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種と蕾の先へ 112

桃伽奈



横井沙織side

 社長室で世間話を広田裕介としながら、私はずっと耳につけたイヤホンから便利屋の人達が話している会話を聞いていた。
 聞き流していいって牧野さんには言われていたし、「ああ、今社内にいるんだ」とかそんな風にしか思っていなかったけど、どうやらその金庫を開けるには宝石の他に暗証番号が必要なんだっていうのが聞き取れた。

 暗証番号……。
 そんな話は聞いてない。
 あのブローチを渡されたときは、お母さんとの思い出が詰まっていると言われただけだ。

 広田裕介と話をしながら、頭の端ではブローチを貰った時の広田様の話を必死に思い出す。
 っていうか、あの日の事は忘れられない。
 私の誕生日だった。
 いつも食事をするレストランの個室で、部屋を暗くしてお店の人に囲まれバースデーソングを歌われた。
 すごく恥ずかしくて、心の中で何度も私の年齢を考えてってツッコんでいた。


「……どうかしたかい? 沙織」
「え?」
 過去の事を思い出していたら、目の前に座る広田裕介の声で現実に引き戻された。
「心ここにあらずの様子だが」
 目の前で広田裕介が心配した表情を顔に貼り付け、話しかけてくる。

 ……。
 ……。

 『どうかしたかい? 沙織』

 今聞いた広田裕介の声が頭の中を木霊する。
 親子だから似ている声だって思っていた。
 しゃがれた広田様の声にハリが出たら、こんな感じなんだろうなって……。
 でも耳に届く声の響きが、胡散臭さを感じる。
 今目の前にある表情のように……。

 『どれ、つけてあげよう』
 『嫌かい? お古は』

 上手く表現できないけど、広田様はいつも私に一生懸命というか必死だった。
 私を喜ばせようと必死に言葉を紡いでいたんだと、2人の違いを見つける。


「ちょうどお昼時だ。外で食事でもするかい?」
「あ……」
 食事……。
 した方がいいのかな? 私的にはこの時間にアポを取ったのはご飯を強請っているみたいに見えるから、それは断りたいんだけど……。
 でも「外で」って事は、会社からこの人が遠ざかるんだし……便利屋的には、その方が都合よかったりする?
 私が返事に困っている間に、広田裕介は席を立ちあがってしまった。
 ……ど、どうしよう。
 もう行く気満々になっちゃってるよ……。
「あの……」
 行くか行かないか答えを決めていないのに広田裕介を呼び止めると、隣にいる牧野さんが代弁してくれた。
「この後2人で食事に行く約束をしているから結構です」

 あ、行かなくていいって事なんだね。
 私は牧野さんの言葉に、胸を撫で下ろした。
 もちろんこの後の食事の約束とかっていうのは、牧野さんのアドリブだ。
「そうか……若い子には評判のいいオシャレなイタリアン店が近所にあるんだが、残念だな」
 言葉ほど残念という顔をしたようには見えないが、広田裕介は胸ポケットからスマホを取り出した手を元に戻し、ソファーに座り直した。
 もしかしてそこへ電話予約でも入れようとしてスマホを手にしたのかな……。

「そのお店にはよく行かれるんですか?」
 詳しそうだし話の流れで聞いてみると、
「ビジネスで行くようなところではないがな。先日、一部上場したんで株を買ってみたんだ」
 それはビジネス以外では利用するって意味なのかな。
 まぁ、私とはビジネスじゃないしね。
 そういえば、広田様といつも一緒に行ったお店もビジネスって雰囲気じゃなかったな。
 オシャレなレストランだった。
 いつも個室だから、ほかの客との接点があるわけじゃなかったけど……。



「breath」

 ブローチを貰ったレストランを思い出した私が、脈来もなく「breath」の単語を口にしたので、前に座る広田裕介も隣に座る牧野さんも驚いた顔を見せた。
「……あ」
「ブレスとは何だい?」
 当然広田裕介は聞いてくるが、私は通信で便利屋の人にも伝わるようハッキリと意味を口に出した。
「広田様は、あのブローチに「breath」って名前を付けていました。偶然にも広田様とよく一緒に食事したレストランと同じ名前だったのを思い出して」


 ブローチを貰った時に広田様が教えてくれた事。
『このブローチには名前があってな』
『……名前ですか?』
 聞き返すと『breath』だと教えてくれる。
『ブレスって、呼吸とか息の?』
『そうじゃ。「一息」という意味だ』
 ブローチに名前って、そんなセンチメンタルな事をするような人には見えないのに……。
 若干引きつつも、お母さんとの思い出は広田様にとって一息つけるのかと思うと、嬉しかったのを出した。

「確か社長が持っていた株のリストに「breath」って店があったな。その株は沙織が相続したはずだ」
 広田裕介はソファーの肘掛けに片肘をついて、思い出すように話した。
 私はよく知っているなと思いながら「はい」と頷く。
 確かに「breath」の株は私が相続した。
 相続関係はすべて弁護士さんにお任せだから詳しくは知らないけど、気が付けば私はいつの間にかレストランを運営する会社の大株主になってしまっていた。
 だからって取締役になったとかではないらしく、ただ年に一度ある株主総会に出席すればいいだけらしい。
 それも食事会みたいなものだから、気楽に行けばいいと言われた。
 株には全然詳しくないけど、やっぱり少しは勉強しないと駄目だよね。
 今後のデートクラブの仕事……。株とかそういった話は、お客様との会話にも繋がるだろうし……。
 なんて反省しつつ、広田裕介との会話を進めている間に、通信のイヤホンから『鍵が開いた』との報告が入った。
 この声は、喫茶店で会った時のあの怖い男性だ。
 暗証番号は思った通り、ブローチの名前で正解だったみたい。

 通信からは『データの移行があるから、もう少し時間がかかる』なんて話が聞こえる。
 データの移行ってなんだ?
 金庫の鍵を開けたら終わりじゃないの? 
 って疑問思うがここでそれを問いただす訳にはいかず、私は頭を切り替え、このまま株の仕組みとやらをイクイップメント広田の新社長にご講義願おうと話を降ってみた。

 が、少ししてから慌てたようなノックが社長室のドアから聞こえてくる。
「「……?」」
「なんだ?」
 広田裕介の声と共にドアが開き、さっき私達を社長室まで案内してくれた男性秘書が、ノックと同じように慌てた感じで足早に動き、素早く広田裕介に耳打ちをする。

「……」
「……なんだと!?」
 途端にソファーから立ち上がり、瞳孔が開いた広田裕介が私達を見下ろした。

「お前は今、あのブローチは持っていないのか?」
「……!!」
 怒りを含んだ瞳と、「お前」呼ばわりの低音の声に、条件反射でビクっと体が震える。

 恐怖に震えた私とは違い、隣の牧野さんは落ち着き払った様子で、
「あ~ヒロ……。バレたみたい」
 って呟くと、通信からは『みたいだね。鍵が開くと秘書にメールでも送られる仕組みになっていたかな』なんて声が耳に届き、牧野さんは座っていた私の腕を引っ張り立ち上がらせてくれる。

 それが思っていたよりも強い力で、私はびっくりした。








ヤバイ……。お話のストックが><
もしかしたら来週、お休みする日があるかも……です;;


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Posted by桃伽奈

Comments 2

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2018/05/18 (Fri) 20:35 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

n様
 訪問&コメントありがとうございます。

 こんばんは。いつもありがとうございますw
 最近は金曜になると、明日はお話を予約投稿しなくていいって思いホッとします……。
 (↑おい)
 全然お話のストックが貯まらず、どれだけギリギリでやってるんだって感じですが、今後もヤスとヒロをよろしくお願いいたします<(_ _)> 

 夢の毎日更新ですが、私も早々に諦め……。でも憧れる気持ちはいつまでも持ち続けています♪

 n様もリアル優先で、あまり無理はされませんように。
 これからもよろしくお願い致します^^
 先日リクエストされていた例の2人組も楽しみにしております♪
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈

2018/05/19 (Sat) 03:15 | EDIT | REPLY |   

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