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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

種と蕾の先へ 107

桃伽奈



横井沙織side

 広田裕介が父親の広田様から貰ったブローチを取り返すため、マンションの部屋を荒らす。
 私は仕事先の先輩の家にずっとお世話になるわけにもいかず、数日前からホテルで宿泊する生活が続いていたが、そんな生活に終止符を打つため、一度は奪われたブローチを取り返してくれた便利屋に再び依頼した。


 以前の依頼の時はメールのやり取りだけだったのに、今回は直接会ってくれるらしい。
 どんな怖い人達なんだろう……。
 人見知りせず、物怖じしない性格の私だから、デートクラブなんて仕事を続けていられる。
 会員メンバーには、広田様のような大企業の社長もいれば、政治家もいるし、あからさまには言わないけど裏の人間と言われる人もいると思う。
 でもお店を通じて会うお客様は、店が守ってくれているって安心感がどこかにあった。
 だからずっと平気でいられたんだと、私は今頃気づいた。
 だって、個人で会うのがこんなに怖いって感じているんだから……。
 ああ……。っていうか、私今かなり弱っているよね。
 ナイフで切り刻まれた枕やベッドを見れば、誰だって怖いし警戒心だって強くなるよね。


 そんな恐怖を抱えながら、指定された時間の5分前に約束の喫茶店に入店した。
 後から人が来ると店の人に伝え2人席に案内されると、落ち着かせるためにコーヒーを頼んだ。

 ……私は依頼者。客の立場だ。
 お金さえちゃんと払えば怖い事なんてない……っと必死に言い聞かせていると、頼んだコーヒーがテーブルに運ばれる。
 砂糖とミルクを入れて一口飲み、ほう……っと息を吐くと、間の前に黒いジャケットに黒いズボンを穿いた背の高い男性が立っていた。
「……あ」
 この人が便利屋? って思うと、男性は私の正面に座った。
 私よりも先に喫茶店に来ていたのか、手にはアイスコーヒーを持っていて、周りの人には知り合いがいたから席を移動したような装いを見せる。
 入店の時に知り合いが来るって伝えてあるから、店員も特に変な顔はしなかった。
「あの……」
「横井さん」
「はい」
 私の名前を言うって事は、やっぱりこの男性が便利屋の人なんだ。
 この人だけ?
 他にはいないのかな。
 周りをチラチラって確認すると、店内にいる客はカップルでいる人や1人で来ている人など疎らだ。
 そのどれもが、便利屋の仲間に見えてくる。
「キョロキョロしない」
「あ、すみません」
 大きい体に合った低い声と、命令口調に体が一瞬委縮する。
「それで? 仕事は何を依頼したいんだ?」

 私は前回ブローチを取り返してくれた事にまずお礼を言って、ブローチにまつわるこれまでの話をした後、今回の依頼内容を話した。
「広田がブローチを諦めていないらしく、私が留守の間に何度も家探しをされるんです。この前は枕やベッドまで切り刻まれた状態で、段々エスカレートしてきていて……。依頼内容は広田からブローチが狙われないようにして欲しいって事です」
「……」
 話を聴いた男性は、黙り込んでしまった。
「……」
「……」
「……」
 ピンと空気が張り詰めた状態での無言に、居心地が悪い。
 空気を入れ替えようと、私はもう一度コーヒーに手を伸ばした。
「……単刀直入に話す。その依頼は受けられない。他を当たるんだな」
「え……? 何故ですか?」
 お金を払えば何でもしてくれるって……。私は先輩からそう聞いていた。
 前回だって、ブローチを取り返して欲しいって依頼すると、あっけないほど簡単に手元へブローチが戻って来たのに……。
「ブローチを取り戻した事で、広田に目をつけられてこっちも困っている。悪いがもう関わりたくないんだ」
 男性は真っすぐ私の目を見て話す。
 射貫くような鋭さに、人見知りも物怖じもしない性格だと自負していたのにやっぱり怖い。
「あの……お金ならちゃんと払います」
「そういう話じゃない。あんたは前回もキチンと払ってくれたし、その面では信用している。ただ相手が悪いって話だ」
「……っ」

 どうしよう……。
 当てが外れてしまった。
 まさか断られるなんて考えていなかったから。
 今日は具体的にどんな風にして広田から守ってくれるのかと、その相談をするんだとばかり思っていたのに……。

「まぁ落ち込むな。あんたは上客だし、別の依頼ならいつでも受ける」
 男性はそう言って腕を伸ばし、私の肩より長い横髪をかき分け、耳に触った。
「……っ」
 驚いた顔をすると、鋭い目をしていた男性が一瞬笑った。
 そして私が声を出す前に、耳につけられたイヤホンから声が聞こえる。
『声は出さずに』
「……!!」
 声は出さずと言われて、咄嗟に出そうになった声を我慢する。
『まずは僕たちの指示通りに動いてくれる?』
 ……え?
 でも……。
 どういう意味だろうって目の前の男性を見るが、さっきと同じ鋭い目で私を見ているだけだ。
 よく見れば彼の耳にもイヤホンが付いている。
 あれと同じやつが私の耳についているのかな……。
 私は前の男性に小さく頷いた。
『前に座っている奴に、「わかりました。もう結構です」と言って、席を立ってくれる? そうしたら店のトイレに入って』
 ……? 
 意味は分からなかったが、私は言われた通りに言って女子トイレに向かった。

 トイレのドアを開けると、鏡と手洗い場がある小さなスペースに先客が1人いた。
 個室は1つしかなく、これからこの女の子がトイレに入るならここの手洗い場で待っていてもいいのかな……なんて思うと、女の子は私の横をすり抜けトイレの入り口に鍵をかけた。
「……え?」
 閉じ込められた?
 な、何で?

 よく見ると女の子もさっきの便利屋の男性と同じように黒い服に、黒い帽子を目深にかぶっている。
 便利屋の仲間?
「あの……」
「小さい声で話して。横井さん、あなた後をつけられてる」
 言いながらさっき男性につけられた耳のイヤホンを、女の子は外してくれた。
「つけられているって? 尾行って事?」
「そう。多分ブローチを取り戻したいと思っている広田の人間。だから表向きは依頼を断ったって形にしたかったの」
「……」
「依頼は受けるよ。ブローチが狙われないようにすればいいんだね」
「は、はい」
「どうするかはこれから考えるから、今はいつも通りに生活していて。何かあればこの携帯に連絡するしいつも持ってて」
 と言われ、女の子にガラケーを手渡される。
「あと、今はホテルに泊まってるんだよね?」
「はい……」
 な、なんで知ってるの……!?
「もっとセキュリティがしっかりしている所が……。あなたが働いているお店って、寝泊まり出来るの?」
 え?
 しょ、職場までバレてる!?
 ……。
 けれども真剣に私を心配してくれているような表情の女の子に、細かい事を追及するのをやめ真剣に考えた。

 私が働くデートクラブは、見た目は普通のオフィスビル。
 中を改装して、1階から3階部分は吹き抜けのロビーで、4階はお酒を楽しめるお店だ。
 5階以上が、女の子と2人だけで楽しみたい会員用にと個室が用意してある。
 ……私は使った事ないけど。
 支配人が許してくれるなら、確かに寝泊まりは出来ると思う。
 それにエレベーター前には、必ず黒服による会員メンバーのチェックが入り、メンバー以外は中に入れないシステムだ。
 そういう意味ではホテルよりずっとセキュリティはしっかりしていると思う。

「でも出来るかは聞いてみないと分からない」
 私の返事に女の子は「うん」と頷いた。
「さっき段々エスカレートしてきているって話していたでしょ。最悪の場合、拉致されて無理やり……とかも考えられる」
「無理やり……」
「あ、ごめん。怖がらせたいわけじゃないの。……ただ広田はそういう事も出来るやつだって知っていて欲しくて」
「……」
 そういう事も出来るやつ……。
 そうかも……。
 警察も報道も広田の力で握られ、あてには出来ないというのは実証済みだ。
 前回は枕やベッドが切り刻まれ、いつかは私もあんな風になってしまう可能性だってあるかも知れない……。

 これはお店に寝泊まり出来るかどうかではなく、是が非でも支配人を説得して寝泊まり出来るようにしなければ。
 私が決意を固めると「そんな怖い顔しないで」と、女の子は言いながら自分の横髪をかき分けた。
 髪の毛に隠れていた耳が露になると、さっきの男性がしていたものと同じイヤホンを付けている。
 その少し下、耳たぶの所にピアスが付いていた。
「このピアスね。発信機付きなの。もしあなたが攫われたりしたら絶対あたしが見つけ出して助けてあげる。だから付けてて」
 女の子が耳から外したピアスを私の耳に付けようとするから、いつも付けていたピアスを慌てて外した。
 女の子はニコっと愛らしい顔で笑い、一歩踏み出してピアスを外したばかりの耳に発信機のピアスを付けてくれる。
「……ありがとう」
「あたしの名前は牧野つくし。横井さんのブローチを取り返したのもあたしなんだよ」
「そ、そうなの?」
 さっきの男性じゃなく、目の前の女の子……牧野さんが?
 どう見たって高校生くらいに見えるのに……。
「だから大丈夫。安心してね」
 もう一度ニコって笑う笑顔に、私は肩の力が抜けた。
 ずっと緊張して張り詰めていたものが弾けたみたいに、涙がこぼれてくる。
 牧野さんはそんな私を抱きしめ、背中を優しく叩いてくれた。
 こんな風に人に甘えるなんて、何年振りだろう。
 鼻をすすりながら、止まらない涙を手で何度も拭った。


 暫くして落ち着いたら、持ってきていた例のブローチを牧野さんに預け、私は1人でトイレから出た。
 座っていた席にさっきの男性はもうおらず、お店の人に聞くと会計も済ませてあると言われた。

 店の外に出ると、誰が私を尾行しているのかすごく気になったが、「いつも通り過ごして」っていう牧野さんの凛とした可愛らしい声を思い出し、ホテルを引き払うため歩き出した。


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