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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

fleurs printanières スピンオフ④『時を刻む音』 -桃伽奈-

桃伽奈


スピンオフ④『時を刻む音』




「「「牧野様、いらっしゃいませ」」」

この武家屋敷のような佇まいの家にも、最近は頻繁に訪れるようになり、もう花沢家の使用人さん達とも顔なじみだ。
みんないつも、あたしが訪ねるのを歓迎してくれる。
だから気後れすることなく、こうして一人でも尋ねられるのかも知れない。

「こんにちは。……えっと、類は?」
「「「……っ!」」」
あたしが類の事を聞くと、ちょっと言いにくそうな表情を見せる使用人達。
その顔でピンと来た。
「ああ、いいです。あたしが起こします」


今日は土曜日。
会社も学校も休みだ。
「会おうね」って約束はしていたけど、時間までは決めていなかった。
それに類が慣れない仕事の疲れで、休みの日はお昼近くまで寝ているのは仕方ない。
何といっても、学生の頃はもっと沢山寝ていたんだから……。
あたしは咎めるつもりは全くなく、ただ久しぶりに類の寝顔が見れるかも……なんてちょっとワクワクした気持ちを込めて、類の部屋を訪ねた。
すると予想通りベッドの中に人影。
どれどれ、では早速寝顔でも拝見するかって思いながら近づくと、ベッド横のサイドテーブルにあたしが誕生日にプレゼントした時計が置かれている。
寝る間際まで付けていてくれたんだと思うと、途端に胸の中に温かいものが流れ込んできた。


これにしてよかった……。
気に入ってくれたみたいだし。
類の寝顔を見るのを忘れ、あたしは腕時計を手に取った。
1分の狂いもない正確な時間を刻んでいる時計。
耳の近くに当てても、秒針の音は聴こえてこなかった。

「何してんの?」
「……うわぁっ!!」
てっきり寝ているとばかり思っていた類が、あたしの方をジッと見ているから驚いた声を上げてしまう。
「うわぁって……。そんなにビックリする事?」
「お、起きてたの?」
「……俺の寝顔を見るんだと思ったら、一直線に時計だし……」
「いつから起きてたの?」
「そろそろ起きようって思ったら牧野が部屋に入って来た」
「……っ!」
つまりは最初からかいっ!

類は時計を持ったあたしの手を見ながら、体を起こした。
「時計、何か変? 大事に使ってるけど」
「ううん。音が聴こえないなって思っただけ」
「……音?」
「秒針。チクタク♪ チクタク♪ ってやつ」
口にしてからチクタクは『大きな古時計か』なんて思った。
「ああ、これは音が出ないタイプだね」
類は手を伸ばし、腕時計を手にするんだと思ったら、時計を持ってるあたしの手首を掴んだ。
「……?」
「でも牧野の音は聴こえる」
「あたしの音?」
オウム返しに聞くと、寝起きの顔は天使のように笑った。
「牧野の脈の音。……あれ? これは聴こえるじゃなく感じる……かな?」
「それは生きているんで……うわぁぁ!」
本日2度目の驚きの声を上げた。

あたしの手首を掴んでいた手が腰に回り、グイッと引き寄せられたからだ。
片足の膝をベッドの上に乗せる形になると、今度は胸に耳をあてた類は、あたしの心臓の音を聴き始めた。
「……」
「……る、類?」
何かすごく恥ずかしいんですけど……。
「すごい、大きな音」
それは言われなくても分かってるっつーの!
緊張でピクリとも体を動かす事が出来ない。
類は「くくくっ」と肩を揺らし笑った後「もっと力抜いていいのに」なんて口走った。

……っ。
なんだろう……。この感情は……。
……悔しい……?
そうだ、その感情だ。
類は余裕のよっちゃんで、あたしばっかりってやつだ!

「あ、あたしも類の音聴きたい」
類にも同じように恥ずかしい思いをして貰おう。
仕返しのつもりで言うと「いいよ」と余裕な声で返事が返ってくる。
あたしの胸から顔が離れたので、両膝をベッドの上に乗せ座ると、類の背中に腕を回し心臓の音が聴こえるように抱きついた。

トクン……トクン。

「聞こえた?」
「……うん」
結構ダイレクトに耳に響くもんだなって思った。
どっちかというと、うるさい感じ。
……。
あれ……?
でもこのスピードって……。

「……類も緊張してる?」
「あたり前」
さも当然って感じな声に、顔を上げると少し照れた表情の類と目が合った。
「……っ」
「彼女が起きぬけに同じベッドに入ってるんだよ」
「……え?」
「何? 俺は緊張しないと思った?」
いや、そうじゃないけど……。
悔しいから同じ思いをして欲しくてそうしたんだし。
でも余裕な返事が返ってくるから、平気なんだと思ってしまった。


グイッと引っ張られベッドにダイビングし、向かい合わせで横向けになった。
ずっと握りしめていた腕時計を、類は大きな手であたしの手ごと包んだ。
そして優しく触れるだけのキスをする。
「時計ありがとう」
「ふふっ。それ、前にも聞いた」
「ん。でも嬉しいから」
もう一度類の唇があたしの唇に触れた。
「クチュ」と音が鳴る。
キスの音。
これももう何回も耳にした。

「どうする? 今日はこのまままったりこの部屋で過ごす?」
「……え?」
「俺は牧野の音をもっと聴きたいって思うし」
「あたしの音……?」
もっと心臓の音が聞きたいのかな……って思うと、ちょっと意地悪な顔をした類はとんでもない事を口にした。
「牧野のあの時の声とか」
「……なっ!」
あ、あ、あの時の声って……。
「俺のが中に入った時の音……」
瞬時に起き上がったあたしは、頭の下にあった枕を掴み取り、類の顔めがけて叩いた。
「お、音なんかするかっつーの!!」
「それは、その時はもう牧野はグチャグチャだか……」
まだ続く耳を塞ぎたくなる言葉に、あたしは再び枕を叩きつけた。
「ちょ、痛いって……」
「痛くてちょうどいいのっ! 寝ぼけた事言ってないで、さっさと目を覚ましなさい!!」
怒ったように言うと、類は「嘘じゃないのに」って呟きながら頭の上にある枕をどかして起き上がった。

朝っぱら……もう昼前だけど、なんていう会話だ。
「じゃぁ、そういう事は今夜やるとして……今はどっか出掛ける?」
今夜って……。
類の中では決定事項なわけ?
……まぁ明日もお休みだけど……。
って、あたしってば流されてる!?

「牧野、行きたいとこある?」
「え? うーん、行きたいとこか……」
類とならどこでもいい……なんて思うけど、それだと困るよね。
どこか……。
見たかった映画にはこの前付き合ってもらったし、また公園を散歩もいいよねって考える。
あ、別に行きたい場所じゃなくてもいいんじゃない?
あたしは閃いたって顔をした。
「類が好きな事を一緒にしたい」
「俺の?」
「うん。この前はあたしが見たい映画を一緒に見たでしょ。だから今度は類の番。類は何が好き?」
「……何が好き……か」
「あっ。……エ、エッチな事以外でね」
焦って付け加えると「ぷくくっ」って笑われた。


暫く考えた類は「工作とか好きだけど……」と答えた。
工作か。
物作りって事だよね。
「じゃあ、どこか一日体験ができる場所に行ってみる?」
ガラス工房とか陶芸とかフラワーアレンジメントとか……。
そういう体験ができる場所っていろいろあるよね。
「あ、でもそういうところって飛び込みで行けるのかな? 予約とか必要?」
それなら今日は無理かも……って言うと、類は
「別に行かなくても作れるよ」
と言った。
「そっか……。そんな難しいものじゃなければ大丈夫だよね」
「ん」
「何作る?」
「……そうだな」
また考え込んだ類は、枕を手にした時にあたしの手から離れ、シーツの上に置かれた腕時計を見た。
「時計とか……」
「……と、時計?」
時計ってその時計?
それって簡単なものなわけ?
すごく難しそうなんだけど……。
大体、時計の針をどうやって動かしているのかさえ、あたしにはさっぱり理解出来ていない。
心の声が顔に出ていたのか、類は「違うよ」と言った。
「そういう時計じゃなくて……砂時計、作ろうか」
砂時計……。
砂が上から下に落ちて、3分キッチリ計れるってやつ?
それならまだ作れそうな感じがする。
何だか小学生の自由研究みたいだ。
「うん、いいね。それにしよ」
あたしが賛同すると類は優しく微笑んだ。

「確かいいものがあったんだ」
言いながら類が自分の部屋を出て行くから、あたしも後ろをついて行った。
案内された場所は、初めて入る部屋だった。
8畳ほどの広さにラック棚がズラリと並び、棚の上には様々な小物が並んでいる。
ここは類が気に入ったものを片付けておく部屋なんだと教えてくれた。
「類のコレクション部屋?」
「ただの物置だよ」
持ち主だけあって類は目的の物がどこにあるのか覚えているらしく、探す素振りを見せず一直線に向かった。

「あった。これ」
「……? それって三角フラスコ?」
科学の実験で使ってたやつだよね。
「そ。……いつだったかな。……5年か6年の時だと思うけど、俺が『可愛い』って言ったら、理科の先生がくれた」
可愛い?
三角フラスコが?
ってか、可愛いって言って貰えるもんなわけ?

