Welcome to my blog

種と蕾の先へ 113

桃伽奈



横井沙織side


 ソファーから立ち上がった牧野さんは、口からスイカや梅の種を飛ばすように何かを吹き飛ばした。
 それが広田裕介の顔に命中する。
「……っ!」
 広田裕介と横に立つ秘書が一瞬注意を引かれた瞬間、私は牧野さんに腕を引かれ出口である一つしかない社長室のドアへ向かった。
 その私達の動きにいち早く反応したのは、秘書の男性だった。
 追いかけてきた秘書に、肩を掴まれると思った瞬間、前にいた牧野さんにグイっと引っ張られ前後が入れ替わる。
 ……え?
 と思ったら、伸びてきた秘書の手を牧野さんは、私を後ろに隠すようにしてから振り払っていた。

「まてっ」
 広田裕介の言葉で、秘書の男性は動きを止める。
「沙織、どういう事だ?」
「……」
 どういう事って……。
 私がこんな行動にでるのには、広田裕介が一番わかっているだろうに……。
 牧野さんの影に隠れたまま、私は広田裕介の顔を睨みつけた。
「……もうブローチを何度も狙われて、家に帰れなくなるのはごめんだって思ったから」
 だから便利屋に頼んで鍵の意味を無くしてもらうという作戦に出た。

「もう俺達の仲間があの中のデータを回収している頃だよ」
「俺達……?」
 隣の牧野さんの一人称が「俺」なのに、広田裕介だけでなく私も牧野さんを見た。
「横井さんとは利害が一致したから、今回俺達に協力して貰った。横井さんはもうあんた達と関わりたくないっていうし、俺達はサーバーの中にある『ブルー・N・H』の情報が欲しい」
 姿は先日喫茶店のトイレで会った「牧野さん」だけど、話している声がだんだん女性ではなくなり、まるで男性の声のように低く変化していく……。
「……お前、男か?」
「社長はさ……。「牧野」って名前に聞き覚えはない?」
「牧野?」
 話しながら牧野さんは私の体を軽く押して、出口に向かわせる。
「俺はあんた達が花沢里佳子と一緒に自殺に見せかけて殺した牧野晴夫の一人息子だよ」
 ……!?
 自殺に見せかけ殺したって……?
 え?
 何……を言ってるの……?

 私が驚き固まってしまうと、もうすっかり男性の声になってしまった牧野さんが「逃げてっ」って叫ぶ言葉と共に、出口のドアを勢いよく開けた。
 つられて社長室から出ると、続き部屋の秘書室で追いかけてきた男性秘書が牧野さんの肩を掴む。
「俺に構わずここから逃げて!」
 それだけ言うと、秘書の人と対峙して殴る蹴るの攻防が開始された。
 秘書室にいた女性2人の秘書は、私以上に驚きその場から動けない。
 ……逃げてって……。
 牧野さんはどうするわけ?
 ……。
 このままこの人にやられたりしたら。
 ……。
 ……どうにかしないと。
 って、私に出来る事って……。
 ……。
 ……あ、そうだっ。

 私は言われた通り秘書室の出口に向かい、廊下へ続くドアを押し開けた。
「牧野さんもこっち来て!」
 ドアを開けたまま叫ぶと、一瞬のスキをついて牧野さんはダッシュでドアまで走ってきた。
 一歩出遅れた感じで後をつけてくる秘書の目の前で、私は勢いよくドアを閉める。
「開かないように閉じていてっ!」
 牧野さんは「何で?」って顔をしつつも、私が言ったように追いかけてきた秘書がドアを開けようとするのを阻止するため、体重をかけてドアを抑えた。
 ここのドアはオートロックになっており、ドアの外から入るにはパスコードが必要だが、中からは何もしなくても開いてしまう。
 だから開かないよう牧野さんに抑えてもらっている間に、あたしは暗証番号を入力する操作盤を触った。
 適当にボタンを押すと、ビーッという警告音が鳴ると共に、ガチャっとドアのロックがかかった音がする。
「……え?」
 牧野さんが少し驚いて私を見るので、このドアの仕組みについて説明した。

「私が働いているお店と一緒の操作盤だったから、同じかなって思って。一度ロックがかかると外敵から守るため、セキュリティ会社の人がロックを外すまで中から外には出られないの」
 遠隔操作で開ける事が出来るから、時間稼ぎはわずかだけども……。
 高級会員デートクラブであるお店のお客様は、VIPといわれる人達ばかりで当然お店のセキュリティは厳しい。
 見た目がオフィスビルの入り口を一歩中に入ると、そこはホテルのロビーのような内装。
 受付の奥にドアが一枚あり、受付にいる黒服は会員が来たら操作盤を操作してドアのロックを外す。
 そのドアの奥に、お店へとつながるエレベーターが用意されているのだ。
 万が一、招かざる客が来た場合のため、操作盤を適当に押してエラーを出てしまうと、中にいる人の安全確保のためドアが開かない仕組みになっていた。

「横井さん急ごう。すぐ社内にいる警備員が来る」
「う、うん」
 ……そうだよね。
 セキュリティ会社がドアを開けるには少し時間がかかるだろうけど、広田裕介が電話一本すれば社内にいる警備員達は私達を捕まえにくるはず。
 牧野さんは乗って来たエレベーターに向かって駆け出すから、私も走って追いかけた。
 そのまま一階までスムーズに降りる事ができ、会社の外へ出るためロビーを走ると、警備員が3名、私達に気づき出入り口から向かってくる。
 牧野さんは「チッ」と小さく舌打ちをして、私達を捕獲しようとする警備員と対峙した。

 自分では到底真似できない、流れるような動きに目が奪われつつも、牧野さんが拘束されてしまうんじゃないかという不安で、心臓がドキドキと大きな音を立てる。
 3対1では分が悪いよね……。
 かと言って、中に入って手助けできるとも思えず、私は5メートル程離れた後ろで、牧野さんと警備員の攻防を見ていた。
 ……牧野さん、頑張れっ。
 やられないでっ。
 そう願いを込めていると、1人の警備員が私に気づき、先に私から捕獲しようと思ったのかこっちに向かってくる。
 恐怖の連続で一歩も動けない足に、捕まっちゃう! って思うと、私の目の前で新たな腕が横からにゅっと伸びてきた。
「……!?」
 目をしっかり開けると、喫茶店で最初に会った怖い男性が、警備員の腕を捻り上げ動きを封じた。
「あ……」
 と思った瞬間、どうやったのか警備員が気絶したように意識を失う。
 私を捕縛しようとした警備員が床に転がると、怖い男性は牧野さんの方へ走り、同じように残り2人の警備員も意識を失い床に転がせた。
 ……つ、強い。
「走るぞっ」
 男性の声に、動かなかった足が再び動き出し、私達は急いで会社から外に出た。


関連記事

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/05/22 (Tue) 16:25 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

J様
 訪問&コメントありがとうございます。

 おはようございますw
 思っていた以上に長くなってしまったお話ですが、もうゴールは間近かと思いながら書いております。
 拙い文ですが、ドキドキしていただき嬉しいです。

 また類君とつくしちゃんがお休みの回が続いておりますが……^^;
 もう少ししたらちゃんと出てきますのでお待ちくださいw
 お話を読んで下さりありがとうございました。
 桃伽奈 

2018/05/23 (Wed) 09:19 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply