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種と蕾の先へ 57

桃伽奈



つくしside


 よく分からないモヤモヤを抱えたまま、あたしは次の日を迎えた。
 昨日話した美作さんとの会話で理解できたのは、とにかく花沢類と話をしろって事だ。
 あたしが秘密にしている仕事の事……。
 あの年上の女性の事も……。


「……牧野さん、大丈夫? 具合悪いの?」
「……っ?」
 教室の自分の席でずっと考え込んでいたら、クラスメイトの遠藤さんが心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
「保健室行く?」
「あ、あぁ、ごめん。平気。ちょっとボーっとしてただけだから」
「そう?」
「うん。ありがとう」
 よく見ると彼女は教科書などの筆記用具を手にしていた。
 クラスメイトも同じように筆記用具を手にし、教室を出て行こうとしている。
「次、移動だっけ?」
「うん。科学室だよ」
「そっか、ありがとう」
 お礼を言ってあたしも移動の準備をし廊下へ出ると、遠藤さんがあたしの横に並んで歩き出した。
 ……?
 もしかして一緒に行こうって事なのかな?
「あの……」
 あたしが声を掛けようとすると、「ごめんね」と遠藤さんの声が被った。

 ……ごめんね?
 なにが?
 あたし彼女に謝られるような事されたっけ?
「赤札の事で……牧野さんを……」
「ああ、気にしないで。誰だって怖いもん。あれの対象にされるかもって思うと」
 夏休み明けの9月、赤札の対象となったクラスメイトの榎本君が、変わり果てた姿で荷物の整理をしに登校してきたのを見たばかりだ。
 遠藤さんやクラスの人があたしを遠巻きにするのは理解できる。
 だからあたしは努めて明るく言った。
 そんなあたしの態度を見て、遠藤さんは安堵の息を漏らした後、
「私ね。赤札の話がされる前から、ずっと牧野さんとは親しくなりたいなって思ってたんだ」
 と少し遠慮したような笑顔で話しかけてきた。

「……え?」
 あたしと仲良く……?
 思い出してみるとあたしが学園を休んだ次の日とか、よく「もう大丈夫?」と声をかけてくれていたのは遠藤さんだった気がする。
 移動教室がある時とかも今日みたいに……。
 赤札宣言や椿お姉さんが登場して疎遠になったクラスメイト達だが、遠藤さんだけは戸惑いつつも挨拶をしてくれていた。
「私クラスの人達の雰囲気はちょっと苦手で……」
「ああ、それは分かる。あたしもブランド品とか持ってないから、話が合わないし」
「うん私も。親はあんな高い物なんて絶対に買ってくれないもの」
 あたし達は目を合わせ笑い合った。

 ああ、あたしクラスメイトと話をしていて、こんなに笑顔になったのなんて初めてかも知れない。
「あ、私の事は真木子って呼んでね」
「うん、あたしもつくしでいいよ」
「じゃあ、よろしくね。つくしちゃん!」
「こちらこそ、真木子ちゃん!」
 この学園で、下の名前で呼び合う友達が出来るなんて思わなかった。
 友達宣言みたいな事は少し照れくさかったけど、やっぱり嬉しい。
 最近、周りからは腫れ物に触るような扱いを受けていたから、余計にそう感じた。


 あたし達は他愛もない話の続きをしながら移動教室へ向かう途中、お互い少し浮かれてハイになっていたせいか階段を下りている真木子ちゃんが足を踏み外した。
「……っ!」
 視界の右側に入っていた真木子ちゃんのバランスが崩れたのに、本人よりも先にあたしが気づいた。
「……え?」
 続いて真木子ちゃんの驚いた声が耳に届く。

 スローモーションのように時間が流れる瞬間。
 このままいくと真木子ちゃんは間違いなく階段下まで背中を打ち付けながら、滑り台で滑るように落ちていく。
 あたしは落ちる直前の真木子ちゃんの襟首を掴み落ちるのを塞き止めると、彼女の右腕を自分の方に寄せて真木子ちゃんの体を反転させた。
 真木子ちゃんの足はもう階段を踏んでおらず空中に投げ出されているから、膝くらいは打つかもしれないけど勘弁してほしいって思う。
 彼女を引っ張り上げたと同時にバランスを崩したあたしも階段から足が離れて、階下へ体が落ちていく。
 滞空期間の間に真木子ちゃんが階段にしがみついて落ちずに済んだ事を確認した。
 今度は自分の番だ。
 体が浮いた状態で腕を伸ばし、一度途中の階段に手をつく。
 着地地点は階下の廊下。そこに人はいない。
 場所を決めると体操選手が体を捻りながらバク転をするように、あたしも勢いをつけて手を床から放し、再び空中で体のバランスを整え無事目的の床へ着地できた。

