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種と蕾の先へ 71

桃伽奈



つくしside

 お父さんは正面に座ったあたし達をジッと見つめた後、重い口を開くように話し出した。
「……お前達に話していいのか、私は判断に困っている」
「……?」
「俺は本当の事が知りたい」
 あたしが困るってなんでだろうって思っていると、花沢類は話してと先を促した。


「死んだ時の正確な状況は私も知らない。その場にいたら窓を割ってでも車の中から里佳子を救い出していたからな」
 それはそうだろうと思う。
 ヤス達だって、パパを助けるためにそうしてくれたはずだ。
 でもそれなら、お父さんは何を知っているんだろう……。
 あたしが頷いたのを確認すると、今度は花沢類に話しかけた。
「類は里佳子が車の運転をしていた事を覚えているか?」
「……え? 母さんって免許持ってたの?」
「ああ、正直に言うと……決して上手な方ではなかったが、本人は運転が大好きだった」
「へぇ……」
「赤ん坊のお前の夜泣きが酷い時などは、よく後部座席に乗せて運転していた。何をやっても泣き止まない類が、里佳子の運転だと不思議と眠りについた。大河辺りにその話をすると、お前が気を失ったんだろ……なんて冗談で口にしていたが」

「「……っ!」」
 ど、どんな運転だ……。
 あたしと花沢類は同時に青い顔をした。
 大河って夢子さんの旦那さんだよね。
 そっか……。お父さん同士は同級生だし、仲がいいんだ。

「だから車で事故をして亡くなったって話なら、「ついにやったか……」なんて思ってしまったかもな」
「……」
「……」
 でも事故じゃない。
 本当は違うはずだ……。

「里佳子には高校の時、友達に美鈴という子がいた。同じ情報処理部の部員で、里佳子とは同級生だった」
「「……?」」
「だが2年の9月……。突然行方不明になった」
「……行方不明? それって誘拐とかって事?」
 金持ち学園に通う子供達ならそういう危険は常に付きまとうのか、花沢類はたいして驚いた様子を見せずに質問した。
「……分からない。里佳子は勿論、俺達は家の力を使って彼女の行方を捜したが、結局見つからなかった」
「……」
「そのうちみんな英徳を卒業し、美鈴を見つけ出す事を半ば諦めていたが、里佳子だけはずっと探していた」
 友達ならそうなのかも……。
 お母さんには、とても大切な人だったんだ。
「里佳子は、牧野晴夫氏にも行方を捜して貰えるよう頼んでいて……あの日、亡くなった日には、晴夫氏から里佳子に電話があった」
 ここでパパの名前が出た事に驚いたが、探してくれと依頼していて連絡がくるって事は……。

「美鈴さんが見つかったんですか?」
「ああ……。電話の内容までは知らないが恐らくな。里佳子は家の者に「ちょっと出かけてくる」とだけ言って、自分で車を運転して出て行った。どこかで晴夫氏と待ち合わせをして美鈴に会いに行ったか、お義父さん……里佳子の父親に会いに行ったかどちらかだが……。その途中で亡くなった」
「え? なんでお祖父さんが出てくるの?」
 話を聞いていて初めて登場したお祖父さんの名に、花沢類は驚いた。
「……美鈴は英徳大学病院で入院していたからだ。さっきも言ったが、家の力を使って俺達は行方を捜していた。つまりお祖父さんは、俺達に行方を知らせたくないからずっと伏せていたという事だ……。それを知った里佳子は問いただしに行こうとした可能性がある」
 なんで花沢類のお母さんとパパが一緒にいたのかその理由が分かると、お父さんは更に話を続けた。
「そして遺体で発見された時の車は、里佳子の車と同車種だった」
「……? 同車種って言い方は、正確には母さんの車じゃないって事?」
「ナンバープレートは里佳子のものだった。ダッシュボードに入っていた車の車検証なども全て里佳子名義のものだ」
 ……。
 なら、お父さんは何を疑っているんだろう……?

「だが、ダッシュボードの内側に里佳子が貼ったはずの、類と一緒に撮ったプリクラの写真がなかった」

「「……え?」」

「お前達は知っているか? 車には個体番号というのが存在する」
「個体番号?」
「一台一台の車のロット№だ。この車がいつ、どこの工場で生産されたか分かるようになっている。車のリコールの話などはよく聞くだろう。ディーラーはそのロットを参考にし、対象の車を見つけ出す。車検証にも明記されているが、大体ボンネットを開けると中に刻印されている事が多い」

「……」
「自殺と決めつけた警察は、そこまで追求して調べることはなかった。持ち主は車の中で亡くなり、車検証と車のナンバーが一致していたからな」
 でもお父さんは、プリクラが貼っていない車はお母さんの物じゃないと分かった……。
「そんなのは警察の怠慢じゃないかっ!」
 キチンと調べてもらっていれば、自殺じゃなく事件だって事に捜査が切り替わっていたかも知れない。
 花沢類はそう言いながら声を荒げたが、お父さんは静かなまま話を進めた。
「当然プリクラの事も警察に話したが取り合って貰えなかった……。……もしくは調べないよう、圧力がかかっていた可能性もある」
 ……圧力……?
 警察に?
「警察の調べが終わり、里佳子の車が私の元に戻ってきた時には、ダッシュボードの中にプリクラのシールが貼ってあった」
「「……っ!!」」
 それって……つまりは。
「……母さんが発見された時に乗っていた車が、警察が調べている間にすり替えられた……?」
「ああ、そういう事だ」


 花沢類のお父さんの話を聞いて、パパ達が何かの事件に巻き込まれたんだという事に確証ついた。
 自殺に見せかけ、誰かに殺された……。

「警察に裏から手を回せるような人物に、私は類を係わらせていいのか悩んだが……」
 お父さんはそこで一旦言葉を切り、花沢類の顔をジッと見た。
 まだ他にも何か知っている事があるみたいな感じだけど、話していいのか悩んでいるように見える。
 言葉を切ったまま話を切り出さないお父さんに変わって、花沢類が声をかけた。
「父さんは、広田……広田裕介の事をどう思っているの?」
「……っ! アイツを知っているのか!?」
 ずっと冷静に話をしていたお父さんが、広田の名前を聞いただけで目を大きく開かせた。
「この前、友達に誘われたパーティーに参加した時に会った」
「……そうか」
「会った時に広田が言ってた。母さんは元々広田の婚約者だったけど、父さんが横から奪ったって……」
「ああ……。里佳子を渡したくなくて、大河達にも協力してもらい広田から奪い取った」

 りゃ、略奪愛!?
 そこにどんなドラマが……!! 
 なんてあたしは気になったが、お父さんはそれ以上話す気がないらしく、花沢類もそれ以上は聞かなかった。


「……夢子が里佳子の「遺言」を預かっているみたいだ」
「遺言?」
「中に何が書いてあるのか私は知らないが、……一度連絡してみろ。今はそれだけしか言えない」
「……ん、分かった」
 話に区切りがつき花沢類が席を立ったので、あたしも同じように立ちあがる。
 が、ドアに向かって数歩進んだ時、花沢類は振り返って「あと1つ聞いてもいい?」と尋ねた。
「なんだ?」
「……あの記事……。何で差し止めなかったの?」
 ……?
 記事って言うのは、不倫記事の事だよね。

「……しようとしたが、出来なかった……。私の力不足だ」
 答えたお父さんの声は辛そうで、「……そう」とだけ返事をした花沢類は部屋から出て行き、あたしもお辞儀をして後を追いかけた。


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Posted by桃伽奈

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