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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

風鈴(theme[wind bell])

桃伽奈


 千年続くこの西門の家には、古くから伝わる道具が沢山ある。
 中には美術品なども含まれているが、茶道具が大半を占める。
 俺がこの世に生を受けるずっと前から存在する道具たち。
正直言ってそれら全ては、把握しきれていない。

 まぁ、目録が存在するから全て覚える必要もないってもんだがな……。



 真夏の暑い日、俺は牧野を家に誘った。
「外は暑いのに、西門さんの家ってなんか涼しいよね」
 廊下を一列になり歩いていると、後ろから牧野が「ほぅ……」と息を漏らしながら話しかけてきた。
「そりゃ、家族が冷めきってるからじゃねぇのか」
 牧野ん家と違ってさ。

 両親の仲は冷めきっているし、まともな兄貴はこの家にある目に見えない力を感じ取りサッサと出て行った。
「いや、西門さん……。それ笑えないから……」
「そうか?」
 俺はハハハって笑い後ろを見ると、牧野はどう答えたもんかという顔をして苦笑いをしただけだった。
 まぁ実際は家の作りの問題もあるんだろう。
屋根が広く取られているから、直接室内に太陽の日が入らない。
 それで牧野が住んでいるアパートよりも涼しく感じるって事だけだ。
 他にも風通しとかいろいろあるかも知れんが……。



 これから本格的に茶を習い始めるという牧野に、茶道具を用意するため2人で納戸に入った。
「うわぁ。物でいっぱい……」
「まぁ、ここにあるのもごく一部だけどな」
 と言いながら、記憶を頼りに1つの小箱を取り出した。
「ほらよっ」
 一発で目的の物を探し当て、牧野に見せる。
「あ、扇子!」
「誰も使ってないヤツだし、遠慮せず使えよ」
「いいの?」
「他にも必要な物を出すから、ちょっと待ってろ」
「うん、ありがとう!」

 窓がない納戸の中は室内よりもさらに涼しかったが、牧野は箱から扇子を取り出し扇いだ。
 肩に少しかかる髪の毛が、リズム良く揺れている。
 それを横目で見つつ、俺は次に必要な箱を探した。
「牧野も気になる物があったら見てみろよ」
「あ、うん」
 牧野には本物を見て触って沢山の事を感じて欲しいと思ったから、敢えてこの部屋にある道具たちの値段は伏せた。
 その気遣いは成功したようで、牧野は気兼ねなく近くにあった桐箱を開け茶碗を触っている。


 牧野に渡す道具を全て揃え終わった時、牧野は1つの桐箱を手にしていた。
「何か気になるのあった?」
「これ風鈴だよね。可愛い」
桐箱に入っていたのは、ガラス製の風鈴だ。
お椀をひっくり返したような釣鐘部分も、風が吹けば『りんりん』と音を奏でるぜつの部分も全てガラスで出来ている。
 ガラスでないのは、吊るすのに使う糸くらいだろう。

 これだけなら普通の風鈴だが、牧野が「可愛い」と言ったのには訳があった。
 この風鈴はカエルの顔をしていたからだ。
 ガラスにカエルの絵が描かれているのではなく、釣鐘部分のガラスの形が、カエルの顔になっている。
 目玉が頭の左右に飛び出る、可愛いアニメチックな仕上がりになっていた。

「こんなのあったっけ……」
 首を傾げながら風鈴が入っていた桐箱を確認するが、誰の作なのか名前が書いていない。
 牧野は手で風鈴を持ち、優しく揺らして『りーん、りーん』と音を楽しんでいた。
「気に入ったなら、それも持って帰るか?」
 職人の名前がないなら大した代物じゃないだろ。
 見た目も縁日で売っていそうな、安いもののように見える。
 俺は軽い気持ちでそう言うと、牧野は目を輝かせた。
「いいの!?」
「……おいっ。……あからさまに扇子の時よりも嬉しそうな顔するんじゃねぇよ」
「だって嬉しいし……」
 軽くオデコを突くと、照れたような声を出した。

 牧野は風鈴を桐箱に戻し、
「これでエアコンがない家のアパートも少しは快適になるかな。西門さんに扇子も貰ったし」
 なんて言いながら、さっきの扇子をまた開いた。
「涼を取るために渡したんじゃないんだがな……」
 俺の呟きは牧野には聞こえておらず、さっきと同じく髪の毛がリズム良く揺れていた。
 ……まぁ、それもこれから教えればいいか。



 次の日、牧野から再び「ありがとう」と礼を言われた。
 窓の所に飾った風鈴は、家族みんなが喜んでいるらしい。

『りーん……りーん』

『風流だわぁ』
『この音を聞くと、気温が少し下がった気がするな』
『西門さんに感謝だね』
そんな牧野家の人達。




 次、2人で会った時も牧野の「風鈴って素敵」効果は続いていた。

「あのね。音が鳴ると、ウキウキワクワクするの!」
「……よかったな」
 今日はお稽古日の初日をいつにするかと決めるつもりでいたが、牧野の頭の中は渡した道具の事よりも風鈴の事でいっぱいなようだ。
「という事で、本日はバイト代も入ったし、お礼もかねて暑い夏にピッタリのかき氷でも奢ります!」
「はぁ?」
「パパ達からも、くれぐれもよろしくって言われてんだよね。この先に限定かき氷が販売しているお店があるし行こうよ」

……それって自分が食いたいだけじゃねぇのか。
 なんて思うが、頭一つ以上背が低い小さい牧野が、嬉しそうに笑って腕を引っ張るのを拒む事は出来ず、本日のデートはかき氷を食べる事からスタートした。





 そのデートから数日後。
 8月の後半になり、牧野から電話があった。
『西門さんっ。助けて!』
「……?」
『夜が……』
「夜?」
『また……夜がやって来る……』

 夜がやってくる……?
 時計に目をやると、夕方の6時過ぎ。
 日は長くまだ外は明るいが、確かに今は夜の入り口みたいな時刻だろう。
 意味が分からず聞き返そうとしたら、『ああああっ』って叫び声と共に電話が突然切れた。

 ……?
 一体何だってんだ?

 頭の中は疑問符で一杯になりながらも、俺は牧野の家に向かった。
 向かう途中、さっきの牧野の言葉を何度も頭の中で反芻する。
「助けて」ってのは、どういう意味だ?
もしかして誘拐とか……?
 でもそれなら「夜がやって来る」って意味が通じない。
 ……。
 夜に助けて……。
 ……もしかしてストーカーか?
 夜道になると、知らない男に後を付けられ怖いって事か?


てか、誰だ……。
 牧野をそんな目で見るような輩は。
 俺はまだ見ぬ敵へと、勝手に怒りをぶつけた。
 ……会ったら絶対タダではすまさねぇ。

 そう心に誓い、牧野が住んでいるアパートの階段を駆け上がる。
 部屋が近づくにつれ、声が聞こえてきた。

 ……。
 ……。
 騒がしいな。もしかしてストーカーが部屋まで侵入したのか?
 なら、牧野は無事か?
 両親が一緒にいるだろうから、守ってくれている事だけを願い、勢いよく部屋のドアを開けた。


「……♪エルの歌が♪」
「♪きこえてくるよ♪」
「♪クワクワクワクワ♪」
「♪ケロケロケロケロ クワクワクワ♪」

 ……。

 ……?
 なんだ?

 見たところ、想像していたストーカーがいる気配はない。
 俺が固まって部屋の中の様子を見ると、部屋の中にいる牧野家のみんなはまた歌い出した。

「♪カエルの歌が♪」
「♪きこえてくるよ♪」
「♪クワクワクワクワ♪」
「♪ケロケロケロケロ クワクワクワ♪」

 それも1人ずつズレて「♪カエルの歌が……カエルの歌が♪」と輪唱で歌うもんだからやかましい。
「おい、牧野っ!」
 名前を呼べば、「牧野」と呼ばれた家族全員が半泣き状態で俺の方を振り返った。

「「「「……!!」」」」

「……っ!」

「西門さ……♪カエルの歌が♪」
 牧野が俺の名を呼ぼうとして、歌い出した。
「助け……♪カエルの歌が♪」
 続いて弟の進が何かを言おうとして歌い出す。
「止まらないんで……♪カエルの歌が♪」
「夜ずっと歌が……♪カエルの歌が♪」
 父親と母親も同じように、必死に何かを伝えようとするが、歌う事に対して逆らえないのか話が途切れた。
「……」

 ……。
 ……。
……冗談……じゃないんだよな。
 俺を騙そうとして、歌っている演技なんて事は……。

 ……牧野家の人達に出来るとは思えねぇ。


 何か見えざる力が働いて歌わされているって事か?
 ってか、そんな非現実的な事……あるわけが……。
 ……。
 どういう事だと考えていると、部屋の窓に飾った風鈴から「りーん……りーん」と音が聞こえた。

 牧野が先日家から持って帰った、カエルの風鈴……。

 ……。
 ……カエルの歌?


