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種と蕾の先へ 56

桃伽奈



つくしside

「あの夜、何かあったか?」
「あの夜?」
 いつの夜のこと? って聞くと、ちょっと怒った顔を見せた美作さんは、「2人して同じ反応するなっつーの。類と一緒に司の家に泊った日に決まってんだろ」と呆れたように言った。

 ……ああ、あの夜の事。
 花沢類とキスをした夜……。
 思い出すと途端に顔が赤くなった。
 だ、だから、あれは酔った勢いだってばっ!
 花沢類にはくぎを刺されているし、あの美人の年上の人の存在だって……。
 嫌な事を思い出すと、高揚した頬が急速に冷えていくのを感じた。
 そんなあたしの態度を見た美作さんは、
「お前は、類と違って分かりやすいな」
 と呟いた後、「けどあの類がな……」「だからだよな……」なんて1人でブツブツ言っている。

 やがて考えをまとめた美作さんは改めてあたしに向き直った。
「お前さ、俺達に……類に嘘ついてるだろ」
「嘘……!?」

 ……あたしが花沢類に嘘……!?

 花沢類にはなぜか話してもいいって気持ちになってしまい、今まで人に話した事もないような事を沢山話してしまっている気がする。
 部室棟で初めて一緒になった時、ママはもう死んでいてパパとは駆け落ちしたって話とか。道明寺さんの家で2人っきりになった時は、英徳学園には裏口入学で入ったとか……。
 あのビー玉のような瞳を見ると、嘘をついたり誤魔化したり出来なくなってしまう。
 これが惚れた弱みか……なんて人は言うのかも知れないけど……。
 けどそんなあたしでも一つだけ話せていない事がある。
 仕事の事だ。
 ヤスやヒロと一緒にしている便利屋みたいな仕事。
 これだけはまだ話していない。

 でもなんでその事を美作さんが知ってるの?
 夢子さんにも話してないのに、どこからバレたんだろう。
 ……あ、もしかして美作の諜報員の人から?
 この前の公園でヤスと一緒にいた人達。
 でもあたしの名前は知らないはずだよね。直接は会った事ないもん。あたしがドローンのカメラから見て一方的に知っているだけだし……。

「お前の父親の勤め先を美作商事って書いて学園に提出しただろ」
「え……?」
 学園に出した書類? って、入学前に名前や住所を書いて提出したやつの事?
「お袋にそう書けって言われたからか?」
「ち、違うよ。夢子さんは関係ない。だって、父親の職業欄ってあったから正直に書いただけだよ」
 やっぱあそこは空欄の方がよかったのかな……。
 でもパパがあそこで働いていたから、ヤスやヒロに出会えて今のあたしがいる。そう思ったら、つい記入してしまっていた。
「けどいないだろ」
「それは、パパはもう死んじゃったから」
「そうじゃなくて、調べてみたら在籍していた記録が残ってなかった。学園も俺のお袋の紹介で入ったお前ならって事で父親の職業をいちいち確認しなかっただろうし、今まで発覚しなかったのかもしれんが……」
「ま、待って。あたし嘘ついてないっ。パパは確かに美作商事で働いてたよ」
「……?」
「……」
「……」
 お互い見つめ合い無言になった。
 あたしは嘘なんてついていないし、美作さんだって嘘をつく理由が見当たらない。

 ってか、美作さんがいう嘘ついているって話は、あたしの仕事の事じゃなくパパの職業の事?

「……どういう事だ? 牧野、お前は父親がどこで働いていたのかを覚えているのか? 父親が亡くなった時って5歳くらいだよな」
 なんでそんな詳しく知ってるのって疑問に思うが、今は質問に答えるのが先だと思い黙っていた。
「パパが……仕事が終わって、保育園へ迎えに来てくれた事は覚えている。けどその時、はっきりと会社名までは知らなかった……と思う。パパが死んだあと、引き取ってくれた人達が教えてくれたから。美作商事だよ……って」
 説明すると美作さんはまた考えるように、黙り込んでしまった。
 まさか今度はパパの事を教えてくれた、ヤスやヒロ達の事を疑っているんじゃ……。
 でもここで彼らの名前を出していいのか悩んでしまう。
 美作さんは美作商事の跡取りだと言っても、諜報員が所属する営業8課の海外事業部はじつは存在しない部署、いわば裏の姿だ。
 まだ学生の美作さんがどこまで会社の事を知っているのかあたしは知らない。

 あたしがどうしようか迷っていると、
「まぁ、それは置いておいて……。話が逸れたな。本題はそこじゃなく……」
 と切り替えてきた。
「……?」
「お前が類の事をどう思っているかってのと……って、それはさっきの態度でモロバレだからもういい」
 モロバレって……。
 あたしが花沢類を好きだと、美作さんにもバレちゃったって事?
 ヤスにもすぐバれちゃうし……。あ、あたしってそんなに分かりやすいわけ……?

「もしかしたら類に害をなす事でも考えているんじゃないかって思ったけど」
「……は? 害? なにそれ?」
 あたしが花沢類に?
 なんで?
「ああ、だから俺の勘違いだって分かったしもういい」
 いやいや……あたしは全然もういいって気持ちになれないんですけど……。
 なんでそんな風に思われていたわけ?
 あたしとは逆に、もう話を蒸し返す気のない美作さんは先を進めた。

「類の事をさ、大切に思うなら隠し事しないであいつに歩み寄ってくれよ」
「……歩み寄る?」
「類はあんな性格だから……自分からはなかなか前に進めないと思うし。昔から引っ込み思案っていうか、1人でいるのが好きな奴でさ……」
「うん」
「俺、類の事は幼馴染みで友達だけど……時々手のかかる弟みたいに感じることがあってさ」
 ……手のかかる弟。
 何となくイメージできるような気がする。
「ああ、今の話は類には内緒な」
「うん」
「牧野の事はなぜか妹みたいに思えるな」
 い、妹……? 
 たしか夢子さんの話では双子の妹がいるって話だけど。
 あたしの顔を見て何を思ったか読み取った美作さんは「そうじゃなくて」と言った。
「あいつらと一緒にするな。そういう感覚じゃなくて……。うまく言えないけど、類が弟だって思うなら牧野は妹だって感覚だ」
「……?」
 美作さんは花沢類だけじゃなく、道明寺さんや西門さんの事も弟みたいに感じている時があるんじゃないかって思う。
 神経質っぽく見えるからこその、世話役みたいな役割?
 その中にあたしが妹枠で入れて貰えているって事……?

 そんな風に考えていると、美作さんは優しく笑って、
「親は親で、子は子だろ。俺はお前達は話合うのが一番だと思う」
 と言ったが、最後のこの言葉の意味がよく分からなかった。


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Posted by桃伽奈

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