Welcome to my blog

スポンサーサイト

桃伽奈

-
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

七夕 ~本当の願いは~(theme[the star festival])

桃伽奈


「…はぁ…」
大学構内にある中庭の、木陰の下のベンチでお弁当を食べながら、あたしは本日何度目かのため息をつく。原因は、夜中のうちに送られてきた類からのメールだった。

『ごめん。急な仕事が入ったから帰国が延びた。この埋め合わせは必ずするから……』

類はいまイタリアに出張している。その前はフランスで仕事だった。
日本を出国してかれこれ4週間弱。…正確には26日目。
類が多忙すぎるのと時差の壁とで、ゆっくり電話することもままならない。

明後日の土曜日は七夕で、あたし達は久しぶりに一緒に出かける約束をしていた。
声を大にしては言えなかったけど、あたしはそれをすごく、…うぅん、ものすごく楽しみにしていた。
それなのに…。
「…はぁ…」
そうしたって現状は何も変わらないのに、気が付けばため息を繰り返してばかりいる。

出張の前々日にうちのアパートに来た類は、充電と称して夜遅くまであたしをひと時も離さなかった。たくさんキスをして、たくさんハグをして、それから…。
情熱的な時間を過ごしてしまうと、反動でその分、会えない時間がよりつらく感じてしまうことに、あたしは気付いてしまっていた。

…早く類に逢いたいなぁ。
…急な仕事なんて、なくなっちゃえばいいのに。
あたしらしくもなく、そんなことを考えてしまう。

シュンと肩を落としたあたしの膝の上に、すっと伸びてきた影。
目線を上げると、その先に西門さんが立っていた。
「よぉ、どうした? えらく落ち込んでるようだけど」
「…西門さん。次の講義、新館なの?」
あぁ、と頷いた西門さんの手には、難しい漢字だらけの書籍が3冊。
F4の中で、大学院に進学したのは西門さんだけだった。院に進学してからは、けっこう真面目に講義を受けているみたい。

「…食が進まないところを見ると悩み事だろ? 言ってみろ」
「あぁ、…気にしないで? 時間が経てば解決するものだから」
腕時計に目線を落とすと、午後の講義の開始時間が迫っていた。
「あ、まずい。あたしももう行かなきゃ…」
最後のおかずを口にポンと放り込んで、あたしは手早く弁当を包み終える。
「ま、なんかあったら俺に言え。…類にも頼まれてるからな」
「ありがと! 西門さん、またね」
旧館で講義があるあたしは、反対方向へと向かう西門さんに軽く手を振り、そのまま小走りに講義棟へ入った。



「短冊余ったから、つくしちゃんも書く?」
「いいんですか?」
バイト先の小料理屋の奥さんがあたしにくれたのは、和紙で作られた短冊が2枚。その短冊は、店に訪れたお客さんが店先に飾ってある大笹に吊るせるようにと、奥さんが一つ一つ準備したものだった。
「短冊を書くスペースをもう空けたいのよね。もう十分な数が笹に下がってるし」
「ありがとうございます。すぐ書きます!」
「そこ片付けてくれたら、今日はもう上がっていいよ」
カウンターの奥からご主人の声がする。時刻は午後10時になるところだ。さすがのあたしも深夜勤務はしないことにしている。

…さて、願い事か。何書こう。
置いてあったマジックペンを右手に、考えること30秒。
…これといって、願い事ないしなぁ。
そのうちピンと閃いた一つ目の願い事を、3行に分けて縦書きにする。

『 史章さんと亜希ちゃんの
  赤ちゃんが、元気に
  生まれてきますように      つくし 』

母方の従姉の亜希子姉ちゃんが、妊娠中であることを知ったのは先週のことだ。あたしがこの店でバイトをしていることを聞いた亜希ちゃんは、ご主人の史章さんと連れ立ってお店にきてくれた。
ママからは二人が長く不妊治療をしていたと聞いていたので、吉報が聞けて本当に嬉しかった。
あたしは亜希ちゃんの出産が無事に終わるようにと、1枚目の短冊に願いを託す。
たぶん、二人がその時に書いた短冊も近くにあるはずだ。


