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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

種と蕾の先へ 83

桃伽奈



横井沙織side

「広田様は、私が娘だって知っていたんですか?」
「はい」
「い、いつから? いつから知ってたんですか?」
 私はブローチを握りながら弁護士に訪ねた。
 もしかしてこのブローチをくれた時にお母さんの話をしたのは、私が娘だって知っていたから……?
 そういう事なの?

「いつかは存じ上げておりません。ただ、この鑑定結果の資料を預かったのは一年ほど前でございます。その時に遺言書も新しく書き換えられました」
 そこで今までずっと黙っていた広田様の息子が初めて口を開いた。
「つまり社長はその娘が存在する事を知り、財産を渡す事にしたって事だな。……それで不測の事態か……用意周到なことだ。例え彼女が死んだとしても、俺にはその5億の財産は回ってこない。諦めろって意味だ」
 お父さんの事を「社長」と呼ぶ息子は、親子なのかやっぱり広田様と声が似ている感じがした。
 広田様のしゃがれた声に若さのエネルギーが入ったような感じ。


 この遺言状に一番納得いかないのは奥さんだった。
 「いつから主人と会っていたの」「母親は誰? 横井……横井って言ったわね。あの泥棒猫の娘ね」「今までいくらお金を貰っていたの」と詰め寄られるが、それを宥めてくれたのも息子の広田裕介だった。
「母さん、今そんな事言っても仕方ない。受け入れないと」
「……受け入れられるわけないでしょっ!! 最初は愛人だって聞いていて……100歩譲ってまぁ目を瞑ったけど、娘だという事なら話は別よ!!」
 奥さんは席を立ち、怒りに任せて部屋から出て行った。
 その後ろを他の親族達がついて行く。部屋から退出する時、私を人睨みするのを忘れずに。

「取り敢えず、今日はこれまでにしましょう」
 という弁護士さんの言葉に、次は弁護士さんと2人で会う約束をして私も部屋から出て行った。



 ロービーを出て、駅まで歩くかな……なんて考えていると、広田様の息子……広田裕介が声をかけてきた。
「横井さん、先ほどは身内の者が失礼をしたね」
「あ、はい……いいえっ!」
 広田裕介は、私よりも一回り以上年が離れており、広田様が社長職に就かせると言っていた通り、すでに貫禄みたいなのが垣間見れる。
「いきなりの事に動揺しているみたいでね。気を悪くしないで欲しい」
「こちらこそ、すみません。……あの、ありがとうございました」
 奥さんの言葉を止めてくれたのは広田裕介だった。
 多分お母さんはこうなる事が分かって、私にお父さんに会っては駄目だと言っていたんだなって思う。
 広田裕介は少し話しがしたいと言うから、私達はホテルの中庭を歩く事にした。

 彼は私が知らないお母さんの事を話してくれた。
 私が産まれる前、お母さんは広田邸に使用人として住み込みで働いていたという。
 優しいお母さんに、そのうち広田様は心を惹かれていったらしいが、広田裕介が知る限りでは2人の関係は主人と使用人だったという。
 ある日突然姿を消したお母さんに、広田裕介は2人の事を誤解した奥さんが追い出したからだとそう思い込んでいたらしいが……。
「君がこの世に存在しているという事は追い出されたのではなく、2人の関係が主従関係でなくなった時、君のお母さんは広田の家を飛び出したんだろうな」
 と話してくれた。

 広田裕介は私が産まれる前の話をしたら、今度は私が産まれてからの話を聞きたがった。
 だから正直にお母さんとずっと2人で暮らし、お父さんの事は知らずに育ったと話した。
 お母さんが高校の時に亡くなった話をし、今の仕事の事を話すと「社長が裏から手を回して仕事を紹介したのかもな」と広田裕介は呟いた。


「母の事は……少し時間がかかると思うが、責任をもって私が説得するよ。相続の事は弁護士に相談して自分で決めるがいい」
「はい」
「その代わりと言っては何だが……」
「……?」
「その胸につけているブローチを私に売ってくれないか?」
「え?」
 私は驚き、胸につけたブローチをギュっと握った。
「社長から貰った物だろう。私も社長がそれを大事にしていたのを知っていた」
 確かに広田様も大事にしまっていたと言っていた。
「だから私にとっても「父」との思い出の品物でね。手元に残して置きたいんだ」
「でも……」
 これは広田様がお母さんとの思い出が詰まっている……みたいな事を言っていたブローチだ。
 私が娘だと知っていたから、私に譲ってくれたんだろうと思う。

 断ると広田裕介はしつこく食い下がってきたが、私は絶対譲らなかった。




 そのすぐ後、あの事件が起きた。

 住んでいるマンションが荒らされ、部屋の中から広田様にもらったブローチが消えていた。
 どう考えてもタイミングが合い過ぎる。
 犯人に心当たりは……と警察に聞かれ、広田裕介だと話したが、当然広田裕介は窃盗を否定する。
 やりましたって自首するくらいなら、最初から盗まないってか……。
 警察も相手が大企業の社長と知ったからか、私の言葉を信じてくれず、あまり無責任な事を口走ると逆に名誉棄損で訴えられるよと注意まで受ける羽目になった。

 警察が無理なら別の方角から……。
 って事で、フリーの記者にこれまでの話を全て暴露し、広田裕介が犯人だという記事を書いて貰った。
 警察が無理なら、世間一般の人の力を借りよう。世論が動けば警察だって動いてくれる。
 そう信じたが、ブローチを盗まれた事が世間の話題になる事はなかった。
 逆に私が虚偽の発言をしていると周りから言われ、記事を書いてくれたフリーの記者とは連絡が取れなくなった。


 途方に暮れていると、お店の先輩から「便利屋」を紹介してもらった。
 お値段は少し高めだが、ブローチを取り返して欲しいと依頼すると、あっけないほどすぐに返ってきた。
 こんなに簡単なら、最初から便利屋にお願いすればよかったと思ったくらいだ。



 そして現在。

 ブローチが手元から無くなった広田裕介は、再びブローチを見つけ出すため、私のマンションを荒らす。

「何? 沙織の部屋、また入られたの?」
 泣き寝入りするタイプではない私でも、切りつけられたベッドを見るととても自分の部屋で眠る気になれなくて、お店の先輩の家を訪ねた。
「うん。もう鍵を変えても無駄だって分かってる。今は犯人とかち合わなかっただけよしと考えることにした」
「引っ越す?」
「……うーん。でも引っ越し先でもやられたらって思うと……」
「そうよね……」
 先輩はそう言って、ドレッサーの引き出しから私が預けておいた例のブローチを取り出した。
 それをわたしに手渡し、アドバイスをくれる。

「もう一度「便利屋」に頼んでみたら?」

 ……便利屋か……。



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