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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

種と蕾の先へ 91

桃伽奈


=1996年=

 情報処理部

 3年 部長   猿渡楓
    副部長  美作大河
         西門裕二郎
         花沢開

 2年      久我里佳子
         九重美鈴
         高岡流星
       
 1年      西条夢子
         鍋島千恵子
         藤田亨




花沢開side

「見合いの事、裕二郎は知ってるのか?」
「え? 裕二郎先輩ですか? 私もさっき聞いたところですので……」
 俺の言葉が意外だったのか、里佳子の涙がピタっと止まった。
 続いて今更だが、勝手に裕二郎の人物評価を話す。
「ちょっと女癖が悪いが根は良い奴だし。きっと本気の相手が現れたら他には見向きもしなくなるんじゃないかって思う」
「……はい。とても情の熱い方ですから、私もそう思います」
「次男だから、家は兄貴が継ぐって話でまとまってるし」
「先日、大学は医学部に決めたっておっしゃってましたね」
 その時の会話を思い出してか里佳子は「クス」っと笑った。

 泣き顔ではなく、こんな小さくてもいい。笑ってくれた事に俺はホッとした。
 さすが裕二郎だな。
 この場にいなくても里佳子を笑顔にする。
「言い辛い事かも知らないが、裕二郎に報告した方がいいぞ」
「……え?」
「何か対策を考えてくれるかも知れないだろ?」
「……裕二郎先輩がですか……? どうしてですか?」
「どうしてって……。裕二郎が好きなんだろ? そういう時は素直になって頼った方がいい」
「……っ!!」
 里佳子は目を見開いて驚いた。
 さっきまでの涙なんてすっかり乾いてしまっている状態だ。

「なんで私が……裕二郎先輩を……好きだと思ったのですか?」
「なんでって……。アイツの前ではいつも表情が豊かになってるだろ」
 理事長の娘で、生徒の手本のような里佳子の仮面が外れる瞬間。
 それはいつも裕二郎と話している時だ。
 自ずと答えが出ていたからそう口にすると、頬に熱を感じた。

これは……痛みか……?
 パチンって音が耳元で聞こえた気がする。
 里佳子が俺の頬を平手打ちしたのだと気づくのに、数秒かかった。

「……え?」
「あっ……」
 俺も驚いたが叩いた里佳子の方もかなり動揺している。
「す、すみませんっ」
 ペコリとお辞儀をしながら謝り、そのまま自宅の方へ走って行ってしまう里佳子を俺は黙って見送るしかできなかった。

……何で俺が叩かれたんだ?







里佳子side

 私は全速力で走って家まで帰った。
 これほど長い距離を全力で走った事なんてないんじゃないかっていうくらい一度も止まらず走り、家についた時は呼吸が整わず全身汗だくになっていた。
 ……。
 ……はぁ。……はぁ。
 ……。
 ……。
 ど、どうしましょう……。
 開先輩を叩いてしまった。
 私は使用人達の「おかえりなさいませ」っていう挨拶を無視し、自室へ向かう。
 頭の中は先程の開先輩の事でいっぱいだ。

……。
 ……だって、あまりにも先輩が無神経な事を言うから……。
 今日はお父様にお見合いの事を言われたばかりで、心に余裕がなかったし……。
 「黙って。それ以上話さないで」って思ったら、手が出てしまっていた。
 って、ああ……。
どんな言い訳をしても自分の自制心が足りないだけじゃない。

 開先輩、怒ってらっしゃるわよね。
 先輩にしてみれば、訳も分からずいきなり叩かれたんですもの。
 それにしても酷い誤解……。
 私が裕二郎先輩を好きだなんて。
 それに一緒にいる時は表情豊かって……。
 裕二郎先輩は私をからかうのが楽しくて、遊んでらっしゃるだけで……。それを私が上手くあしらえないからいつも困っているだけなのに。

 ……開先輩にはそう見えたのね……。


 少しだけ落ち着きを取り戻すと、心が酷く落ち込んだ。
 その時、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえる。
「……はい」
「お姉様?」
 返事をすると、ノックの音と同じように遠慮がちに妹の杏子がドアの隙間から顔を覗かせた。
6歳年下の彼女は、英徳学園の初等部に通っている。
「どうぞ」
 私の許可を得ると、部屋の中にゆっくり入ってくる。
「……あの……家のみんなが、お姉様の様子が変だって心配していて……」
「……うん……。心配かけてごめんね。もう大丈夫よ」
 安心させるために私は笑顔を見せるが、杏子の顔は晴れない。
 ……?
 どうしたのかしら……。
 私よりも杏子の方に何かあったんじゃないかと心配になってくる。
「杏子?」
「……私、聞いちゃって……」
「何を?」
「お姉様が今度お見合いをするって」
「……!」
 ああ、もう杏子まで知っているのね……。
 お母様から聞いたりしたのかな。
「様子が変なのはそのせい?」

 半分正解で半分は違う。
 けど妹に開先輩の事まで話すわけにもいかず、私は「そうよ」と答えた。
「急な事でビックリしちゃってね」
「だよね……。だってまだお姉様は高等部だし……。お見合いって、20歳を過ぎてからだと思ってたもん」
「……ええ」
 務めて笑顔で答えていると、妹もだんだんいつもの調子を取り戻して笑顔が見えてくる。
 私が座ったソファの横に座り、もっと話を聞かせてっていう瞳をした。
「ねっ。お見合い相手って誰なの? 私の知っている人!?」
「そうねぇ……名前くらいは知っているかも……。同じ英徳で今は高等部3年の広田裕介先輩よ」
「えええっ! 広田先輩って、生徒会長の!?」
 あたしが黙ったまま頷くと、「いいなぁ」なんて妹は口にする。
 ……いいの?
 あの人が?
 なんで妹がそう思うのか私は理解に苦しんだ。

「どうして……?」
 どうしてそう思うの?
 本人に会った事あるの?
「この前の卒業式に、高等部の代表として生徒会長の広田先輩が初等部へ挨拶に来たの。その時に見たけど、すごくカッコいいじゃん。背が高くて美男子で堂々としていて。生徒会長って事は成績もいいんでしょ? クラスの女子達は会長のファンになった子とか結構いるよ」
 ……ファン……。
 あの広田先輩に……?
 でも確かに外面はよかったかも。
 壇上に立って挨拶のスピーチを聞いただけの妹なら、広田先輩の事を絶賛する気持ちも何となく分かる。
 内面を知っている私はそうは思えないけど……。

 目の前で無邪気な顔をして、私の見合いに憧れを抱いてしまった妹を見て、少し冷静になれた心が重くなった。
 ……断れない。
 詳しくは知らないけど、これは仕事関係の見合いだってお父様は言っていた。
 私が自分を通して「結婚しない」と言い張れば、もしかしたらこの妹に縁談が流れるかもしれない。
 広田先輩との年齢差は7歳。
 決しておかしな年齢差ではないし、この様子なら杏子は喜んで受ける可能性もある。

 広田先輩は……。
自尊心が強く、相手を絶対に認めない。
 常に自分が有利でいたいと考え、相手を貶める事も平気でやってのける。
 それが去年少しの間だけど、一緒に部活動をして感じた先輩の印象。
 あの人と結婚したら関白亭主にただ黙ってつきそう女性にならなければ、夫婦で衝突ばかりするだろう……。
自分を殺して生きていかないといけない。
 そんな相手だと分かっていて、目の前の妹の結婚相手にと押し付けるわけにはいかない。

私がしないと……。

このお見合いは、絶対に断ってはいけない。


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