 まさかっ!

 俺は窓辺に近づき、風鈴を手にした。
 音が鳴らない様、蛙の顔をした釣鐘部分の中心から伸びているぜつの部分を手で押さえる。
 歌ってしまうのが見えざる力が成す事なら、風鈴が音を奏でない様にすればいい。
 そう思い手で押さえたが、牧野達は歌い続けた。

「♪カエルの歌が♪」
「♪きこえてくるよ♪」
「♪クワクワクワクワ♪」
「♪ケロケロケロケロ クワクワクワ♪」


 違うのか?
 風鈴が原因で歌ってるんじゃねぇのか?
 何が原因なんだ?

 考え込んでいる間も、牧野達は休まず歌い続ける。
 疲労が顔からにじみ出ていた。
 そりゃ、ずっと歌い続けているなら疲れるだろう。
 喉だって乾くし顎だって疲れる。
 もう舌を動かすのも億劫じゃないのか?

 ……舌?
 ……。
 もしかしたらっ!!


 俺は力いっぱい、風鈴のぜつを引っ張り引き千切る。
これでどうだっ!?
 釣鐘部分からぜつが外れると、歌がピタっと止まった。
「牧野、大丈夫か?」
「に、西門……さん……」
 自分の意志で口が動くようになった牧野の目にはみるみる涙が浮かんでくる。
 俺がそっと両手を広げると、泣きながら胸に飛び込んできた。

「うわぁぁぁ、怖かったよぉ」
「ああ、もう大丈夫だ」




 1000年の歴史を持つ西門の家。
 両親の仲は冷え切り、まともな兄貴は家を出て行った。
 俺も家の中にある道具全てを把握しきれておらず、それこそ科学が発展する以前、仏や神の力が絶対だという時代の道具もある。
中にはいわくつきのものが存在していたとしても、否定は出来ない。

牧野に詳しく聞けば、みんなでカエルの歌を合唱するようになったのは、4日前からだという。
 ちょうど田んぼにいる蛙が、繁殖期に入った時期と重なった。
 まさにカエルの合唱だ。


「悪かったな、牧野」
 よく知りもしない物をあげたりして。
「……ううん。西門さんも知らなかったんでしょ。助けてくれてありがとう」
 牧野がお礼を言うと、家族も続いて俺に感謝の言葉を述べた。
「ううう……。ありがとうございます」
「本当に助かりましたっ」
「西門さんは命の恩人です!!」


 俺の胸には牧野が抱きつき、右からは牧野の母親が抱きついている。左が弟の進で、残った背中は父親がしがみついていた。

 ……あ、暑い……。

 アパートへ来るのに汗をかき、部屋へ入った時の牧野家の惨状に脂汗をかき、現在は5人の体温が混ざり合って……ぶっちゃけ色んな意味で暑苦しい牧野の家族。
 本当、俺ん家の「サムイ」とは正反対だ。


でもそれが嫌じゃないって俺は思ってしまっている。
この「アツイ」と思う家族を、愛おしく感じる。


 俺は胸に抱きついてきている牧野の頭を優しく撫でた。



Fin






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Posted by桃伽奈

Comments - 4

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スリーシスターズ  

桃伽奈さん、おはようございます。
総二郎くんのおうちには、国宝級のお宝がたくさん眠っていそうですよね。
そこにはいわくつきの物もたくさん!?
つくしちゃんが見つけた蛙の顔の形をした風鈴。
そんな風鈴は中々売っていないし、アニメチックな可愛いものだったら、女の子は欲しくなっちゃいますよね🎵
まさかそこから悪夢が始まるとは・・・
つくしちゃんからの電話は、総二郎くんだけじゃなくて、私もびっくりしましたよ~(@_@)
夜が・・夜がやって来るとどうなるの~!!
で、まさかのみんなでの「かえるのうた」の大合唱!!(笑)
蛙の怨念が風鈴に憑りついていたの~!!
いや、田んぼの蛙の繁殖期と重なっているから、怨念じゃなくて仲間を呼び寄せるため!?
何はともあれ、総二郎くんの活躍で歌を歌い続けるという呪縛からは逃れられました(^.^)/
前後左右に牧野家のみんなが抱き着いてきて、あったかい家族だな~を通り越して暑苦しくなっちゃったけど、これが牧野家!
総二郎くんの心をいつまでもあったかい気持ちでいっぱいにしてくれますよ~(*^^*)

