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桃伽奈

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Posted by桃伽奈

『空蝉』(theme [cicada])後編

桃伽奈


*

もうすぐ、この夏が終わる。

類は一人、眩しい陽射しを避け、掌にある蝉の脱け殻をぼんやりと見つめていた。

アブラゼミの、空蝉(ぬけがら)…

蜩では無いけれど…部屋の窓の外、偶然見つけただけのソレを見ながら

この掌の空蝉(脱け殻)もやはり、自分のようだと思う。


…もう、なんの意味もない…

あれから数日が経っていた。

つくしもあの朝を最後に
類の目の前から、消えてしまったまま…

現実が少しずつ自身の心を蝕んでゆくことに気づいても、類は今更どうにも出来ない。

正直、これ程までに沈みこむのは馬鹿みたいだと、嘲る自分もいるのに…
思いの外大き過ぎる損失感に、類はもう、抗う気力さえ無くしていた。


支えているつもりで…
支えられているのは、ずっと自分の方だったのかもしれない。

だからあれからずっと…
彼女に対する答えが見つからぬまま、どれだけ自分に問うただろうか。

なんで…
あの朝、何も言わずにあのまま…

勿論、あれからすぐ、類はつくしの姿を懸命に探し廻った。


もしかすると…
このままもう2度と彼女に会えないのでは無いかという予感に、幾度も捕らわれそうになって。
その度にそれを、強く振り払い続けたけれど…


カナカナカナカナカナ…
ケケケケケケケケ……
キキキキキキキキ……


再びあの森を歩き回っても

あの日と同じように蜩は鳴くのに、
その中にもう、やはり彼女は居なかった。


でも、夢じゃない…

確かに昨夜、自分はこの腕で、彼女を抱いたのだから。

だが今は─────


『花沢類も、忘れないでね…』

この森でじっと一匹の蜩を見つめていた、美しい彼女の横顔ばかりを思い出す。

あの暖かい掌を、まさかこんなカタチで失うことになろうとは…
あの時の自分は、1ミリ足りとも思わなかった。

でも今になり、強い後悔ばかりが己を襲う。

もしあのまま…
男の俺が、踏みとどまっていれば…




「牧野…」

大好きな、弾けるような笑顔を思い出す。
本当は泣き虫な癖して、強がりで… 真っ直ぐで、男に甘えることを決して良しとしない、自分に厳しい、そんな彼女だからこそ…

今頃は自分を責め、独り悔いているのでは無いか…


それに…
どうしてあの時、類は忘れられたのだろう。

“彼ら”はもうすぐ、今年で四年目を迎える筈だった。

そして司は確かに、この夏が終わればすぐにでも、自ら彼女の事を迎えに行くと…わざわざ自分に向け、そう言っていたのに…


不意に彼女の泣き顔が浮かび

…違う…
あんたのせいじゃない…

彼女の理性を、現実の幸せを…
もしも自分がこの手で、壊してしまったのだとしたら────

お願い牧野…
どうか自分を責めないで欲しい

願わくば彼女にとっても、あれは一夜の、”空蝉の夢”だったのだと…
全て綺麗に忘れ去ってくれて構わないからと、今の類は、心の底からそれだけを願っていた。

そして再び、彼女がいつもの笑顔を取り戻せるなら…


…そういえば、牧野、泣いてた…

もしあれが、司の為の後悔の涙だとしたら…

今更、焼けつくような痛みと共に
あの時の、愚かな自分の選択そのものを呪いたくなる。



好きだった
とても大切だった

そして心から彼女の幸せを願い、
友と二人の幸せを願い…

今までだってその気持ちに、決して嘘は、無かったなのに。


それなのに…
目前に迫るつくしとの別れを前にして、今まで培ってきた全てを…

あの夜、自身の欲望と引き換えにして、自ら手離してしまったのかもしれない。


…牧野、ごめん…

そして…
彼女の初めてを、自分が奪ったのだ。

今更謝ってみても、もう許されないかもしれない。それでも、あの時の彼女の涙が、甘く儚い記憶の全てが…

類自身の身勝手な自己陶酔ではないと、今更誰がいえよう。

しかも当のつくしが…
類の隣から既に、目覚めを待たずに、その姿を消していたのだから…


一体彼女は、どんな顔してあの部屋を先に出たのか。

今はそれを考えることさえ、彼女に拒まれるような気がして…


あんた今、何処にいるの…?

結局また、強い後悔の念を抱えながら
類はまるで空蝉(脱け殻)のように、必死に彼女の姿を探し続けていた。


*

だが…
その答えは後日、思わぬところからやってきた。

ドンッ

「テッ!…って、なんだ? 類じゃねぇか」

帰って来た、東京の暑い街並み。肩にぶつかる衝撃の後、よく聞き覚えのある声の主に、類はぼんやりと視線を合わせる。

「総二郎… あのさ、牧野が…」

すぐすがるように言いかけて、類ははたと口をつぐむ。

仮にも内緒の、二人だけでの旅行など…ましてあの夜の事など、決して口にすべきではない相手。

自分達に近い“仲間”だから、それは尚更の事…

すぐに言い淀んだ類に、しかし総二郎は怪訝な顔で


「牧野って… お前、何も聞いてねぇの?」
「…何を…?」

「いや、なんか探してる風だったからさ…」
「あぁ、確かに、探してる…」

嫌な予感がした。
総二郎は、きっと類の知らない、彼女の何かを知っている…

「そっか…。いや、お前らてっきりほら? 仲がいいから…」

目が少し不自然に宙を泳ぐ。それは受け流したい時の総二郎の癖だと、類にはわかった。


「総二郎… お前、何か知ってるの…?」

声の震えを必死に抑えて睨み付ければ、総二郎は呆気なく類に白旗を掲げた。

「ハァ、いや実はな …見かけたんだよ」
「何処で!?」

勢いに面喰らったのか、一歩後ろに退いた総二郎が気まずそうに呟く。

「だから… 俺も偶然会ったんだよ。たまたま仕事で渡米してきた、その帰りでな? そしたら、俺も驚いたんだ… あれ?あの後ろ姿は!って、見かけてすぐに後を追いかけた…」

待って… 今、なんて…

「それって、空港ってこと…?」

「あぁ…関西の方な? そしたら案の定、アイツは─────」


続く総二郎の言葉を聞きながら、
再び類の脳内に、あの森の蝉時雨が鳴り響く。


*

「類様、お帰りなさいませ」

類は、邸に戻って来た。

「部屋で休むから… 暫く、誰も入れないで…」

出掛けるときより更に気落ちした様子で、瞳に何も映さない類の様子を、出迎えた者が皆訝しげに伺う。
ここ暫く、これ程までに塞ぎ込んだ類の姿など滅多に見ることは無かったのに…
その中から、メイド頭の花江が一歩前に進み出る。

