Welcome to my blog

スポンサーサイト

桃伽奈

-
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

夏休み(theme [summer vacation]) 後編

桃伽奈


2日目の朝は随分と遅かった。

もうすぐ昼って時間になってようやく2人同時に目を覚ました。
すげぇ…暑い。手で額を触ったら汗が流れてる。隣で寝てたつくしの首にも髪が張り付いてた。

「おはよう…総二郎」
「おはよ。すげぇ暑いな……何時だろ?」

「えっとね……やだ、11時だって。ふふっ…信じられないね」
「ははっ!そうだな。腹…減った」

「中途半端な時間に食べるなんて学生の時みたいだね。何か作るわ…」

ここに来てから初めてスイッチを入れたエアコン。
ささっと服を羽織ってキッチンに向かったつくしの後ろ姿を見ながら俺も気怠い身体を起こした。


窓から差し込む日差しがもう真上から襲いかかるようで目が痛い……こんなにだらしのない目覚めは久しぶりだ。
そんなことを思いながら簡単にシャワーで汗を流してから部屋に戻った。
エアコンが効いて過ごしやすくなった部屋に珈琲の香りがする。「今からお昼を作るから先に飲んでて」って遠くから声が聞こえた。

「先にシャワーしてこい。お前も汗かいてるだろ?さっぱりするぞ」
「そうかぁ。うん、じゃあそうしようかな。ねぇ、冷製パスタでいい?トマトの湯剥き出来る?」

「…無茶言うなぁ。まぁ、なんとかなるだろ」

「頼むねぇ!」なんて笑いながらバスルームへと消えていく。
仕方ねぇからキッチンに入ってそこに置いてあったトマトを手に取った。

湯剥き?やるとは言ったもののやったことがないからネットで確認しながら湯を沸かして準備した。トマトに切れ目を入れて”湯にくぐらせる”…なるほど、って頷きながら。
やってみれば難しくはなかったけど、どうやら剥きすぎたらしい。シャワーを済ませたつくしが戻ってきて悲鳴をあげていた。

「うわあっ!全部やっちゃったの?どうすんのよ!こんなに湯剥きして!」
「お前、数言わなかったじゃん。ここにあるもの全部やってみた。ははっ!簡単すぎて調子に乗っちまった!」

「総二郎ーっ!もうっ……ま、いいか!トマトたっぷりって事で。どうもありがと、向こうで待ってていいよ」

髪も乾かさないで首にタオル巻いて、すっぴんのつくしが真横で笑ってる。
膝までのワンピースに素足のまま。左手の指輪以外、アクセサリーですら付けていない。実に身軽……そんな感じだ。

昼飯は予定通りフレッシュトマト大盛りの冷製パスタ。大葉が刻まれててオクラも入ってて美味かった。



昼からも何もしない。

何処かに行くか?って聞くと首を振る。
何か買うか?って聞くと要らないって言う。

さっきまで寝てたのにまた俺の肩に頭を乗せてウトウトしてる。洗いたて髪からくるシャンプーの香りが鼻を擽った。


こんなお前を見てるといつも思う。
この先何年間もあの西門で窮屈な生活をさせるんだろうなって。どれだけ苦痛に感じてるんだろう…俺の知らないところで泣いてやしないか?
爆発しそうになって飛び出したくならないか?俺はそんなお前をちゃんと支えられてるか?

締め切ってるのに聞こえてくる蝉の声。
飛べるようになってからの短すぎる時間を精一杯鳴き続けて消えていく蝉の声。

蝉に限らず、動物が鳴くのには人間と違って加減というものがない。その日これだけ鳴こうとか、今日は少し抑えて鳴こうとかそういう意識はない。その日その時が100%の力で生きてるから。

お前はどうだ?
毎日自分を抑え込んでないか?
考えすぎて空回りしてないか?

無理しすぎて苦しくないか?
周りの景色がちゃんと見えてるか?……そこに俺はいるよな?


小さな寝息が聞こえる。
その細い身体を抱き寄せて、黙ったまま光る海を見ていた。



夕方になって海が金色に輝きだした。
燃えるような太陽が白く輝く玉のようになって、ゆっくりと海の向こうを目指してる。
波は穏やかだったから太陽の下に同じく金色の光の道を作っていた。それを俺達は並んで見ていた。

つくしの髪の毛も金色に変わって、こいつの白い肌は燃えるようなオレンジに染められてる。少しだけ吹く風がさらさらとつくしの髪を靡かせて、薄く笑いを浮かべるつくしはいつもより大人っぽく見えた。

さっきまで真上の空は淡青かったのにどんどんその色を濃くしていき、やがて太陽は海に呑み込まれた。残光が濃いオレンジ色になってその上に輝く一番星をつくしが指さしてた。


俺達は初めてここで海の中に足を入れた。
サンダルのまま、小さく向かってくる波を蹴り上げて子供のように笑い、時々しゃがみ込んで薄暗い中で桜貝を見つけては拾う。
唯一の土産だと言って数枚、手の中に入れていた。

俺の踝にも波が寄ってきて、久しぶりに砂の感触を味わった。ザバザバと濡れるのも気にせず2人で歩いて、今はもう光の消えた海の”鳴き声”だけを聞いていた。
ワンピースのつくしは今日も楽しそうに裾を持ち上げて、波と戯れては声を出して笑う。

少しだけ高い波が来てもお構いなしにそいつに立ち向かっていた。
その時に少しだけ体勢を崩して倒れそうになったから慌てて駆け寄って抱き留めたら、俺の腕を掴んでびっくりした顔になってる。でも、次の瞬間には俺から飛び退いて海水を掬って掛けやがった!

「あっはは!総二郎、ずぶ濡れだぁ!」
「お前…!何すんだよ!助けてやったのに!」

「だって倒れたって大丈夫だもん!1人じゃないから起き上がれるよ!」

1人じゃないから…そこだけが耳に残ってつくしにも掛けようと海水を掬った手が止まった。


「いつも一緒にいてくれてありがとう!総二郎、私は本当に大丈夫なんだよ?そこに総二郎がいるんだからさ!」


俺に背中を向けたままズンズンと波を蹴りながらつくしは歩いて行く。
クルッと振り向いて白い歯を見せて笑う、学生時代の”牧野”の顔がそこにあった。

2日目の夜も昨日と同じ。
つくしの手料理を食って、一緒に風呂に入って、朝まで狂ったかのように抱き合った。
夜になっても鳴いてる蝉の声は懐かしい音楽のように疲れ切った俺達の耳に届いていた。



3日目の朝。

つくしは俺より少し早く起きてもう朝飯の支度をしていた。
こんなに暑いのに朝から味噌汁作って、昨日までの残り物を全部片付けなきゃ!ってへんてこなメニューが並んでいた。


「昼前にはここを出ようか。少し海を見ながらのんびり帰ろうぜ」
「ホントになんにもしなかったねぇ……」

「ははっ!休んだだけだな」
「うん、でもいいお休みだったね。楽しかった!」

「なんにもしなかったのに楽しかったのかよ」
「あはは!それも変な話かな?あぁ、桜貝のお土産があるよ?大切に飾っとこ!」


別荘を出たのは昼前で、車を少し北に走らせて唯一の観光をしに堂ヶ島に向かった。
堂ヶ島はリアス式海岸によって形成された天窓洞があってクルージングで有名だ。国の天然記念物にも指定されている洞窟内天井に形成された大穴で、その洞窟は岸壁を波が浸食していくことで出来たトンネル。
その天窓から注ぐ光が幻想的だと言われてて観光客が多い場所だ。海面に降り注いだ光は波長の短い青系の光の反射が多く、東京から最も近い”青の洞窟”と呼ばれてる。

つくしにクルージングするか?って聞いたら人混みは嫌だって言うから陸から見える”青の洞窟”を見に行くことにした。

それは、天窓洞のクルージングを行う船が停泊する入り江から北側へ向かうと左手に見える小さな入り江。
この入り江は天窓洞と繋がっていて、そこを介して海と接している。岩の下に広がる鮮やかなブルーと白い砂浜は規模は小さいが映画かなんかで見るような”海賊の秘密基地”って雰囲気があった。

