Welcome to my blog

種と蕾の先へ 72

桃伽奈




花沢開side

 類と千恵子の娘……つくしが部屋から出て行くと、静寂が戻って来た。
 ソファーの背もたれに体を預け、天井を見上げる。
 夢子につくしが英徳学園に通っていると聞いたのは、先日の里佳子の命日の日だった。
 あの時の話だと、類もあきらも、つくしとは関係ない生活を送っているようだったのに……。

『子供はいつまでも籠の中にはいてくれないんだって……。きっと親が子離れをするずっと前に、子供の方から巣立っていってしまうものかも知れないって……』

 夢子が言った言葉が胸に刺さった。
 子供は分からない事があれば、何でも無邪気に聞きたがる。
 親は子供に分かるよう、必死に説明する。
 親は知って欲しい事を子供に諭す。
 里佳子はそれがとても上手だった。
 まだ幼い類相手に、話を聞き、話を聞かせる。
 類が疑問に思う事を、納得が出来るように……。


 ……里佳子、私は今ちゃんと答えられたか?
 類が聞きたがった事を。

 だが全ては話せなかったし、類も聞いて来なかった。
 里佳子を殺した犯人……。

 証拠がない。憶測の人物なだけだ。




『類、まだ食べるの?』
 花沢の墓がある墓地の近所には、大きな公園がある。
 久しぶりに私と里佳子の休日が重なった日、家族3人で墓参りをした後、里佳子が作ったお弁当を公園で食べた。
 類の食べっぷりに驚く里佳子だが、珍しく朝からはしゃいでいた類は本当にお腹を空かせていたのか、『うん』と返事をしてまた新しいお握りに齧りつく。
 口いっぱいに頬張るから顔が膨らんでしまっているが、腹の膨らみもまた凄い。
『お前、妊娠している腹みたいになってるぞ』
 俺がそう口にすると、類は不思議そうな顔をした。
『妊娠って何?』
 ……妊娠……。
そうか、類はまだその言葉も知らないのか……と知ると、里佳子が嚙み砕いた言い方に変えた。 
『類のお腹の中に赤ちゃんがいるって事よ』
 今度は意味が通じたのか、類は明るい笑顔になり『赤ちゃん!?』と喜んだ。
『俺、妹が欲しい。産まれる!?』
 自分で産むつもりなのか……? 楽しそうに答える類に、我慢できずに俺達は笑った。

 ひとしきり笑った後、里佳子は類を見ながら静かに話した。
『千恵ちゃんが亡くなってから、一度もつくしちゃんに会ってないものね。類は寂しいのかな』
『類はそう言っているのか?』
『ううん。口数の少ない子だから……。今日みたいに話すのは本当に珍しいのよ』
『……そうか』


 懐かしい里佳子との思い出が蘇り、ソファーから立ち上がって書斎机の引き出しを開け、写真を取り出した。

 つくしを出産した千恵子を見舞った時に里佳子が撮影した写真。
 産まれたてのつくしを、類とあきらが不思議そうに見ている様子だった。








類side

 父さんの部屋を出ると「……ふぅ」と息を吐き、肩の力を抜いた。

 母さんを殺した犯人の名前……。
 広田裕介が犯人だと決めたとするなら……まさか母さんにフラれた腹いせに殺したりとかじゃないよな……。

 先日のヤスとヒロの話を聞いて、なのはな施設関係の何かに巻き込まれ、牧野の父親と一緒に母さんは殺されたんだと考えた。
 広田なら警察に手を回す事も出来るだろう。
 直接は手を下していなくても、関わっている可能性はある。


 牧野を連れてもう一度自分の部屋に戻った俺達は、そのまま夢子さんに連絡を取った。
 父さんに聞いた母さんの「遺言」の話をすると、明日は朝一に仕事が入っているらしく、午後会う約束を取り付けた。

「明日土曜だし、午前中の授業が終わったら夢子さんに会いに行こう」
「え……? あたしも?」
「ん。牧野も無関係じゃないかも知れないじゃん。遺言には母さんが何で死んだかって事が書かれているかも知れないし」
「……そ、そっか」
 もしかしたら、なのはな施設の事についても書かれているかも。
 11年前、美作がどうしてあそこを調べていたのか。
 牧野の父親がその美鈴って人を探し当てたなら、なのはな施設に彼女も関係があるって事なのか?
 どうなんだろう。
 ……。
 ……母さんが答えを教えてくれる?



 次の日、授業を終えた牧野と一緒に、俺は夢子さんに指定されたホテルへ出向いた。
「あ、このホテル初めて夢子さんに会った時と同じホテルだ」
 ロビーに入るなり牧野が呟いた。
「ここ『メイプル』は、司の母親が経営しているホテルで、夢子さんは頼まれた時だけ披露宴で使うブーケを作って届けているんだ」
「花嫁のブーケの事?」
「そ。あきらの家に行った事あるんだろ? あそこん家の庭見た?」
「うん。お花がいっぱいだった」
「温室もあって、朝家で摘んだ花束でブーケを作っているらしいよ」
「……へぇ。夢子さんのブーケって何かご利益ありそう……」
 両親は万年新婚家庭だと呆れるあきらの言葉通り、確かに何かありそうだ。
 ゲン担ぎなら夢子さん程ピッタリな幸せ夫婦はいないかも知れない。

 牧野と一緒にロビーで約束の時間になるまで待っていると、奥から万年新婚夫婦年齢不詳の夢子さんがニコニコ笑顔で近づいてきた。


関連記事

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply