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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

風鈴 ~どっちが先?~(theme[wind bell])

桃伽奈


初夏、花沢邸の類の自室には、今年も風鈴が吊るされる。
…いや、吊るしているのは、わたしなんだけどね。
紐を結わえてバランスを確かめると、垂れ下がっている短冊の部分にふぅっと息を吹きかけた。

チリン チリリン

―あぁ、いい音色。
その精美で澄んだ音色にニンマリとして、わたしはもう一度そっと風鈴を吹き鳴らす。
空調の完備された邸内では、その音色に冷涼さを感じながら暑さを凌ぐ必要はないけれど、この時期になると決まってわたしは窓辺にそれを飾る。
…類との思い出の品でもあるし。

チリチリン    ワァワァ…
チリリン     ギャンギャン
チリ……     わぁぁぁん

―んん? 何の騒ぎ??
子供達が大声で言い争う声がして、わたしは慌てて声のする方へと向かった。
子供部屋では、6歳の美玖みくと、5歳の暁斗あきとが何かを喚き合っていて、世話係の康江さんが弱り切った表情で二人を宥めようとしていた。

「二人とも、どうしたの?」
「だってっ!! あっくんがっ、みくのこと、ウソつきってゆうからっ!!」
「ウソ? 何が嘘なの?」

泣いている美玖に指を突きつけられた暁斗は、ふくれっ面で言葉を返す。

「だってぇ…。みーちゃんがまちがえてるから、ホントのこと、いっただけなのに」
「えぇと、何のことで喧嘩してるのかな?」
「パパとママがけっこんしたのって、パパがママにだいすきってゆったから、そうなったんだよね?」

―えっ? 結婚? 好き?

「ちがうよっ。ママがパパをだいすきだったからだもんっ。ママがパパに『けっこんしてください』っていったからだって、パパがいってたもんっ」
「だって、やすえはそうじゃないっていったよ! ねっ?」

暁斗に同意を求められた康江さんは、困ったようにあたしを見つめた。
―何の話で揉めてるのかと思ったら、そんなことなの…?
―わたしと類の、どっちが先に相手に好きって言ったかって?
カァッと赤面しながらも、どう事態を収拾すべきかを急いで考える。

「あのね、二人ともよく聞いてね…」

わたしは膝を折って子供達の目線まで下がり、二人を手元に引き寄せる。
そうして、なるべく分かりやすい言葉で、類との馴れ初めを話してあげた。

「パパとママが結婚したのはね…」


******


「ただいま。二人とも寝た?」

子供達を寝かしつけている間に、類は帰ってシャワーを済ませていたらしい。寝室に入るとふんわりと石鹸の香りがした。彼はベッドサイドに腰かけ、濡れた髪をタオルで拭いているところだった。

「…お帰りなさい」
「なに? どうしたの?」

むぅっとした顔で出迎えたわたしに、類は面白そうに笑って問いかけてくる。
伸ばされた腕にそっと引き寄せられて、彼の隣に腰掛ける。

「怒った顔も可愛いね?」
「……っ!! …コホン。…あのね、類。今日子供たちがこんなことで言い争いをしてね…」

二人の言い争いの内容を話すと、ぷっと吹き出した類。
そのままスイッチが入ったらしく、ケラケラと笑い出してしまう。

「もう、笑い事じゃ…」
「あはは。…そっか、美玖は記憶力がいいんだね」
「………?」
「だって、俺が美玖にそれを話したのは、あの子が3歳になるかならないかの頃だったから」

―え? じゃ、美玖が聞いたのは本当のことなの?

「…えっと、記憶では、付き合い始めもプロポーズも、類から申し込んでくれたんだと思ったけど…」
「まぁ、実際は、そうなんだけど」

―え?? は、話が見えない…。

「なんで、美玖にそう言ったの? その…、私から好きだって言ったことにしたの?」
「小さいし覚えてないと思ったんだ。…なんかさ、ちょっと悔しくって、つい出来心で」

―悔しい? 出来心?

「自分ばかりがあんたを好きみたいで。昔も…今もさ」
「そっ、そんなことないよ! わたしだって…」

負けないくらい類が好きだもん、という言葉はすぐそこまで出かかったけど、あえて言わずにおく。
…変なところで見栄っ張りな人には、素直に言ってやらないんだから。
唐突に口をつぐんだわたしに、類は微笑みかける。

「それで、なんて言って、喧嘩をおさめたの?」
「どちらを立てても角が立つと思ったから、『せーの!!』で、お互いに好きだって言ったことにしたの」
「同時に?」
「そう。それならどっちが先かなんて、揉めないかと思って…」

なるほどね、と楽しそうに呟いて、類はわたしを抱き寄せたままベッドに転がる。
類は終始面白がっていて、わたしにはそれが面白くない。


わたしの言ったことは、あながち間違いでもない。
類の自室に飾っている風鈴は、わたしが類にプレゼントしたものだ。
牧野家に飾ってあったそれを見て、類が自分も風鈴が欲しいと言ったから。
風鈴を買った日、わたしは類に自分の想いを告げるつもりで、彼と会った。
だけど、わたしがそれを口にするよりも早く、類がわたしに好きだと言ってくれたのだ。
すごく、すごく嬉しかった。

そのときの喜びを忘れたくないから、わたしは毎年風鈴を飾るんだもの。
いつまでも変わらない、類への想いを確かめたくてそうするんだもの。


「『せーの!!』で言い合う?」
「…この状況で、よくそんなことが言えるよね?」
「だって…つくしも目は笑ってるし。…ほら、せーの」
「「大好きだよ」」

あたし達の声は、図ったかのように、見事にシンクロした。
類はクスクスと笑いながら、わざとリップ音を立てて、わたしにキスをする。
離れた唇を追うようにして、わたしから口づけると、類の目元が嬉しそうに綻んだ。

彼は慣れた手つきで、わたしのナイトウェアのボタンを外していく。
重ね合った類の素肌は、入浴後なのにひんやりとしていて、わたしの体の火照りを冷ましてくれる。
互いの体に、唇で、舌で、指で触れて、愛情と優しさを示し合う。

自分ばっかり好きだなんて、そんなこと言わせない…。
だって、わたしは、こんなに類を大切に想っているのに…。



その夜は、なんだかムキになってしまって、いつもより積極的に類を求めた……気がする。
彼の術中にどっぷりとハマっていた自分に気づいたのは、眠りに落ちる直前、類のこの上なく満足気な顔を見たときだった。
―あぁ、しまった…。これ、してやったりの顔じゃないの…。


******


夏の終わりが近づき、わたしは風鈴を片付けるために台座に上ろうとした。
それを見かけた類が、慌ててわたしを制する。

「ちょっと、何してんの」
「風鈴、片付けようと思って…」
「…あのさ、自分が妊婦だっていう自覚ある? 俺がやるから」
「えぇ? これくらい大丈夫だよ?」

いま、わたしのお腹の中には、小さな赤ちゃんがいる。
時期を考えれば、風鈴を飾った日の夜が、ちょうどそのタイミングだったとしか思えない。
数年ぶりの慶事に、花沢邸は喜びに湧き立った。
美玖のときも、暁斗のときもそうだったように、類の過保護は日増しにひどくなる。
…でも、すごく幸せだなって思う。

「来年も飾ろうね」
「うん」

風鈴の傘についた埃を拭いとり、そっと箱に納めると、わたし達は微笑み合った。
ドアの向こうから、パタパタと小さい足音が近づいてきて、子供達が勢いよく部屋に飛び込んでくる。

「「パパ、遊ぼうっ!」」
「いいよ。何して遊ぼうか」

類と、彼の両腕に腕をかけて吊り下がる我が子達を見送り、わたしは風鈴を納めた箱をクローゼットの奥へと仕舞った。






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Posted by桃伽奈

Comments - 2

There are no comments yet.
さとぴょん  

同時にプロポーズしたなんて、
つくし子どもたちにうまく言いましたね。
しかし美玖ちゃんよく覚えてましたよね。
3歳児をあなどっちゃいかんですな。
自分ばっかり好きみたいで悔しかったから・・・
類くん可愛い♡( *´艸`)♡
これは類くんのために与えられた台詞でございますな♡
今はすっかり落ち着き、言葉や態度からも
大人の余裕をナチュラルに感じさせている類くん。
甘さもちょっぴり大人っぽくて素敵ですよね♡(*ノωノ)♡
「せーのーで!大好き♡」
・・・・。
新婚かいっ!ってツッコみたくなるけど可愛かったです♡
風鈴ベイビー♡
来年の夏は、しあわせな音色と可愛い泣き声の合唱が聞こえそうですね♪
ナイナイ様♡ 素敵なお話ありがとうございました♡

2018/07/25 (Wed) 15:25 | EDIT | REPLY |   
nainai  
さとぴょん様

こんばんは。
いつも温かいコメントをありがとうございます♪♪
実は夫婦ものを書くのが初めてでしたΣ(・ω・ノ)ノ!
振り返ってみたら、自分の書いたお話には、まだこのシチュエーションがなかった…!! ってことで、幸せな花沢ファミリーを想像してみました。
美玖と暁斗は年子の設定です♡
どっちが好きって言ったのかは、一般的なご家庭でもよくある話題なんじゃないかと思い、生まれたお話でした。類のついた小さな『ウソ』が3年以上も経って露見したのを、つくしがうまくフォローするという、あまりないパターンで(笑)
夫婦になって数年経っているのであまり照れは交えず、相変わらず仲の良い二人を描いてみました。楽しんでいただけましたら幸いです(^^♪

2018/07/25 (Wed) 23:21 | EDIT | REPLY |   

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