疑問は多々あったが、類は棚から2つ三角フラスコを手にし、細い方をカチっと合わせた。
「ほら、砂時計の入れ物にピッタリ」
「あ、ホントだ」
確かに砂が落ちるイメージが湧く。
あれ? 
ちょっと待って……。
「でもこれだと砂があっという間に落ちきらない? 3分持たないよ」
「2つのフラスコの間に小さい穴を開けた厚紙でも挟んで、砂が落ちる速さを調整すればいいんじゃない? 最後はズレない様にフラスコをテープで固定すればいいよ」
「そうか! 類、頭良い! それじゃ、次は中に入れる砂だね」
「ん。ご飯食べたら海に行こうか」
海……。
海岸の砂浜。
その砂を使うの?
なんかそれも楽しそうだって思い、あたしは元気よく「うん」と返事を返した。




昼食を食べた後、類と一緒に海岸までやって来た。
波の音が海特有の潮の香りを運んでくる。
風で乱れる髪の毛を手で抑えながら、砂の上を歩くと自分達の足跡ができ、デコボコした小さな山が沢山出来ていく。
「海水で濡れた砂より、乾いている方がサラサラだよね」
砂時計にはそっちかな? って聞くと、類は「ん」と返事をした。
砂を持ち運ぶために持ってきた空のペットボトルを取り出し、しゃがんで砂を掴むと、手の中から砂がサラサラ落ちた。
2人でペットボトルの半分くらいまで砂を入れる。

「あ、そういえば牧野知ってる?」
「何を?」
「ここの海岸の砂も確か「鳴き砂」なんだよ」
「鳴き砂って、砂の上を歩くと摩擦で「クッ、クッ」って音が出るっていう?」
「そ」
「へぇ……。って、あたし聞こえなかったよ」
あたしは歩いてきた砂浜の足跡をもう一度見た。
ここに来るまで5分くらいは歩いたと思うけど、そんな音は聞いてなかった気がする。
「ん、俺も聞こえなかった」
「……?」
どういう意味?
「昔は……って事。日本には100ヵ所以上の海岸で鳴き砂があるとされてるんだって。でも煙草の灰やゴミ、海水の汚れで汚染され、今では30ヵ所くらいになったらしいよ」
「うわぁ……。環境問題か……」
「そ」
「折角の砂浜なのにそれは残念だね」
そんな話を聞くと、せめて残りの30ヵ所は絶対守らなきゃって気持ちにさせる。
類は話しながら砂が入ったペットボトルを手にして、「ついて来て」と言いながら歩き出した。

海岸を出て少し歩くと、そこには公衆トイレがある。
「類、トイレに行きたかったの?」
あたしが訪ねると、肩の力を落として類が否定した。
「……違う。……さっきの続きの話」
「……?」
「研究データがあってね。その汚染された砂を洗浄すれば、また鳴るように戻るらしいよ」
「え? そうなの?」
「ん」
「でもどうやって? 類は知らないだろうけど、洗濯機じゃ洗えないよ。あれって砂が入ると壊れちゃうもん」
「そんなの使わないよ」
そう言うと、類は砂の入ったペットボトルに水道の水を8分目くらいまで入れ蓋をした。
そしてそれをシャカシャカと暫く振り続ける。
すると水が黒く濁ってきた。

「あ……。もしかして……」
「そ。こうやって汚れを落とすの」
「そうなんだ……。じゃ、もうこの砂も音が鳴るようになるの?」
「まだこれだけじゃ全然足りないよ。水を新しく変えてもっと何千回、何万回も振らないと」
何万回……。
すごく気が遠くなりそうな……。
でもこれで、人間が汚して無くしてしまったものをもう一度取り戻せるならお安い御用かも。
「うん、やってみよう」
やる気になったあたしは類からペットボトルを受け取り、上下に振る。
その様子を見た類は「楽しみだな」と笑っていた。



これからもずっと一緒にいるあたし達には時間は沢山ある。
ゆっくりゆっくり砂を洗浄して、綺麗になったら三角フラスコの中に入れてみよう。

もし砂が落ちきる3分間。
鳴き砂の「クックッ」って音じゃなくても、砂はきっと音を奏でる。
それはあたしと類が作った時間の音だ。

それもなんだか素敵だな……と思った。





※煮沸洗浄でも、鳴き砂は復活するらしいです。
 ペットボトルにお水の方法もテレビでやっておりました。手で振るではなく、もっと工夫したやり方でしたが……。
でもどちらのやり方も、砂の汚染が酷くない事などいろいろ条件が必要だそうです;;





Rendez-vous demain...


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Posted by桃伽奈

Comments - 4

There are no comments yet.
さとぴょん  

桃伽奈様
素敵なスピンオフありがとうございました。
心臓の音を聞きあうふたり・・・初々しくて可愛かったですね♡
「牧野の音が聞きたい」
いいですね~これ♡
ちょっぴり意地悪な言い方でつくしをからかってる類くん
じゃれ合うふたりが、しあわせそうで嬉しくなっちゃいました♡
類くん工作が好きだったんですね。
作る物がフラスコの砂時計
なんて繊細でロマンチックなお題なんでしょうか♡
しかも理科の時間可愛いって言ったらくれたって(笑)
そりゃ類相手なら先生もあげたくもなりますよねー♡
中に入れる砂を探しに海へ行くふたり。
そしてまさかの環境汚染問題。(◎_◎;)
桃伽奈様すごいですね。
何千回、何万回と水をかえることも
それだけ類と一緒に過ごせると思うと
そんな時間すら大切に愛しく感じますよね。
ふたりで作った音・・・きっと素敵な音がするのでしょうね。
素敵なスピンオフありがとうございました。

2018/03/31 (Sat) 16:10 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  
さとぴょん様

スピンオフのテーマは「音」にしました。
誕生日のプレゼントが時計だったので、そこから2人の時間と音に繋げていきましたw
心臓の音の辺りを書いていた時、いつから一緒にいてもドキドキしなくなるのかな~なんて考えていました……。
おならの音を聞いた時でしょうか……。いえ、類君はおならなんてしません(>_<)
ごめんなさい<(_ _)>
(タイミングよく(?)今テレビを見ていた旦那がおならをしたので、そう思っちゃいました(;^ω^)。ええ、そうです。……旦那にはもうドキドキしませんww)
理科の時間に、普段無口な類君が「可愛い」と呟いた時、先生の目がハートになったのを想像していましたw
私と同じように感じて下さり嬉しいです(*^^*)
今回の類君とつくしちゃんは無事ハッピーエンドを迎えたので、砂がキレイになってフラスコに入れる日が来た後も、ずっと一緒の時間を過ごしていくかと思います♪
次回はまた別の類つくを楽しみにしていて下さい(^-^)
コメントありがとうございました♪

2018/03/31 (Sat) 23:37 | EDIT | REPLY |   
ノエノエ  

桃伽奈さま
こんばんは。
コメントが遅くなり申し訳ありませんでした。
類くんは手先が絶対に器用ですよね!「時計」を作るっている発想も独特ですし、それが「砂時計」というのがゆったりした空気を纏った類くんらしい!!素敵ですね~(≧∇≦)
理科の先生は類くんの「可愛い」に撃沈した様子が目に浮かびます(笑)または類くんと同じ感覚で「そうでしょう?」と嬉しそうに同意したか…。周りから見たら???だったのでしょうね(笑)
鳴き砂になるまで何万回も二人で振り続ける…その時間が二人に許されている。一生かけて「工作」出来るなんて幸せですね(*^_^*)
素敵なスピンオフを有難うございました(*^^*)

2018/04/05 (Thu) 23:35 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  
ノエノエ様

こんばんはw
誕生日プレゼントの腕時計から繋げていき、勝手に作ったスピンオフのテーマ「音」と、時計の時間を合わせてお話を考えてみました。
そうですよね!ねっ!
類君って手先が器用そうですよね♪
共感して頂き嬉しいです(*^^*)
砂時計は小学生の自由研究でも定番の工作らしく、それを知った時、子供が小学生になって宿題に悩んでいたら、いつかアドバイスしてやろうと思いずっと頭の端に残っていたネタでしたw
理科の先生は、類君の言葉に目がハートになっているイメージでしたw
勝手に女の先生だと思い込んでいたのですが、今思うと男の先生でもイケるかも……なんて思います。
(危険な一線を越えてヘ〇タイに変貌する前に、F3が類君の知らないところでサクっと排除してくれるはずw)←こら。
そんなマイペース類君の歩みに、つくしちゃんも心が落ち着けているんだろうなと思っております。
本編と違い少し重たい感じになってしまいましたが、チームルイのメンバーに支えられ楽しくお話を書けました(*^^*)
最後まで読んでいただき、ありがとうございますw
コメントありがとうございました♪

2018/04/06 (Fri) 22:16 | EDIT | REPLY |   

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