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種と蕾の先へ 109

桃伽奈



横井沙織side

 便利屋へ依頼をし、渡された連絡用の携帯が鳴ったのは、1ヵ月近くたってからだった。
 電話の内容は、先日喫茶店で会った牧野さんの指示に従い、一緒に広田裕介に会って欲しいという事だった。
 広田裕介に「形見のブローチの事で会いたい」と連絡を入れると「2日後会社に来て欲しい」と言われ、当日は会社がある品川駅で牧野さんと待ち合わせをする事になった。


「今日がね。都合がいいんだ」
 待ち合わせ場所で牧野さんは、そう説明してくれる。
「都合って? 今日の日を指定してきたのは、広田裕介の方だけど……」
 私は動きやすい服装って指示があったからスカートではなく、パンツタイプのグレーのスーツにローヒールパンプスを選んだ。
 目の前に立つ牧野さんは、黒のハイネックの服に足首近くまであるロングスカート。
 彼女はまだ高校生みたいだから、スーツは持ってないとしても……その恰好は動きにくいんじゃないかな……なんて思ってしまう。
 それに声も……。トイレで会った時は凛とした可愛らしい声だって思ったけど、今聞くと特別印象強くない。
 あの時は緊張して気が動転していたし、記憶違いだったかな……。

「まずは……、横井さんのブローチだけど。あれって簡単にいうと、イクイップメント広田の金庫の鍵みたいなものでね」
「鍵……ブローチが!?」
「そう。正確にはブローチについた宝石。あれを金庫のドアの横ある操作盤の窪みにはめ込むとドアが開くみたい。だから広田裕介は取り返したくて、横井さんにつきまとってた」
 ……なるほど。
 狙われる理由はすごく納得した。
 広田裕介に「思い出の品だから返して欲しい」って言われたのは嘘だったんだ。
 金庫の鍵って言われて、こうやって狙われる方がどこかしっくりくる。
 その仕掛けは全然分からないけど……。

「だったら金庫の鍵を開けちゃおうって作戦を今回立てた。開いてたら鍵なんて必要ないじゃん?」
「そうだけど……そんなに上手くいくの?」
「だからちょっと横井さんにも手伝ってもらいたくて呼び出したんだ」
「何をすればいいの?」
「そんなに難しい事じゃないよ。今日はその金庫の番人の人数が手薄で、鍵を開けやすいんだ。だから仲間が金庫を解除している間、広田裕介に会って気を反らして欲しい」
 最初の都合がいいっていうのは、番人が少ないからって意味だったのかな……。
 ……って、気を反らす?
 難しそう。
 出来るだろうか……。
 それに仲間っていうのは、喫茶店で会った怖そうなもう一人の男性の事かな……。

 私の不安が顔に出ていたのか、牧野さんはニコって笑った。
「大丈夫。一緒に行くし、何があっても守るから安心して」
 トイレで会った時と同じ事を言われ、黒曜石のような黒い瞳が私をジッと見る。
 自然と任せてもいいんだって感じて気が楽になった。
「お願いします」
「うん。まずはこれ耳につけて」
 前回と同じイヤホンを手渡され耳に付けると、牧野さんはウェーブがかかった私の髪の毛で見えないように隠した。
「それで金庫を開ける仲間の動きが通信で聞こえてくるから、聞き流す程度でいいし状況を把握して。マイク内蔵だからこっちの声も向こうには聞こえるよ。あっ! あと横井さんに嘘をついて貰わなければならないんだった」
「嘘?」
「この前預かったブローチ。今は鍵を開けるためにその仲間が持っているんだけど、広田裕介には横井さんが所持しているって思わせて欲しい」
「ああ、私達が話をしている裏で、金庫の鍵を開けているって思わせないためにだね」
「そう。よろしくね。……それとこの腕時計も」
「腕時計?」
 私はつけている時計を外し、貰った時計を手首に付け直す。
 女性物なのか黒のバックルは細めで、時計の表示が針で動くのではなく電子機能になっている。
「これで心拍数が測れるから。横井さんが辛そうだったら、仲間がまだ金庫を開けられていなくても退席する」
「……? 緊張はしているけど、倒れたりするほどじゃないよ」
 そこまで軟ではないと思っているけど……。

 その後、もう少し詳しく打ち合わせをしてから私達はイクイップメント広田の会社に向かった。



 イクイップメント広田の会社に一歩入ると、駅の改札口を思い出した。
 磁気をかざさないと開かないゲートが5列ならんでおり、外出から戻ってきた社員らしき人は、首からさげた社員証をかざして中に入っていた。
 駅と違うのは床がピカピカなくらいだろうか……。
 あ、天井も高いし、LEDが明るく清潔な感じだわ。
 なんかセキュリティが厳しそうだけど、その仲間っていう人はどうやって会社の中に入るんだろう……。
 私と牧野さんは社員証なんて持っていないから受付に行き、社長とアポがある事を話すと、ちょうど12時の昼食を知らせるチャイムが鳴る。
 暫くして秘書だと名乗る男が迎えに来た。
「お待ちしておりました。横井様……こちらの方は?」
 秘書の人は牧野さんを見て聞いてくるので、事前に打ち合わせをしていた通りの答えを話した。
「こんな大きな会社に訪問するのに1人だと心細いので、友達について来てもらいました」
 私が紹介すると、牧野さんは「こんにちは」とお辞儀をして挨拶をする。
 友達と言えるほど彼女の事は知らないけど、不安だった気持ちも彼女といると何とかやり過ごせるかもって前向きな気持ちになってきた。

「そうでしたか。ではお友達の方もご一緒に……。部屋で社長がお待ちです」
 秘書の男性に続いてピカピカな床を歩いていくと、別の人が開けて待っていてくれたエレベーターに乗った。
 3人が乗ったのを見ると、待っていてくれた人は中には入らず一礼する。
 頭を下げている間にドアが閉まり、エレベーターが動き出した。
「……? さっきの人は乗らないんですか?」
「はい。こちらのエレベーターは役員専用ですので」
 ……?
 何? つまりさっきの人は役員じゃないから、このエレベーターには乗る資格がないって意味なの?
 まさか「エレベーターのドア開け係」なんて職業はないだろうし……。
 ってか私も役員じゃないし、あなただって秘書なら役員じゃないよね。
 そんな風に1人ツッコミを入れていると、高速で動くエレベーターは途中の階には止まらず、目的地まで私達を運んでくれた。


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Posted by桃伽奈

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