そこを見せてやるとつくしにとっては秘密基地じゃなく「ラブストーリーのセットみたい!」って大興奮で「記念に1枚!」ってポーズを取っていた。


「ここの堂ヶ島の”トンボロ現象”って知ってるか?」
「ううん、知らない。なに、それ?」

「堂ヶ島ってな、干潮時に干上がった海底で陸と島とがつながる現象が起きるんだ。あそこの三四郎島との間でそれが起こるんだけど潮位が50cm以下になった時にしか観ることが出来ないんだ。それも月に数日間だけな。で、それも干潮時間の前後2時間しか見られないらしいから、トンボロ現象に出会うのはすげぇ貴重な体験ってわけ。俺も見たことねぇんだけど」

「ふう…ん。いつか見たいね」
「いつかな。そう言ってたらどんどん歳とりそうだけど」

「いいじゃん。いくつになってもさ。また2人で来ようよ」

「あぁ……そうだな」


帰り道、急ぎもせずに気分次第で色んな場所に車を停めては景色を見たり何かを食ったり、つくしの顔が少し日焼けしたか?って思いながら都内に近づいていく。
そのうち木々の緑と海の青に囲まれていた夢の中から、無機質なメタリックの世界へと戻ってしまった。

今、つくしの顔を照らすのは夕日じゃなくて派手な都会のネオンカラー。
大事そうに手に持ってる桜貝を指で触りながら小さな声で呟いた。

「総二郎、息抜きさせてくれてありがとう……」


こうして俺達のたった3日間の夏休みは終わった。




「おはようございます。お休みをいただきありがとうございました」
「あら、つくしさん。のんびり出来ましたか?今日は島田様のお見舞いに私と一緒に行きますからね」

「畏まりました。お支度をすべてお任せして申し訳ございません」

今日からまた俺は茶を点てる日々が続き、つくしは再び帯を締めて本邸で動き回る。
髪をきっちり結い上げて背筋を伸ばして皆に挨拶し、家元夫人に付き添って屋敷を出て行く。もう、その横顔は凜としたものに戻ってしまった。



だけどその年の秋、つくしは帯から解放された。
来年の夏休みには小っこいのが俺の腕の中にいるらしい。






banner_soujiro_plumeria.jpg




関連記事

にほんブログ村 ランキング参加中♪
Posted by桃伽奈

Comments - 6

There are no comments yet.
みわちゃん  

こんにちは~。
ホント素敵な夏休みでしたね。
たった3日でも、特に何もせず、のんびり過ごす。
まぁ夜は、濃厚だっようですが・・・(笑)
この気分転換が天使ちゃんの到来をもたらせたんですね。
まさか次の夏が、夏休みどころじゃないなんて・・・嬉しい、待ち遠しい夏でしょうね。
素敵なお話でした。

2018/07/23 (Mon) 16:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
みわちゃん様

こんばんは~!
ご訪問&コメントありがとうございます。
うふふ!夏休みは学生だけではございませんって事でこんなお話にしてみました。
西門家ではなかなか気が休まらないつくしちゃんですので、とにかく何もしない日を・・・。
言葉も服装も髪型も・・・昔のつくしちゃんに戻してあげたかったんですね。
え?夜ですか(笑)むふふ・・・省略しちゃいましたけど暑苦しい夜だったようですね♥
お昼にのんびりするからいいんですよ、きっと(笑)総ちゃんが大人しく寝たらそれも・・・ねぇ♥
二人っきりでの最後の夏休み・・・いい思い出になったかな?
きっと来年は何処にも行けないけど、賑やかで楽しい夏が来ると思います。
暑い日が続いてます。
ご無理なさいませんよう、気をつけてお過ごしくださいね。

