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種と蕾の先へ 134

桃伽奈




つくしside

 相田さんが家に帰った日の夜、あたしはまたみんなが寝静まったのを確認すると宿舎を抜け出した。
 校舎の中へ入り、非常灯の明かりを頼りに廊下を歩いて行く。
 『ブルー・N・H』を見つけ出すため図書室の中に入ると、昼間は人がいて探れなかった受付カウンターの中に入る。
 部屋の明かりをつけるわけにはいかないので、腕時計のライトを使いカウンターの下などを照らしてみた。
 机の引き出しも順番に開けていき中を確認するが、プリントとかばかりでそれっぽいものは発見できない。
 自習室の方にも行ってみたが、何も見つけられなかった。

 絶対あるはずなんだ。
 この部屋全体にこの匂いが充満しているんだから……。
 けどよく考えてみると目立たない場所だよね。
 香を焚く場所って。
 生徒の目に付くところにあるなら、何で図書室の中で本の匂いがするお香を焚くんだって疑問に思われちゃうもん。

 ……。
 ……っ!
 あたしは本棚の上に視線を移す。
 脚立を使わないと一番高いところにある本は届かないような、2メートル以上はある高さの本棚なんて、下から見ただけじゃ天辺は見えない。
『ブルー・N・H』がないか確認するため、棚の仕切りに足をかけ天辺までよじ登った。
 時計のライトで本棚の上を見るが、見える範囲の本棚は全てフラットでお香を焚く時に使う器などが置かれているようには見えない。
 光が届かない場所も確認しようと、本棚の上をジャンプしながら移動してみる。
 3台目の上に来たところで、廊下から足音が響いてきた。
 ……え?
 誰か来る?

 腕時計の時間を確認すると、日付が変わり0時15分だ。
 一番壁際の本棚までジャンプしながら移動し、腕時計のライトを消して目立たないよう腹ばいになった。
 足音は2人分。
 図書室に来るのかな……って身構えていると、ドアが開き懐中電灯が室内を照らした。
 一度だけ室内を映し出すと、懐中電灯を持っていた来訪者は受付の所だけ室内の電気をつける。
 入り口付近が明るくなったことで、誰が来たのかハッキリ見えた。
 今夜の宿直当番になっている先生と、いつも宿舎に寝泊まりしている山田主任。
 2人の先生が深夜の見回りに来たんだ……。
 幸い、あたしがいる本棚は入り口から遠いので、真っ暗なままだ。
 このまま気付かれないよう息を殺して様子を見ることにする。

「……それって、副所長が言ってたんですか?」
 先生は話しながら、あたしがいるのと反対側の壁際の電気もつけていく。
 あたしのいるところは暗いままだが、これって結構ヤバいかな……。
 2人は電気をつけた方へ歩いて行き、一つしかない図書室の入り口から離れていく。
 ……この隙に逃げるべきかも。
 なんて思うが、先生達が向かった先は自習室がある方だ。
 ……。
 ……。
 こんなの……気になって脱出なんて出来ないっつーのっ!

「ああ、本社の方にあれを調べている人間が入って来たと広田社長から連絡が来たらしい。だからここの物も確認しろだと」
 宿直の先生の問いかけに、山田主任は答える。
 ……。
 ……え? 「広田社長」に「本社」って……。話している内容は、イクイップメント広田の会社の事だよね。
 調べている人間って……ヤス達の事?
 ああ、そうか。
 横井さんのブローチを使って、もうヤス達は会社に侵入したんだ……。
 でもそれが広田にバレてしまったって事は、サーバーからデータを盗みだすのは失敗したって事なのかな。
 ヤス達は大丈夫なの?
 あたしは思いがけず入ったヤス達の近況に不安な気持ちで一杯になる。

「なんか噂では、サイバーテロとかって話も流れたらしいぜ」
「なんですか? それは!! 本社のサーバーが狙われたって意味ですか?」
「さぁな。これは本社に務めている知り合いからの話だ。そいつはここの施設の事も詳しくない奴だし、サイバーテロはただの噂として笑い話で話していたけどな」
「……そうですよね。そう簡単にセキュリティが破られるわけないですから。……けどもし本当なら、広田社長や大城戸副所長が警戒するのも分かりますよ」
宿直の先生は話しながら手慣れた様子で、途中に立て掛けられている脚立を担ぎ、自習室2の扉の前にセットした。
そのまま脚立を登って天井の一部を取り外す。

 ……うわっ。あそこって取り外せるんだ。
「どうだ?」
 下で脚立を押さえている山田主任は、蓋を開けた天井の中に手を入れている先生に話しかける。
「……あっ、あります。大丈夫です」
 先生はそう返事をして天井から線香皿を取り出し、山田主任に見せる。

 ……あぁっ!
 あんなところにあったんだ……。
 図書室の天井を見ると、所々に一定の間隔で換気のために空気口設置されている。
 天井で焚いた香の匂いを、空気口を使って部屋全体に行くようにしていたんだ……。

「すべて燃え尽きているな。次は今度の図書の時間の日に焚くのか?」
 線香皿の中を見た山田主任は、先生に確認している。
「はい。その予定でいます。ですがこの灰の量から見て、誰かが触った形跡はありません」
「そうか……。なら大城戸副所長には問題なかったと伝えよう」
「はい」
 話が終わり、先生は線香皿を元の位置に戻す。
 天井を元に戻して使っていた脚立を片づけると、2人は部屋の電気を消して図書室から出て行った。


 ……もういいかな?
 足音がだんだん遠ざかり、完全に聞こえなくなるまでジッとその場で待っていたあたしは、本棚の上から飛び降り足音を立てず床に着地をした。
 自習室の前まで行き、先生達と同じ場所に脚立をセットして天井を開けてみる。
 40センチ四方ある穴に、あたしは頭を突っ込み腕時計のライトで天井裏を確認すると、さっき先生が手にしていた線香皿がすぐ近くに見えた。
 手にしてみると、さっきの話通りに全て灰になってしまった後だ。
 灰は持って帰っても意味ないんだっけ……。
 それとも今の技術なら、灰からでも『ブルー・N・H』の成分は取り出せるのかな?
 分からなかったが、取り敢えずポケットに入れていたボールペンの中にサンプルとして灰を入れた。

 一緒に未使用の香が隠されていないかな……って思い、もう一度天井裏を見てみるが、線香皿以外は何も置いていなかった。


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Posted by桃伽奈

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