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種と蕾の先へ 59

桃伽奈



類side

 俺はまた走ってしまった。
 牧野が階段から落ちた姿を見て……。
 いや、あれは一緒にいた女子生徒を助けるためにワザと落ちたに過ぎない。

 不倫同士の子供……。
 俺に近づいた理由は知りたいと思ったが、それ以上にもう牧野とは関わらない方がいいと思った。
 でも俺に背を向け走る姿を見ると、気が付いたら追いかけていた。
 全速力で。
 これが「好き」って感情からくる行動なのかと思うと、頭では考えず自分の気持ちに従うべきかと追いかけながら考えた。

 追いついて……捕まえた時は安堵した。
 腕の中に牧野がいる。
 それがやはり嬉しくて、牧野から話を聞きたいと答えを出した。
 牧野の事を……。
 1つずつ、教えて欲しい。
 聞いて……。やはり聞かなければよかったと後悔するのは、また別の話だ。



 そして話を聞き、子供に父親の遺体を見せたって事は、見せても大丈夫だと周りの大人が判断したからだろう。
 だから本当に交通事故なのか確認をしたくなった。

 母さんと一緒にいたのが本当に牧野の父親なら、死因は事故じゃない。
 車の中で炭を燃やした一酸化炭素中毒で死んでいるハズだ。

「牧野の父親が交通事故だって話は誰から聞いたの?」
「パパの会社の人」
 会社……。
 美作商事に務めていると書類を提出していたが、あきらによると社員名簿に載っていない。
 父親の本当の勤め先……って。

「どんな仕事してたの?」
 俺の質問の意味を理解したのか、ずっと正面に見える空を見て話していた牧野が俺の顔を見た。
 黒曜石の大きな瞳が俺を見つめる。
 目が少し揺れ、迷ったようなそぶりを見せた後、
「パパの仕事について、誰にも言わないって約束して」
 と確認をしてきた。
「ん。守る」
 俺の返事を聞くと、牧野はまた正面に見える青い空を見た。
 それでも言うのを悩んでいるのか10秒程空を見続けた後、握っていた手に力を込め、口を開いた。

「パパは、美作商事の諜報員だったの」
 ……。
 ……え?
 ……あきらのとこの諜報員……。
 思ってもみなかった職業に俺は驚いた。
 が、すぐ大事な事を思い出す。
「あきらは名簿に載ってないって言っていたけど……」
「それはあたしも美作さんから聞いたから知ってる。何でかは知らないけど……。でもパパがそこで働いていたのは確かだよ」
「……」
「……多分、ヤス達なら知っているかもしれない」
「ヤス?」
「パパが死んであたしと進を引き取って育ててくれた人達。あたしの今の保護者」
「達って?」
 何人もいるって事?
「ヤスとヒロの2人。パパの同僚だった人」
「同僚って事は、その2人も諜報員?」
「うん。でもパパが死んだときに退職したから」
 今は違うと話す牧野。

 一般家庭で育ったとばかり思っていた彼女の家庭環境に、少しずつパズルのピースが埋まって行くのを感じた。
「この前、学園の塀を飛び越えてたよね?」
 さっきの追いかけっこの時、廊下の窓を軽く飛び越えた牧野と、塀を飛び越えた女の子がダブって見えていた。
「み、見てたの……!?」
 今までの雰囲気と違い、顔を真っ赤にさせて動揺を見せる牧野に、俺も自然と肩の力が抜けた。
「ん。非常階段を駆け下りてるところから」
「あ、あそこからっ……」
 人の気配はなかったのに……なんて呟く牧野に、俺は時計塔から見ていたからかなって思う。
「なんで体が弱いだなんて嘘ついてたの?」
「……」
「……牧野?」
「……あたしが人より身体能力が高いっていうのは分かってたけど、加減が出来ないから……目立つことは避けた方がいいって思って」
「目立つとダメ?」
「……ダメっていうか……。目立つと色々面倒くさいかなって思って。今、あたしはヤスとヒロに教わって便利屋みたいな仕事を手伝ってるの。平日に休む事も多いから、その方が都合よくて」
「ふーん……」
 便利屋……?
 美作の元諜報員がする仕事を手伝うって事は、逃げ出した猫探しとかじゃないよな。
 テレビでよく見るゴミ屋敷の掃除とも違う気がする。