2018/07/23 (Mon) 20:07 | EDIT | REPLY |   
さとぴょん  

Plumeria様・・・
すごくよかったです。
前編の膝枕もよかったけど、
後編、つくしが総ちゃんの肩に頭を乗せてうとうとしてる時の
総ちゃんの心の中の台詞とてもよかったです♡
~じゃないか?
~してないか?
・・・俺は支えてやれているか?
ここできゅっ♡と読者の心を掴んでから、まさかの
蝉から動物が100%の力で鳴く話!(◎_◎;)
でも、このたとえが意外にもすごくキタ。
なるほど確かに!と頷かせてからの
お前はどうだ?
そして
~ないか?の4クエスチョンで
総ちゃんのせつないほどの優しさで胸がいっぱいになって
とどめに
・・・そこに俺はいるか?
で思わずウルッ(ノД`)・゜・。♡
二人の前で輝いてる夕日が、
総ちゃんの静かで熱い気持ちとマッチして
よりじーんと胸にくるというね。
「いつも一緒にいてくれてありがとう。私は大丈夫だよ。
総二郎がそこにいてくれるから・・・」
総ちゃんが心の中で何度も唱えていた
つくしに聞きたいけど聞けなかった言葉・・・
つくしの言葉は、そんな総ちゃんの心配や不安を
すべて消してしまうような眩しい台詞でしたね。
総ちゃんへのまっすぐな愛情が感じられて、こちらもしあわせになりました。
「総二郎、3日間息抜きをさせてくれてありがとう。」
総ちゃんの気遣いもちゃんとわかっているつくし。
お互い想いあってる姿って心があったかくなりますよね。
しかし、やっぱり西門の家に嫁ぐって、凄いことなんでしょうね。
絶えず人の出入りがあるから、相当気もつかうだろうし、
24時間気が休まらないですもんねぇ。
夜も、絶えず「静かな夜に」って感じで燃えるわけにはいかないでしょうし。
かと言って家元や家元夫人に耳栓するわけにもいかないですもんねぇ。
心も解放されて、ふたりだけで過ごせた夏休み
つくしも心からリラックスできたのかもしれませんね。
お土産は桜貝と
空からやってきた天使♡
ふたりとも、ほんとによかった♡
素敵なお話ありがとうございました♡(*^^*)

2018/07/25 (Wed) 23:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
さとぴょん様

うわ~~~いっ!!さとぴょん様、うるっとしてくれたんですか?
嬉しいですっ!!
真面目に書いてよかった・・・。゚(゚´Д`゚)゚。
(普段は真面目じゃないような発言)
この時は「喧仲」を書いていたので、どうしても総ちゃんがギャグになってしまいそうで怖かったですよ・・・。
つくしちゃんも殴りかかりそうでね(笑)
「暑いのにくっついてんじゃないわよっ!離れなさいよ、総二郎っ!!」ボカッ!!
頭の中で「大人総ちゃん、大人総ちゃん・・・」「可愛いつくし、可愛いつくし・・・」と呟きながら必死に書きました。
・・・「静かな夜」(笑)・・・ありましたね、そんなヤバいモノが。
「独クリ」とか「PAIRCOORDINATE」とか・・・あの頃はどうかしてたんでしょうね(笑)
今度から真面目に書きます・・・。
さとぴょん様に『素敵っ!』って言われるように・・・。

2018/07/26 (Thu) 08:37 | EDIT | REPLY |   
さとぴょん  

いや・・・そうじゃなくて
基本不真面目で大丈夫。
どうかしてて、丁度いい。
濃厚Rはもっといい。
まれに真面目で面食らう、と。
希望対比は 8対2
ってな感じでよろしく♡ ( ̄^ ̄)

2018/07/26 (Thu) 10:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
さとぴょん様

爆笑っ!!追加コメントありがとうございます(笑)
って事は・・・今までの私でいい訳ね?
希望対比は8:2・・・了解しました!(笑)
ん?その2の部分は『真面目』だよね?
まさか2割も『濃厚R』じゃないよね?いや・・・そもそも濃厚R書かないし。
今度じっくり話し合いましょう(何処でだ?)

2018/07/26 (Thu) 10:25 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。