Welcome to my blog

種と蕾の先へ 70

桃伽奈



つくしside

 ついにお父さんが家に帰ってきた。
 じつは花沢類の家に来た時から、すごく緊張していた。
 来た時というか、武家屋敷みたいな家を見た時からかな。
 道明寺さんの家の豪邸とはまた違った迫力があって、緊張を紛らわせようと別の事を考えていた。
 それがこの家のセキュリティはどうなのかな……みたいな事なんだけど、それを花沢類にズバリと言い当てられた時はビックリした。
 別に泥棒みたいにこっそり入ろうと思って考えていたわけじゃない。本当に気を紛らわすため。
 あ、でも花沢類に道明寺さんの家に行った時でも同じことを考えたって話した時は、ちょっと不機嫌になってしまったように感じた。
 不法侵入者から友達を守ろうだなんて花沢類って意外と友達思いだなって思いながらも、実行したりはしないって言ったら信じてくれたのか、逆にいろいろ聞いてきた。

 ここに来た本当の理由を忘れるくらい話に熱中していると、使用人の人の控えめなノックでお父さんが帰宅したのだと知らせが入る。
 き、来たっ!!
 途端に和やかな空気に緊張が走った。
 背筋をピンと伸ばして、隣にいる花沢類をチラッと見る。

 ……。
 ……?
 あの時と同じ顔をしている……?
 ヤスとヒロの家で、『お父さんと話をしたら」って言われた時と同じ……無表情の顔。
 キレイな顔の人って、表情が無くなるとちょっと怖く感じるよねっていうのは、花沢類を見て知った。
 緊張しているって事かな。
 喧嘩中の人と話すのって勇気がいるよね。
 最初の一言……。
 あれだけ言えれば、あとはもう何とかなるんだろうけど……。


 屋敷の廊下を、花沢類の後ろを歩いて進むと、一つのドアの前で足を止めた。
「ここ?」
「ん」
 この中にお父さんがいるんだ。


『類君がお父さんと話をするのに勇気がいるっていうなら、つくしもついていってあげなよ』

 うん。
 そのために今日あたしがここにいるんだし。
 あたしは立ち止まった花沢類の手を自分の手でギュッと握った。
「……?」
「あのね、花沢類」
「……」
「「ごめんなさい」だよ。仲直りの言葉は」
 いつもより大きく開いたビー玉のような花沢類の瞳をしっかり見つめ、握った手に力を込める。
「口に出すのは勇気がいると思うけど、言わなきゃいけない事はちゃんと口にしないといけないから」
 花沢類が誤解したのは、ずっと黙っていたお父さんにも原因はあると思う。
 だからお互いに「ごめんなさい」ができれば……。

「これはね、魔法の言葉なんだよ」
「……牧野」
「あたしもね。よくヤスや進と喧嘩した時なんかは、どっか胸にしこりが残って素直になれなくても頑張ってこの言葉だけは口にしたんだ。そうしたらね、向こうも同じような顔をして魔法の言葉を口にするの。それから思っていた事をちゃんと話していって……。次第にわだかまりがなくなるんだ」
「……そんなに上手くいくもの?」
「うん……」
 家族だから。
 多分、そのせいもあるんだろうって思う。
 いつも遠慮しないで言い合えるのも家族だから。
 そのせいで行き過ぎてしまう事があるけど……。でも本気で許してくれないだなんて、思ったりしない。
 
「大丈夫。花沢類ならちゃんと言えるよ」
「……ん」


 花沢類は真っすぐドアを見て深呼吸をした後、ノックをして部屋の中に入った。
 あたしも続いて中に入ると、部室棟にあったパソコンの中の写真に面影を残した男性が立っている。
 当然だけど写真よりも年を取っていて、少しキツくなった眼差し。
 学生時代と違ってどこか影のある感じが、この十数年苦労したのかも……と思わせる。
 お父さんは息子の姿をチラっと見た後、後ろに立つあたしに目を向け、少し目を大きく開かせた。

「……君は」
「あっ! 初めまして。花沢類の後輩で牧野つくしです」
 自己紹介をすると、お父さんは少し視線を柔らかくして懐かしい者でもみるような表情になった。
「……千恵子の娘か。似ているな」
「夢子さんにもそう言われました。ママとは親しかったんですか?」
「あの2人は私が3年の時、1年生として情報処理部の部活に入って来たからな。確か自己紹介が「負けず嫌い」じゃなかったかな?」
 ま、負けず嫌い……。
 ママってそんな性格だったんだ。
 あたしも結構そうなんだよね。組手の練習とかをヤスにしてもらっていた時なんて特に。勝てなくて何回も悔し泣きして、その度にヤスはヒロには大人げないって言われていた。
 性格は顔に出るっていうか……。親子だから遺伝子レベルで性格が似るのか……?

「それで? 私に話があるって事だが何の用だ?」
 そ、そうだ。
 ママの事も聞けて嬉しいけど、今日はパパの事。花沢類のお母さんの事だ。
 チラっと花沢類を見たけど、ジッとお父さんを見ているだけで口を開こうとしなかった。

 花沢類「ごめんなさい」だよ。
 心の中で叫び、念を込めて隣に立つ花沢類を見つめた。

「……」
「……」
「……」
「……牧野……」
「……何?」
「……落ち着かない」
「……?」
 トイレにでも行きたくなった?
「違うから」
「え……?」
「今、あんたが考えてることが手に取るように伝わった」
 呆れたようにチラっとあたしを見た後、再びお父さんに視線を移した。
 お父さんはそんなあたし達のやり取りを見て、小さく息を吐き先に話し出した。

「まぁ、お前達2人が揃って話があるっていうなら、大体想像はつくが……。里佳子と牧野晴夫氏のことだろ」

 そう、……そうです!
 お父さんっ!!
 その事が聞きたいんです。

 あたしは念を込めて花沢類を見ていた視線を、お父さんに向けると「ぷっ」と小さく噴出された。
 ……ぷ?
「いや、失礼……」
 お父さんは取り繕うように咳払いをし、謝罪した。
 横に立つ花沢類はその様子を見てクスっと笑った後、真っすぐお父さんの顔を見て話し出した。
「父さん、週刊誌の記事を鵜呑みにして……母さんの事を信じなくて……ごめん」
 突然の花沢類の言葉に、お父さんは驚いた様子をみせたが、すぐ表情が元に戻る。
「……それはいい。私も何も言わなかったからな。当時の噂がお前の目に触れないよう、キチンと管理していればよかった」
「……」
「……母さんにはちゃんと誤ったか?」
「ん、昨日墓参りに行って来た」
「……そうか」
「……」
「……」

「……いろいろ聞きたい事あるんだけど……」
 言いながら、何からどう聞いていいのか逡巡している花沢類に変わって、今度はあたしが口を開いた。
「あたしからも聞いていいですか?」
「ああ」
「パパが死んでからあたしを育ててくれた人が、お父さんなら詳しく知っているんじゃないかって言っていたんです。パパが死んだときの事、教えてくれませんか?」
「……」
「……」
「……取り敢えず、座りなさい」
 進められてあたし達はソファーに腰を下ろした。
 飲み物はどうする? って聞かれるが、それよりも話の続きが気になったので断った。

関連記事

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply