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種と蕾の先へ 90

桃伽奈



=1996年=

 情報処理部

 3年 部長   猿渡楓
    副部長  美作大河
         西門裕二郎
         花沢開

 2年      久我里佳子
         九重美鈴
         高岡流星
       
 1年      西条夢子
         鍋島千恵子
         藤田亨




 花沢開side


 新一年生も部活動に慣れた6月。
 完全下校時刻が近づき、部員も順々に帰宅をしだした。
 基本みんな車での登下校なので、「一緒に帰る」という事はない。
 昇降口で靴に履き替えていると、俺より15分は先に部室を出たはずの里佳子と出くわした。
「あっ……。開先輩」
「ああ。まだ帰ってないのか?」
「ちょっと所用があったので……」
 珍しく目線を反らして話す彼女に、知られたくなかったことなのかと予測し、その事に触れるのは止めた。
 並んで門まで歩くと、今日はこのまま歩いて帰るつもりだったから車を呼んでいなかったが、隣に立つ彼女の家の車も見当たらなかった。
「お前、車は?」
「先輩こそ……」
「俺は今日歩き」
「わ、私は……」
 里佳子は俯き視線を地面に移した。
「私は、今日は父と一緒に帰れって言われたんですが、そんな気分になれなかったので1人で出て来たんです」
「そ」
 彼女の言う父とは、英徳学園の理事長のことだ。
 ……今日は学園に来ていたのか。
 なら所用って言うのも、父親に会っていたって事かも知れないな。

「……」
「……」
「あの、私もご一緒させてください」
 何かを決心したみたいな力を入れ、ビー玉のような綺麗な瞳をこっちに向けた。
「……歩いて帰る事をか? ……好きにすれば」
「はいっ」


 話の流れで、思いがけず里佳子と一緒に帰る事になった。
 こうやって2人で歩いて帰宅するのは初めてじゃないか……?
 俺達の共通の話題と言えば、部活の話だけだ。
 だが極秘裏に行っている「BAIRI」活動をこんな公衆の面前で行うわけにもいかないので、去年のポケコンロボット大会の話や新入部員達の話になった。

「私……正直に言いますと、楓先輩にはドキっとさせられたんです」
「……?」
「新一年生が入る前に言っていた事です」
「もしかして、やる気のない奴は部活にいらないって話?」
「はい。私も不純な動機で入部したので……。まるで自分の事を言われているみたいで」
「……へぇ」
 不純な動機ってなんだ……?
 里佳子からそんな後ろめたい行動は見た事がない。
「……」
「ま、入部の動機はともかく、里佳子は真面目に部活に取り組んでるんだから、それでいいんじゃないか?」
 入部して初めてパソコンを触ったような里佳子だったが、必死に勉強して今では2年生のチームリーダー的存在だ。
 持ち前の人を惹きつけ引っ張って行く性格のせいもあるんだろうが、影で人一倍努力しているのを知っている俺はそのまま褒めた。
 だが、俺の言葉に里佳子は何か言いたそうな顔を一瞬だけ見せ、すぐ取り繕ったように、
「去年の先輩達に負けないように、ポケコンロボット大会頑張りますね」
 と流した。
「……? ああ……。アドバイスがいるならいつでも聞いてこいよ」
「はい!」

 ……俺は何か気に障る事でも言ったか?
 いつも生徒のお手本のような里佳子が一瞬だけ見せた表情が気になる。
 どこか悲しそうなに見えたが……。
 いつも笑顔か、キリっとした表情で学園生活を送っている里佳子。
 そりゃ彼女も人間なんだし、怒ったり泣いたりとかするだろう。
 ああ……。
 でも裕二郎と一緒にいる時は、よく顔を赤らめて狼狽えたりして表情豊かだな。

「なぁ、里佳子。言いたくないならいいけど、何かあったのか?」
「……え?」
「お前今日、昇降口で会った時から様子が変だろ」
「あ……」
 俺の言葉に里佳子の瞳が揺れた。

「……?」
 こんな表情も初めて見た。
 縋るように揺れる瞳は、まるで子犬を思い起こさせる。
 里佳子は暫く、話そうか迷った素振りを見せたが、ゆっくりと口を開いた。
「……あの……父に見合いを進められて……」
「……」
 見合い……?
 俺達ジュニアなら政略結婚は決して珍しくない。
 いつも部室内でイチャラブを見せつけてくれる大河と夢子だって、元は親が決めた許嫁同士だ。
 俺も適齢期になったら、親がどこぞの令嬢を連れてくるんだろなって覚悟している。
 里佳子もそれはもちろん覚悟していたことだろう。
 案の定、里佳子からは肯定の言葉が発せられた。
「私もいつかは……って頭では分かっていたんですが、こんなに早く決まるなんて思わなくて……」
「相手は誰?」
 もしかしてすごい年齢が離れたおじさんとか? 後妻とかだったらさすがに戸惑うかも知れないなって思いながら聞くと、思ってもみなかった人物の名前が里佳子の口から零れた。

「広田……裕介さんです」

「……広田って……あの?」
「はい、生徒会長をなさっている方……元部員の……」
 広田は俺と同じ3年だから里佳子より1つ上の学年だ。
 同じ情報処理部の部員だったが、2年の6月に生徒会に入るからと辞めて行った。
 今思い出しても、最後まで俺達とは正直馬が合わない奴だった。
 何かにつけて一番になりたがり中心にいたがる広田は、同じく人の下にいるのが苦手な楓とは衝突してばかりでいた。

 楓は俺達にも突っかかってくるが、彼女の性格を熟知しているせいか、俺達はどこかいつも許してしまう。
 彼女はいつも正論で、本気で言い合いをしたとても、次の日には持ち越さず過ごすのに対し、広田は違う。
 一度悪くなった空気は次の日も継続するし、楓とぶつかっても裕二郎とぶつかっても謝罪は一切行わない。
 ライバルと認めるような相手がいれば、共に高みを目指すのではなく、相手を蹴落とすよう性格だ。
 結局去年のポケコンロボット大会で、俺達当時の2年は盛大に意見が分かれた。
 出場は辞退するか……ってところまで追い詰められた時、広田が生徒会に入るから退部する……って形でいなくなり、部活動としてやっと1つにまとまる事が出来た。
 そんな俺達を、当時1年だったメンバーは委縮しながら遠巻きに眺めていたのを思い出す。

 そんなアイツと里佳子が婚約……。
 上手くいくはずないなんて思ってしまうのは、俺の思い過ごしじゃない。
「断れないのか?」
「父が凄く乗り気で……。嫌だと反対したら、さっきお叱りを受けました」
 潤んでいた目からついに涙がこぼれた。
 悲しみ笑いをする里佳子に、俺の胸がズキンと痛み締め付けられる。


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Posted by桃伽奈

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