2枚目の短冊に何を書くか、考えることまた30秒。
…やっぱり類のことかなぁ。
迷い迷って、書きこんだ2つ目の願い事。名前はあえて書かなかった。

『 彼の仕事がうまくいきますように 』

昼間、『急な仕事なんて、なくなっちゃえばいいのに』と思ってしまったことへの罪滅ぼしに、あたしはそう書いた。
類だって、別に自分から進んで帰国を延ばしているわけじゃないだろう。だから、仕事がなくなることを願うより、それが早く終わることを願う方がよっぽど現実的というものだ。
あたしは立ち上がり、奥さんの指示通りにその場を片付けてからバックヤードに戻った。


着替えてから店の前の通りに出て、さっき書いた2枚の短冊を吊るす。こよりを笹に結び終えて、温い微風に揺れる短冊を満足気に眺めていると、後ろから声がかかった。
「…星に願いを、か」
「西門さんっ!? どうしたの?」
振り返れば、珍しくスーツ姿の西門さん。
「近くで会合があってな。…ま、ついでだよ」
何気なさを装ってはいるけれど、あたしは西門さんの性格が少しは分かるようになってきたつもりだ。
…なんだかんだ言って、きっとこの人なりに心配してくれてたんだろうな。

「…自分自身の願い事はしないのかよ」
「あっ! 見ないでよ!」
ほんの一瞬の隙に、西門さんはあたしの短冊を探し当てて、願い事を読んでしまっていた。…しかも2枚とも。一つは名前を書かなかったのに、筆跡で分かってしまったらしい。
「…悪趣味」
あたしが顔を赤くして言うと、西門さんはニヤッと口角を上げて笑った。


アパートまでの帰り道を車で送ってもらいながら、あたしは正直にため息の理由を彼に話した。西門さんは、「なんだ、色ボケ話か」とからかい、皮肉の応酬を繰り返しているうちに車はアパートに着いてしまった。
「気を遣わせてごめんね。ありがとう」
最後にあたしがそう言っても、西門さんはその謝辞にも素直には応じてくれなかった。
「…ついでだって言っただろ。じゃあな」
すげなくそう返されて、あたしは苦笑をしながら西門さんの車を見送った。
…家、反対方向のくせにね。


******


「…ねぇ。この仕事、別に俺じゃなくてもよくない?」
「そのようなことはありませんよ! 社の代表としてパーティーに出席することも、重役としての重要な務めですから」
秘書の田村に一喝されて、俺は大仰にため息を吐いて書類に目を落とした。
「イタリア支社の人間を誰か出しておけば?」
「類様。ご理解くださいませ」
「…はぁ。いつになったら帰国できるわけ?」
当初の予定では、今夜の便で帰国する予定だった。それだって、滞在日程が大幅に延びた末の帰国だったのに…。

『分かった。帰国が決まったらまた連絡してね。お仕事頑張って!』

つくしからそう返信が来たのは、日本時間の午前9時、こっちでいう午前2時だった。彼女には、メールについては時差を気にすることなく、いつでも送ってほしいと言ってある。
朝起きてすぐ彼女のメールを見たとき、あまりに短く、あまりに簡素なその文面に拍子抜けしてしまった。


つくしとは今年に入ってから付き合い始めて、ほどなくそういう関係を結んだ。日本を離れる前、彼女のアパートに行き、ともに甘い時間を過ごした。
互いを深く知った今でもそうしたアレコレに不慣れで、いちいち真っ赤になる彼女が可愛くて、歯止めをかけられなかった自分がいた。
―で、今。
…会えない恋人に送るメールにしては素っ気ないし、理解がよすぎない? 
…って、それは俺の我儘か。
ふぅっとため息が洩れた。


