。
 それに俺が理事長の甥だって事は有名だ。だから普通は誤解なんて生まれないものだけど……。
「牧野、高等部からの外部生だから、杏子さんの顔知らないかも……」
 杏子さんは普段高等部にはいないし、この前の体育祭も欠席だ。
 牧野が杏子さんの顔を知らないって可能性があるような気がする。

「え? 何……今の子って、類の知り合いの子なの?」
 驚いて目を見開いた杏子さんが俺に聞いてきた。
「ん」
「ん……って、何落ち着いているのよ。早く追いかけて誤解を解きなさい!」
「……? なんで?」
「なんで……って……」
 牧野が誤解しようがどうしようがどうでもいい。
 だって関係ないじゃん。
 どんな誤解をされようが……。


「牧野さんって言うのね。類、あの子の事好きなの?」

「……え?」

「類が女の子に興味を持っただなんて初めて知ったもの」
 好き……?
 興味を持つ?

 確かに牧野の事は気になる。
 気になって落ち着かなくて、全速力で走った事もあった。
 どうしているんだろうっていつも考えてしまう。

 ……それが好きって事?


 ああ……そうなんだ。

 俺は誰も好きにならないって決めていた……。
 父さんと母さんを見ていたから。
 そういう好きとかなんていう、人が持つ感情を信じられないって思っていた。
 そんな俺なのに、牧野の事だけはどうしてか気になり、もっと知りたいもっと近づきたいって思ってしまうのはそういう事だったんだ。


 ……。
 ……。
 けど、今更そんな事が分かっても……。

 俺達は、不倫した親同士の子供。
 昨日からある胸の中の重いものが、さらに重さを増した気がした。


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Posted by桃伽奈

Comments 2

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2018/02/19 (Mon) 20:48 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

て様
 訪問&コメントありがとうございます。

 気になるところで話が終わる事が多いですよね;;
 ちょうどいい途切れ目(?)が難しく……いつもこんな感じになってしまいます^^;
 類パパが内緒にしていることや、その他諸々……そのうち明らかになるように今後も書き続けたいと思います。

 まだ書いている途中ですので、上手くまとめられるかまだ不安はあるのですが……最後まで頑張りたいです♪
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/02/20 (Tue) 13:41 | EDIT | REPLY |   

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