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種と蕾の先へ 117

桃伽奈


 

類side

 時計塔には、自宅の部屋と同じくソファーなど寛げる物は置いていなかったから、司と総二郎はベッドへ腰を下ろし、あきらは床に胡坐をかいて座った。
 俺は座っているパソコンの椅子を回転させ、3人の顔を見る。

「この前さ、牧野と一緒にここで話した事があっただろ。俺が調べておくって言ってたやつ」
 まずはあきらがこの部屋を訪ねた理由を話し出した。
 つくしと一緒の時に話していた事は、なのはな施設で使われている可能性がある『ブルー・N・H』の事だ。
 それが千葉にある犬の訓練所でも使われているんじゃないだろうかって話になり、あきらが調べておくと言ってくれた。
「ん」
「あれ、うちの諜報員に探らせようとしたら、親父に見つかってさ」
「あきらの父親に?」
「何の用件で人を動かすんだって聞かれて正直に話したら、親父が後はこっちでやっておくって事になっちまって……俺の所に情報が降りなくなった」
 あきらは顔の前に手を合わせてゴメンのポーズをとる。
 が、申し訳なさの顔の中には悔しさが見え隠れしていた。
「そ」

 こっちでやっておくって事は、あきらの父親が動くって事なのか?
 11年前、なのはな施設への潜入が失敗した時に、美作商事はこの件から手を引くことになった。
 だからヤス達は美作商事を退職して、独自でずっと調べ続けていた。
 けど先日、横井って人と進がイクイップメント広田の会社へ行きサーバーからデータを抜き取った時の様子からして、あきらの父親とは今でも連絡は取り合っているような感じだ。
 あの桜子って人は、美作商事で働いている女性のようだし……。
 それともただ俺の父親のように、息子には関わらせたくないってだけなのか?
「それでな、類。……おい、聞いてるか?」
「……! あ……うん」
 あきらは考え込んでいた俺の様子を見て、全く……と呟きながら話を続けた。

「会社の力が借りれないとなると、調べるのも簡単にはいかなくてさ。俺が知ってるのは犬の訓練所が千葉にあって、費用がバカ高いって噂だけだったし。司も訓練所の存在は知っているみたいだから、今回の事全部話して2人にも協力してもらえないか聞いてみたんだ」
「全部って?」
 何をどこまでだろう……。
「俺らの親が高校時代の時に起きた出来事全て」
 あきらが告白すると、司達は表情を硬くした。

 そして司は真っすぐと力のある目で俺を見る。
「……まぁ俺は、親がどうのっていうよりは、上手くすれば類の母親の濡れ衣を晴らす事が出来るってことだろ?」
「ん」
「じゃ、俺も司と一緒の意見だ。潔白を証明しようぜ」
 2人とも俺の母さんが、つくしの父親と不倫して自殺したという週刊誌の記事が出てから、人が信じられなくなった俺の事を知っていた。
 だから何よりもその事を優先させようとしてくれるのが、素直に嬉しいと感じる。
 今のところ、母さんの死については状況証拠だけだ。
 父さんが見つけた、ダッシュボードの中にプリクラが貼られていないっていうのも握りつぶされてしまったし、広田が殺人を自白するなんて事はあり得ない。
 何か……動かぬ証拠みたいなものはないものかな……。


「つっても、俺も噂で聞いただけだしな。誰から聞いたのか覚えてねぇし……」
 司もあきら同様、訓練所については詳しく知らないって言うと、
「俺はその訓練所自体知らなかったし、司とあきらが2人でいた時に噂を耳にしたのか?」
 総二郎はどこで聞いたか思い出せるか? と訪ねた。
「どこだったかな……」
「……最近だよな。聞いたのは」
「ああ、俺もそうだ。なら一緒にいた時か?」
「……」
「……」
「……学園の中か……?」
「金持ちの間で流れている噂なら、外のクラブよりは可能性あるかも……」
「じゃ、明日っから聞いて回ろうぜ」
「ああ」
 司と総二郎が自分達のする仕事を決めると、あきらは「牧野は?」と聞いてきた。
「最近類はずっと休んでるし、牧野も学園で見かけないから、ここに閉じこもって仲良く過ごしてるんだと思ってたのに……」
んなわけ、ないじゃん……。
 そうだったらどんなに良いか……。
 休んでいたのは、イクイップメント広田へサーバー攻撃を仕掛ける準備と、つくしの事が気になってパソコンから離れられないからだ。

「つくしは今、なのはな施設にいるよ」

「「「なのはな施設?」」」
 3人が聞き返し、司が
「ってあの何とかって薬が使われている所だろ?」
 と確認してきた。
「ん。11年前は、大人の諜報員が職員に成りすまし施設の事を調べていたから、今度はつくしが生徒側として調べている」
 俺は話しながらパソコンのモニターに視線を移した。
 モニターには、つくしの腕時計から送られてくる心電図が規則正しく波打っており、GPS付きのピアスもなのはな施設をさしている。

 喫茶店で横井って人から依頼を受け、立てた計画はこうだった。
 ヤス達がイクイップメント広田のサーバーからデータを盗むよりも2週間早く、つくしをなのはな施設へ潜入させた。
『ブルー・N・H』がなのはな施設で使用されているという証拠……現物を見つけ出すために。
 それがデータを盗む作戦開始日になっても、つくしからの連絡はない。
 仕方なく代打で進がつくしの姿をして、広田裕介に会いに行ったのだが……。
 ……あんなにそっくりに変装出来るのには驚いた。
 声が違うだけで、カメラから見た顔は「つくし」だった。



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Posted by桃伽奈

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