「……ふう」
 と軽く息をついて上を見ると、階段と抱きしめ合っている半泣き状態の真木子ちゃんがいた。
「大丈夫?」
「つ……つくしちゃんこそ……」
「あ、あはは……。なんか運よく着地できちゃった……」
 これで誤魔化されてくれないかな……って思いながら話すと、まだ少し震えている真木子ちゃんは「……た、体操選手みたいだったよ」と言った。
「た、たまたまだって……。同じ事しろって言われても、もう無理」
 苦笑いで答えると、真木子ちゃんも小さく笑って立ち上がった。
 よかった。大きな怪我はしてないみたい。
 あたしがホッと息をつくと、階段を下りようとした真木ちゃんがあたしの後ろに視線を動かし驚いた顔をした。

 ……?
 何?
 あたしが振り返ると、バチっと音が鳴ったかのようにビー玉のような瞳と目が合った。


 ……。

 今の……見られた……?


 最初は驚いたように大きく目を開いていたが、それが疑惑の色を出すと、……ああダメだ。この人は真木子ちゃんみたいに騙せないと感じた。
 この場にいるのは彼1人で、他のF3はいない。

 『隠し事しないで類に……』

 昨日の美作さんに言われた言葉が頭の中に響いた。
 話してしまう……!?
 全部……。

 きっと他言はしない。
 それだけは確信出来る。花沢類はそんな人じゃない。
 あたしが裏口入学をした……って勘違いして告白した時も、軽蔑しないって言ってくれた。

 あたしの仕事を……。

 そう結論を出そうとすると、あの年上の女性と親しくしている姿がフラッシュバックした。


 花沢類はあの人の事をどう思っているんだろう。
 特別な人……だよね。

 でもハッキリと彼の口からそう言われるのは想像したくない。

 怖い。
 知りたくない……。


 そう思うと体が勝手に走り出していた。

「牧野っ!」

 花沢類があたしの名前を呼ぶのが後ろから聞こえる。
 けどあたしは立ち止まらず、廊下を走り続けた。

 後ろから花沢類が追いかけてくる気配を感じたから、構わず全速力を出した。


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Posted by桃伽奈

Comments 4

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2018/02/23 (Fri) 21:37 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/24 (Sat) 00:52 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

な様
 訪問&コメントありがとうございます。

 いつもありがとうございます♪
 類にどうやってバラそうかなってすごく考えたんですが、すでにつくしちゃんの事は疑っていたんで、目の前で決定的瞬間を見せちゃえって軽い気持ちで書きましたw
 つくしちゃんもいろいろパニック状態なので、もう逃げる事しか頭にありませんww

 ブログ上では「種と蕾の先へ 55」「種と蕾の先へ 56」っていう感じでいつも表示しているんですが、ボケボケの私は当然そんな書き方ではどのシーンが何話に書いてあるか把握出来ません^^;
 ですので、パソコン内ではいつもサブタイトルをつけて保存しております。

 次回のサブタイトルは「追いかけっこ」
 類から逃げ切れるか、捕まるか……。結果はもう少しお待ちください<(_ _)>
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/02/24 (Sat) 08:24 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

凪様
 訪問&コメントありがとうございます。

 いつもありがとうございます♪
 自らバラすドジっぷりがつくしちゃんだよね……なんて思いつつ、類は真木子ちゃんと違って騙されない……美作さんの話や、一緒にいた女の人などなど、いろいろ考えちゃうとキャパオーバーになり「その場から逃げる」しか選択できなかったみたいですww 
(↑みたい……って^^;)
 
 次回のサブタイトルは「追いかけっこ」
 類は追いつけるか、取り逃がすか……w
 結果はもう少しお待ちください<(_ _)>
 ですよね……。そろそろ誤解を解いてスッキリさせたいところですww
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/02/24 (Sat) 08:39 | EDIT | REPLY |   

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