鬱々としている俺の元に、総二郎から電話がかかってきたのはその夕方のことだった。
…日本は深夜だよね?
そう思いながら電話に出ると、総二郎はごく明るい口調で近況を訊ねてきた。
「…どうもこうもないよ。なかなか帰国させてもらえない」
延期の理由を挙げ、思わず不満を洩らすと、そうか、とつぶやいて沈黙を深める総二郎。
…なに? その間。

「実は、今日牧野のバイト先で、あいつの短冊を見たんだわ」
…小料理屋か。あそこ、けっこう美味しいんだよね。
「画像送るから、まずは見てみろ」
総二郎の意図が掴めないままに、一旦通話を終える。
直後に送信されてきたメールに添付された画像を見て、……俺の思考は固まった。

即座に総二郎に電話をかけ直すと、そういう事だ、とあまり多くを語らない親友。
「本人はなんて言ってる?」
「類が帰って来れなくて残念だって。…いろいろ話したかったんだろうな?」
電話で話すようなことでもないしよ、と付け加えて、総二郎は俺に問う。
「…で、どうする?」
「もちろん、帰国する」
「どうせなら黙って帰って来いよ。先に言うと、絶対自分のことを優先しない奴だからな」
分かった、と答えて通話を終えてからの俺の行動は、自分でも本当に早かったと思う。


******


ピンポーン ピンポーン

7月7日、正午近く。
自宅のアパートで、呑気に昼食を作っていると誰かが訪ねてきた。相手はせっかちなようで、あたしが応答する間を待たずに、また2回もベルを押す。
…もう! セールスなら断ってやるんだから!
そう意気込んで玄関のスコープを覗き、あたしは仰天した。
…えっ!? なんでっ?

慌ててドアを開けると、そこには複雑そうな顔をした類が立っていて、部屋に入ってくるなり、あたしをぎゅうっと抱きしめた。
「ちょっ……どうしたの?」
類からはいつものフレグランスが甘く香り、あたしにくらくらと強い眩暈を覚えさせる。
…類、帰ってきてくれたんだ。
そう思うと、嬉しくて涙がにじんだ。

「…なんで、言ってくれないの?」
少しだけ体を離して、ごく至近距離で類と見つめ合う。
…あれ? 表情が暗い…。
彼の開口一番がそれだったので、あたしは要領を得なくて問い返してしまう。
「えっと…何が…?」
「帰ってきてほしかったんでしょ? 俺に…」
「それは、そうだけど…。だって言えないじゃない? 類は仕事なんだし」
…もしかして、西門さんが何か言ったのかな?

「ね、西門さんから連絡あった?」
頷く類。
「総二郎が先に知ることになるくらいなら、俺に先に知らせてほしかった…」
「……? 何が?」
「見たよ、短冊」
あっ、と小さく声を上げると、類はちょっと怒ったふうにあたしに言う。
「子供、できたんだよね?」

…え? そっちの短冊の話なの?
…類はまだ亜希ちゃんのこと知らないから、話してなかったんだけど。

「あぁ、そのことなら…」
と説明しようとするあたしの声を遮って、類が言う。
「すぐ病院行こ。それとももう、どこかにかかった?」
あたしはようやく、類が大きな勘違いをしていることに気付く。
「…ちょっと待って。類はいま、誰のことを話してるの?」
「もちろん、つくしのことだよ。…妊娠してるんでしょ?」

…えぇぇっ!?
あたしは驚きのあまり声が出なかった。
…そっか、それであんな難しい顔をしてたんだね…。

「…あのね、すごく言いづらいんだけど、……それ、あたしの話じゃないよ」
「…………っ」
あたしの言葉に、類はしばらく固まっていた。
美しい瞳を大きく見開いて、あたしを凝視している。
…うーん。初めて見る顔かも。
「…いったい、どうしてそんなふうに思ったの?」


硬直が解けた類を部屋に招き入れ、座卓に隣り合って座り、彼のスマホを確認した。
種明かしは簡単だった。西門さんから類に送られてきた短冊の画像はこうなっていた。

『 赤ちゃんが、元気に
  生まれてきますように      つくし 』

縦書きの1行目の文がまるまるフレームアウトしている。
「本当はね、これには1行目の文があってね…」
あたしは、史章さんと亜希ちゃんの話をしてあげる。
っていうか、西門さん。…これ、確信犯よね?


はぁ…っと類の深いため息が聞こえて、あたしは苦笑した。
少し俯き、目を伏せた類の表情にははっきりと疲れが見えた。
…きっと、必死になって帰ってきてくれたんだよね。
「残念だった? ……それとも、ホッとした?」
類は、あたしの言葉に弾かれたように顔を上げて、あたしをじっと見つめた。
膝の上に置いた手に手を重ねられて、そのままそっと口づけられる。

「今日、逢ったら言おうと思ってたことがある」
「…うん」
「だけど、それは仕切り直しをさせてほしい。…子供ができたからそう言ったんだって、思われたくない」
「…うん」
…たぶん、類は言ってくれるつもりでいたんだろう。
あたしは、彼の誠実さを信じている。
「待ってる。…いつかね?」
あたしが笑うと、類の瞳も優しく和んで、あたしの大好きな笑顔に変わった。

もう一度ぎゅっと抱き寄せられて、今度はさっきより深いキスをされる。
はぁ…と吐息が洩れて唇が一度離れ、目線だけで彼が問う。
あたしは類の首に腕を回して自分から彼に口づけ、彼の熱い想いに応えた。


******


「…ずいぶんじゃない? 騙す内容にしては」
電話の向こうで、総二郎がくつくつと楽しそうに笑う。
「焦ったか?」
「頭の中の余計なものが、全部吹っ飛ぶくらいにね」
そりゃ何より、と返答がある。
「…あれからすぐ、つくしをフランスに連れて行った」

つくしの笑顔を見ていると、もう『いつか』は待てなかった。
言わずにおくつもりでいた言葉はとめどなく溢れて、彼女を大いに泣かせた。
俺はつくしをフランスに同行させ、彼女を両親に会わせた。結婚に際しては、いくつかクリアすべき条件を示されたものの、両親はすでに俺の伴侶として彼女を認めてくれていた。
あとは、その実現に向けて努力をするだけだ。


「あのさ、…もう手が届かないようにしたかったわけ?」
「……何が?」
返答までの、ごくわずかな沈黙。
「…いや、いい」
…お前が黙っているつもりなら、二度は問わない。
「で、いつ入籍すんだ?」
「つくしが卒業したら、すぐ」
「式には呼べよ」
あぁ、と請け負って、俺は総二郎との通話を終えた。


つくしが自分自身の願い事をしていなかった、と総二郎は言っていた。
でも、それは総二郎もなんじゃない?
…それとも、この結果こそが、お前の願いそのものだった?

見守っててよ。…必ず、幸せにするからさ。
暗くなったスマホの画面を眺めて決意を新たにすると、俺は新しいプレゼンの資料に手を伸ばした。






nainai.png
関連記事

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

Comments - 2

There are no comments yet.
さとぴょん  

ナイナイ様
お話ありがとうございました♡
総ちゃん粋なことしてくれますよね( *´艸`)♪
飛んで帰ってきた類くん
焦る様子が可愛かったです❤
ラストにちらりと見えた総ちゃんの気持ち
類くん、総ちゃんの分までしあわせにしてあげてね❤
お話ありがとうございました。

2018/07/14 (Sat) 17:55 | EDIT | REPLY |   
nainai  
さとぴょん様

こんばんは。コメントありがとうございます!
このお話、総ちゃんはあまり自分の気持ちを前面に出してきません。
落ち込むつくしをそっとフォロー…。類は気付いていましたけれどね。
今回『七夕』の総ちゃんVer.も担当しまして、それぞれの話で短冊を絡め、類と総ちゃんの立場をスイッチしました。自分の手の届かない場所までつくしを押しやることで、報われない恋心を断ち切ろうとしている…というところを書きたかったんです。
お粗末様でした~<(_ _)>

2018/07/14 (Sat) 20:30 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。