2018/07/22 (Sun) 07:49 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  
スリーシスターズ様

こんばんは。
コメントありがとうございます^^
イベントLINEで、「怪談」「ホラー」って単語が何度か出てきて、「ああ、夏だからそういう話もありなんだ」って思い挑戦してみたんですが……
何故か途中から脱線してしまいました^^;
相手はあの牧野家ですから。どうしてもお笑いの方にw
最後はみんなに抱きしめられ暑苦しいハズですが、総ちゃんには幸せなんだと思います^^
つくしちゃんと結婚すると、面倒をみなければならない家族が一気に増えるような……;;
(自立して下さい。牧野家の方々……)
カエルですが、私子供の時は大丈夫だったんですが、今はちょっと……多分触れない><;
子供がまだそういう生き物を家に持ち帰ろうとしないので、助かっております^^;
連日猛暑ですが、体調を崩されませんようお過ごしください。
ありがとうございましたw

2018/07/22 (Sun) 23:00 | EDIT | REPLY |   
さとぴょん  

桃伽奈様
新境地、ホラーコメディーのお話ありがとうございましたm(__)m
これは、怖がっていいのか、笑っていいのか
風鈴に操られて歌う、牧野家と同じく
自分でも感情がコントロールできなくなる
摩訶不思議なお話で、大変衝撃的でよかったです。
怖いのに歌のチョイスが♪カエルのうたなんで、
これも笑っていいのか迷い、
読みながら迷子に(笑)
でもこういう感覚は初めてで凄く面白かったです( *´艸`)♪
桃伽奈様って、素晴らしいセンスをお持ちだったんですね♡
いつもは類つくですもんね?
これ総ちゃんのお話だったからなんでしょうかねぇ?
総ちゃんショックで、
桃伽奈様の、新たな才能が開花されたのかもしれませんね( *´艸`)♡
総ちゃんの家の蔵・・・ほんとにいろんな物が眠ってそうですよね。
これ・・・シリーズでいけるんと違いますかね?
次はいったい何の歌が・・・(笑)
楽しみにしてます♡
で風鈴、あの鳴る部分、「舌(ぜつ)」っていうんですね。
恥ずかしながらこのお話で初めて知った私です(笑)
でもそんな恐ろしいものの舌を引っこ抜いちゃって、
この先総ちゃんは大丈夫なんでしょうかね?
・・・きっと大丈夫ですよね(≧◇≦)
総ちゃんが手を広げて、「怖かったーーっ!」と
そこにつくしが飛び込んでいくシーンも意外と新鮮でした。
牧野家の家族って類と仲のいいイメージがあるので
類くんじゃなくて、総ちゃんに縋り付いてるお話はかなり珍しいですよね。
いろんな意味で暑苦しい(笑)と感じた総ちゃんですが
家族の愛をこれから嫌というほど味わえうことでしょう♡( *´艸`)
お話♡ありがとうございました♡

2018/07/24 (Tue) 22:16 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  
さとぴょん様

こんばんは。
コメントありがとうございます♪
折角のイベントなので、総ちゃんのお話も書いてみたくて冒険してみました。
夏っぽいお話を……って思い頑張ってみたのですが、ホラーにはならなかったです^^;
私にはハードルが高すぎましたww
カエルの歌は、地域によって鳴き声の歌詞が微妙に違うらしく……。
最初は関東版の歌詞で書いたのですが、関西で育った私には違和感がすごくあり……、結局自分が歌っていた歌詞にしちゃいましたw
(子供の音楽の教科書(小1)はどうなんだろうって確認してみたのですが、カエルの歌が載っておらず、思わず「ちっ」と舌打ちを……。し、しておりません;;)
総ちゃんの家は、国宝もしくは国宝級のお宝が沢山ありそうなイメージですよね。
値段聞いたら卒倒しちゃいそうな物も、つくしちゃんは「古そうなお皿だなぁ」なんて言いながら、気付かず使ってしまうイメージですww
……シリーズは……また機会があれば♪ って事でお願いいたします<(_ _)>
連日猛暑ですが、体調を崩されませんようお過ごしください。
ありがとうございましたw

2018/07/25 (Wed) 23:01 | EDIT | REPLY |   

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