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種と蕾の先へ 54

桃伽奈



あきらside

 英徳学園のF4専用ラウンジで、俺は類と二人っきりになったタイミングで先日のなのはな更生施設の職員、中川とのコンタクトに失敗した経緯を詳しく説明した。
 バイク便から手渡されたDVDのコピーを見た類は、「……そっか」とだけ呟き黙り込んでしまう。
 こんな類の表情も初めて見たような気がする。
 よく作りかけの機械やプログラムの事を考え込んでいる時も、心ここにあらずのような表情はよくしているが、今日の類はどこかすっきりしていない……少しもワクワクした表情を見せない。

 結局あの映像が何なのかハッキリしなかったから……っていうよりも、原因は牧野……だよな。

 体育祭の辺りから、類は牧野の事を意識しているみたいだった。
 手を繋いで運動場のトラックを2人で歩いたと思ったら、俺達F4の名を使って牧野を守るし……。

 お袋が手続きをし、この学園の高等部へ進学した牧野。
 その際、父親は美作商事で働いていると書類を提出した。
 昨日、類に美作商事の社員じゃなかったと連絡をし終えた後、なんで牧野がそんな嘘を書いたのかお袋なら知っているかもと思い聞いてみたりもしたが、のらりくらりとかわされてしまうだけで何も収穫はなかった。


 初めて類が気に掛けた女の子。
 最近、牧野限定ではあるが、人と向き合うようになってきていた。

 良い方に向かっていると思っていたのに……。


 誰かを特別に想う気持ちを覚え始めた子供が……相手に裏切られたら、そいつはどうなるんだ……?
 他人事とは思えない不安が自分を襲ってくる。
「なぁ類、どうしたんだ?」
 自分の中で悶々と考えていても結局分からず、もっと俺達を頼れよって気持ちを込めて類に声を掛けた。
「……べつに」
「嘘つけ。明らかに昨日から様子が変だろうが! 原因は牧野なんだろ?」
「……」
「……」
 俺が辛抱強く待っていると、やがて類はポツリと話し出した。

「……牧野の……」
「……」
 ……やっぱり牧野だよなって思いながら、俺は目で頷いた。
 まだどこか躊躇っているのか類の口は重たい。
 それでも話せば少しは何か変わるかも知れないだろ。
 俺に出来る事があるなら手を貸すって気持ちで、膝の上で組んだ手に力を入れた。

「……母さんと心中した男が牧野の父親みたい」

 ……は?

「それどういう意味だ?」
 類の母親が男と不倫して心中したって話は知っているが、その相手の男が牧野の父親!?
 驚きで力を入れていた手が解ける。
「……昨日、母さんと牧野の父親の命日が一緒だって教えてくれたじゃん」
「ああ。けど、それは偶然だろ?」
「椿姉ちゃんに聞いたんだけど、母さんの不倫相手って牧野って名前らしい」
「……!?」
 類の母親と牧野の父親が同じ日に死んで、類の母親と一緒にいた男の名前も牧野……。
 これは偶々同じ名前の人が……って確率は低い気がする。
けど……。
 まさかっ。
「嘘だろ……」
 思わず出た呟きに、類の冷めた視線がぶつかる。

 その視線を受け止め、俺は否定できる可能性を必死に探した。
 親父もお袋も、類の母親の死について話している姿を見た事がない。
 だから俺は類の母親の相手男性について何も知らなかった。週刊誌やネットで読んで知った一般男性って事だけだ。
 お袋はいつも「里佳子先輩を尊敬している」と言って毎年墓参りを欠かしたことがない。
 それほど慕っている人が類の母親だ。
 なら当然、その同乗していた相手の事も調べて知っているのかもしれない。
 訪ねて……答えを貰ったらいいのか?
 ……それは「牧野」違いだって……。
 その可能性は本当にあるのか?

 お袋と牧野の接点は、母親同士が友達だったからだ。
 学生時代同じ部活に所属していたなら、牧野の母親は類の両親とも面識があるだろ。
 牧野の父親はどこの学校を出身なのかとかは分からないが、母親の繋がりで俺達の親とも面識があったのかも知れない

 お袋の様子を見ていると、牧野の事をとても可愛がっているようだった。
 それは嘘ではない。
 お袋は車に同乗していた「牧野」を恨んでたりしないのか?
 類の母親の命を奪った男を。

 尊敬していた先輩の不倫相手の娘。
 その娘を「つくしちゃん」と呼んで、面倒見るのか……?
 いや、親の罪を子供に被せたりはしない。
 泣き虫で甘えたなお袋だけど、そういう線引きはキッチリしている。


「……牧野は知っているのか? 類の親と自分の親が……って」

「さぁ……聞いた事はないけど」
 もしかして知ってて類に近づいたと思っている?
 視線を下に移した類は、そのまま口を閉ざした。


 暫くお互い無言でいると、ドアの向こうに聞き慣れた声が聞こえてくる。
「おっ、やっぱりいたな」
「お前らちょっとサボり過ぎだぜ」
 勢いよく開けられたドアと共に、司と総二郎が軽口を叩きながら中に入ってくる。
 今までこの部屋に合った重い空気が何も知らない2人の登場で一気に変わった。
 俺も2人の調子を合わせて返事をする。
「ちょっと真面目に授業出たくらいで……。いっとくがこの4人の中じゃ俺が一番出席率いいからな」
「そーか?」
 俺の言葉に総二郎はやや納得いかないって顔をしつつ、向かいに座る類に視線を移した。
 司も類の横に座り、ジッと顔を見る。
「それで、この前の夜はどうだったんだ? 俺らが起きた時、類も牧野も屋敷を出た後だったじゃんか」
「そうだ。あれだけお膳立てしたのに、事後報告なしとはどういうこった?」

 ……あっ。
 今の類に牧野のそういった事は禁句だ……。
 俺の不安をそのままに、下を向いていた類の瞳が鋭くなる。
「お、お前ら……ちょっと待……」
 待てよと声を掛ける前に、総二郎も類の横に座り肩に腕を回しながら、
「恥ずかしがらずにお兄さんに言ってごらん」
 なんてからかい交じりの冗談を口にした途端、類が腕を払いのけ立ち上がった。
「……うるさい」
 低い声の小さい呟きは、いきなり立ち上がた事で虚を突かれた顔をする俺達の耳まで届く。
「うるさいってなんだ? 類っ!」
「ま、まぁまぁ……」
 同じように立ちあがり掴みかかろうとする司を抑えると、類はそのままドアまで歩いて行き部屋から出て行った。
「虫の居所が悪いみたいだから、勘弁してやれよ」
 詳しい理由は話していいか迷い、当たり障りがなさそうな事で濁した。

「ひょっとして、類の奴……失敗したのか?」
「ああ、そういう事かよ。結構酒が入ってたもんな」
 ……いや、違うと思うが……。
 だが俺は否定も肯定もせず、黙ったままでいた。
「ちゃんと手ほどきを伝授してやればよかったな。司の時はちゃんと教えてやるから安心しろよ」
「いっ、いらねぇよっ」
「今から教えてやろうか。じゃないと、いざって時に類みたいになるぞ」
「……うっ」

 顔を真っ赤にさせて押し黙った司を見て、俺は苦笑いがこぼれた。



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Posted by桃伽奈

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