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種と蕾の先へ 101

桃伽奈


=1996年=

 情報処理部

 3年 部長   猿渡楓
    副部長  美作大河
         西門裕二郎
         花沢開

 2年      久我里佳子
         九重美鈴
         高岡流星
       
 1年      西条夢子
         鍋島千恵子
         藤田亨 


花沢開side

 美鈴はなかなか目覚めなかった。
 その日はそのまま病院を後にし、次の日事態が大きく変わった。

 理事長が動いたのだ。
 俺達が持っていたデータを元に、弟の久我武文を問い詰めた。
 久我武文の供述によると、谷本薬品は抗不安薬(不安障害の治療)の1つとして芳香を使った製品を一般向けとして販売する予定だったという。
『ブルー・N・H』は、それの開発を行っていた谷本薬品の水嶋研究職員が作り上げたものであった。
 実験で香を嗅ぎ続けたマウスは、次第に攻撃性が無くなっていったという。
 どんなに興奮するような刺激を与えても、反応しなくなるという結果が出た。
 無気力無感動な状態に陥る結果に、これを人体に摂取するのは危険だという判断が下され、当初『ブルー・N・H』は破棄する予定だったらしい。
 だがどこからかその話を聞きつけたイクイップメント広田の広田昭之助社長は、逆にこれは将来的に大きな利益を生むと久我武文に話を持ち掛け、水嶋研究職員には内緒でサンプルを持ち出し、無許可で人体に使うようになったという。

 そして実験をしていくうちにいくつか分かった事。
 臭覚から神経細胞に伝わるこの香りは、成人した大人には効果が見られないという事だった。
 子供が酸っぱい苦いといった味覚の物を苦手とするのは、まだ複雑な味を理解出来ず味覚が未発達なせいもあるが、酸っぱいものは腐っている。苦いものは毒である。と言った防衛本能からきているとも言われている。
 聴覚でも同じで、モスキート音も大人になると聞こえなくなる。
 同じように『ブルー・N・H』も俺達には感じた白檀に混じった甘い香りが、大人には感じられないようだった。
 そこが、効果があるかないかの分かれ目らしく、甘い匂いを感じない大人には、香を嗅いでも効果はでないという結果が出ていた。

 理事長は今回の事で怒りをあらわにし、極秘で行われていた治験も即中止にさせた。
 そして今回の事を公にすると公言した。
 『ブルー・N・H』の開発者である谷本薬品の水嶋研究職員も、勝手にサンプルを持ち出し使用した事に激怒し、証言すると言ってくれた。
 だがそこで動いたのは、広田昭之助社長だ。
 以前理事長が言っていた通り、こんな人体実験まがいの事が世間に知られれば谷本薬品もイクイップメント広田も無事では済まされない。
 今まで英徳学園で、日本を代表する企業家の子供や政治家の子供を卒業させてきた理事長に、人脈というのはとても力強い味方ではあったが広田昭之助社長も負けてはいなかった。
 イクイップメント広田は日本の医療機器、医療器具の70%以上を占める大きな会社。
 海外にもその力を発揮し、日本の貿易にも大きな影響を与えていた。
 水面下でやり取りをする理事長と広田昭之助社長の決着に、軍配が上がったのは広田だった。
 最終的には政治が広田の味方をした。
 イクイップメント広田が倒産という形にでもなってしまえば、国内の医療部門に影響が出るのは必須。
 注射器がなければ患者の治療は出来ず、予防接種すら受けられない。
 貿易や税収、そういった全ての事を天秤にかけ、与党は国ぐるみでの隠ぺいをする結果となった。
 当然、俺達は自分の親にも力を貸して欲しいと話をしたが、国が相手では太刀打ち出来ず自分たちの力のなさを思い知った。







久我里佳子side

「お前達にはしてやられたよ」
 イクイップメント広田に屈する形で終結を迎え数日が過ぎた頃、学園の中庭で偶然広田先輩と出会い、立ち話が始まった。
 お父様と広田先輩のお父様がやり合った結果となり、まだ正式に結納を交わしていなかった私達の婚約は、双方慰謝料無しで破談となった。
 その結果に私は心底安心したが、どうしても許せないことがある。
「何故美鈴ちゃんに、あんなものを渡したんですか?」
「分量を間違えなければああはならない。用法を守れば、本当にただの精神安定剤となるはずだった」
 私がそう質問するのが分かっていたかのように、広田先輩は顔色1つ変えず答えた。
「……いつから使用させてたんですか?」
「付き合いだした頃だから、……去年の秋くらいか。香に興味があるっていうし、少量を渡してみたら気に入り次々と欲しがった」
「その時に止めて下されば……」
 だったら美鈴ちゃんは中毒者のようにはならなかったかも知れないのに……。
「自己責任だろ」
「……そうです。広田先輩だけが悪いんじゃない。でも美鈴ちゃんを助け出すことが出来たのも、先輩だけだったと思いませんか?」
「……」
「……」
 私の追求に広田先輩は目を反らした。
 そして聞き逃しそうな小さな声で呟く。
「……お前はずっと……俺が情報処理部にいた時からずっと、俺だけは苗字で呼ぶんだな」
「……え?」
 聞き返そうとすると、先輩は踵を返した。
「広田先輩?」
 名前を呼ぶと一度だけ振り返った先輩は、
「お前らのおかげで、親父に『ブルー・N・H』を勝手に持ち出し、美鈴に使ったのがバレて大目玉だ。……もうお前らの顔は見たくない」
 と言って、中庭から去っていき校舎の中へ入っていった。






花沢開side

「痛み分けって言葉は使いたくないな」
 裕二郎が覇気のない声を出し、今回の騒動を振り返った。
 広田達がした事を公にするにあたり、俺達は「BAIRI」活動が学園側(理事長)にバレ、現在部活動停止処分を受けてしまった。
 もう部室には集まれないので、俺達3年の4人はいつだったか里佳子とキスを交わした時計塔の展望台から、外の風を受けながら各々ポケコンに入れたプログラムを眺めている。
「でも私達の当初の目的、里佳子さんと広田の婚約破棄は達成しましたわ」
「そうだな」
「ところで、美鈴はまだ見つからないのか?」
「……ああ」
 美鈴が入院した次の日からバタバタとし、俺達は一度も見舞いに行けなかった。
 そして騒動が終われば、美鈴は病院から姿を消していた。
 どうやら両親が引き取ったようで、理事長にもその後の行方は分からないという事らしい。

「俺さ、やっぱり医者になるのは止めて家元を継ぐわ」
「裕二郎?」
「これからまたお家騒動が始まるけど……覚悟決めた。俺を押してくれた人達をもう一度説得して、兄貴とやり合ってみる」
「やりたくないって言ってなかったか?」
「今回の事で痛感したんだわ。力がなきゃダメだってな……。町医者じゃ大した力はない。西門の家を継いで、もっと大きな力を得るために頑張ってみる」
 裕二郎の決意に、大河も似たような事を言った。
 俺達の家が束になっても結局、広田の後ろ盾には敵わなかった。
 なら、俺達の代で今以上に会社を大きくするしかない。
 イクイップメント広田に負けない力を……。


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Posted by桃伽奈

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