「便利屋ってどんな仕事?」
「……え? ……でも……依頼者の守秘義務があるから……」
「話せる範囲でいいから教えて。最近はどんな仕事をしたの?」
「えっと……金持ち坊ちゃんの素行調査とか、お屋敷に侵入してブローチを取ってきたりとか」
「取るって事は泥棒?」
「ち、違うっ。最初は向こうが取ったの。あたしはそれを取り返しただけ。……でも、あたしがしたのはそうかも……」
 牧野はバツの悪い顔をし、最後は自信なさげに小さい声になる。
「ごめん。責めたわけじゃないから。……お屋敷って事は大きいんだよな。どうやって入るわけ?」
 ただ興味があるから聞いているんだって言うと、気を取り直した牧野は教えてくれた。
「それは色々その時によって違うけど、この前は事前に家の見取り図と防犯カメラの位置が書かれたものを入手していたから、カメラの死角から中に入っていった」

 ……カメラの死角。
 英徳の塀を飛び越える時も防犯カメラの死角だった。
「英徳学園のカメラの位置も知ってるの?」
「……うん」
「どうやって?」
 当然カメラの位置なんて、一般には公開されていない。
 いや設置場所くらいは図面に載っているかも知れないが、だからといってピンポイントに死角を予想するのは難しいんじゃないのか?
「入学する時、ヒロに教えてもらった」
 ……。
 つまりそれは、ヒロって人が英徳のデータベースに侵入したって事か……。
 そこから実際のカメラ映像と英徳の見取り図を照らし合わせて、死角を探し出した。
 英徳のセキュリティは意外としっかりしている。
 全国の名のある名手の子供達を預かっているんだから当然だ。
 簡単に破られるはずがないから、牧野を育てたヒロって人がどれだけすごいハッカーなのかよく分かる。
 まずはあのカメラの死角問題だよな。
 今度杏子さんに会った時、言っておかないと……。

「……軽蔑した?」
「……え?」
 自分の考えに没頭していたら、牧野が不安そうにこっちを見上げて見ていた。
 俺が黙っていた事を、別の意味で捉えたらしい。
「してないよ。牧野がどんな風に育ったのか想像してた」
「……」
「あと杏子さんに言っておこうって」
「杏子……さん?」
 彼女の名前を出すと、牧野は途端に顔色を青くした。
「ああ、別に牧野の事を言うんじゃないから」
 ただ学園のセキュリティ面で伝えるだけだ。それだって牧野の事は伏せて、俺が自分で気づいたって言えば杏子さんは疑ったりしない。
 そう伝えたが牧野の顔色は戻らなかった。

 信号機のように、よく変わる牧野。
 俺はそれを見るのが密かな楽しみに感じているが、やっぱり青よりは赤の方が可愛いいと思う。
 さっきみたいに動揺して赤くなった顔の方が好きだ。
「牧野……? 何か不安があるなら言って。杏子さんは別に牧野を罰したりしないよ」
「罰したり……?」
 オウム返しに聞いてくる。
「……」
「……」
 俺は牧野の心にある不安が口から出るのを辛抱強く待った。



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Posted by桃伽奈

Comments 4

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2018/02/27 (Tue) 20:40 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/28 (Wed) 10:10 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

わ様
 訪問&コメントありがとうございます。

 はじめまして。こんにちはw
 つくしちゃんの仕事を類君に話す事が、このお話の通過点だと思っておりますので、ここからさらにお話が先へ進んで行く予定でおります。
 育ての親についても今後出演回数が増えるかとw
 まだ謎な部分も多いですが、これまで出て来た切れ端(?)をゆっくり復習しながら明かしていこうと思います。
 蓋を開ければそんなに難しいお話ではないかもしれませんが……^^;

 まだ最後まで書き終わってないのでドキドキですが、ブログのカテゴリ欄に「完」が付けられるよう頑張りたいと思います♪
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/02/28 (Wed) 13:40 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

凪様
 訪問&コメントありがとうございます。

 いつもありがとうございます♪
 やっと2人が話すところまできました^^;
 思っていたよりも長くなってしまいましたが……w
 ですです。まずは勇気を出して不安を打ち明けねば……。

 書きながら一瞬頭を過った、誤解して憎しみ合う(?)ような2人は書けませんでしたww
 やっぱりラブラブな類つくで、その上で何か事件が起きてくれないと……なんて思っちゃいます^^;
 
 ゆっくり復習しながら、ややこしい部分は進めていく予定です><;
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/02/28 (Wed) 13:41 | EDIT | REPLY |   

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