「類様、どうされましたか」
「…別に」

顔色も優れず、誰も自分の側に寄せ付けまいとする久々の冷たい空気を纏っていた。だが古参のメイド頭は、その程度で怯んでいたら到底務まるものではない。

「類様宛にお手紙が… 先程、お留守の間に届いております。」

手紙なら、普段は部屋に勝手に運び置いてある筈で、類は何事かと花江を一瞥し

「…っ!コレ…」

手渡されたモノを見るなり、つい声が出てしまう。気づけば自分を気遣うような暖かな眼差しに、類の胸は熱く…
そしてまた少し、苦しくなる。

「ありがと… これ… 部屋で、見るから…」

震える手を必死に抑えながら、類は自室へと急ぐ。手紙の差出人は紛れもなく、類が昨日からずっと探し続けていた、”その人”─────


なんで…?
今更、どうしてわざわざ、うちに手紙なんて……

あれから、何度電話をかけても繋がらず、LINEも既読にすらならない。

その全てが固い意思を持ち、今や類の存在を拒絶しているとしか思えなかったのに…

やがて足早に廊下を過ぎ部屋に辿り着くと、類は後ろ手で扉をしめ、すぐさま握り締めた”手紙”を確認する。



─『花沢類へ』

消印は、やはり関西だった。
堂々と簡潔に、意思の強そうな彼女らしい宛名の字にドクリと鼓動が早まる。


牧野っ… あんた、どうして…

震える手で封を切ると、まるで壊れやすい宝物にでも触れるように、類はゆっくりと中身を取り出す。


*


─『花沢類へ』─

『花沢類 お元気ですか。この手紙を借りて、先ずは貴方に…私から、お詫びと御礼を、どうか言わせて下さい。』


…お詫びと、御礼…?

それはつまり────

今まで、類に向けて幾度も繰り返された、彼女特有の

『ありがとう… でも、ごめんね…』

すまなそうな彼女の顔がすぐに浮かび、類ははたと手紙を綴じた。


…今更、なんで…

昼間の総二郎から聞いた言葉が、類の頭を過る。


─『そしたらアイツ、これから司のとこに、一人で向かうって言うから。そりゃめでたいな!って… 背中叩いてやったんだよ。だから明日あたり、アイツら、久し振りにきっと…』

─『待って… それって… 牧野独りで、ニューヨークに向かった、って事…?』

類は辛うじて総二郎に訊ねた。


─『当たり前だろ? そりゃ、自分の女だもんなぁ、別に俺らに何も言わなくたって、アイツらはアイツらで好きに連絡取り合ってるだろうし…』






…あぁ… なんだ……

そういうことか………


そんな女だとは思いたくはない。

でも…

全部が…
最後の夏の、想い出ってこと…?

手紙を引き出す類の手は止まり、続きを読まずに、そのまま元の封筒へとしまう。



『ありがとう』と『ごめんなさい』

それに続く彼女の言葉は、今の類には可笑しいほど予想が出来ていた。


…結局、ただ、フラれたって事じゃん……

そんな事初めから…
とっくの昔から、わかりきっていた事なのに…

それでも…
類は願ってしまった。

何も要らない
欲しいのは、あんたの”愛”だけ────


つくしは微笑んで、そんな類を
黙って受け入れてくれて

だから…



「…ハハッ」

乾いた笑いが溢れる。


そういえば、蜩も…

一生鳴き続けた結果、1度も愛されずに…そのまま死んでゆく個体もいるのだと、朧気に類は思い出す。


愛してる、か……

それでも…
どうしても彼女の事を憎みきれない、自分がいる。


「…俺が、駄目なのかな…」


やっぱり…
本当に好きな女とは、一緒になれない運命なのかもしれない




『あんなに… 綺麗なのになぁ…』

そういえば彼女も…
あの蜩を、憐れんでいたではないか。





…もう、いいや……

どうでもいい……

そのまま黙ってベッドに倒れ込み、疲れた身体を横たえ、静かに瞼を閉じる。

頭の中には
まだ、あの森の蝉時雨が、少しも鳴り止まないまま…

やがて類は、深い眠りへと堕ちていった。



*


そのまま誰とも会わずに
部屋で過ごして数日経った夜のこと。


ブーッ、ブーッ、ブーッ…

夜中けたたましく震える携帯に、類は何事かと手を伸ばす。

が…


「司…」

画面に表示された友の名に、類はピタリと動きを止めた。


裁きは、受けねばならない────


司こそ、何も悪くない。

裏切ったのは、自分なのだから…


緊張から生唾を飲み込み、類はそのまま通話ボタンを押す。

覚悟なら、もうとっくに決まっていた。



「──もしもし、司…。俺…」


*
*
*

類は夏休みの非常階段の扉を、そっと押し開けて足を踏み入れる。

人もまばらな学内は、いつもより静かで

ここに、本当に来るのだろうか……


そしてズボンのポケットから、3日も前に届いた手紙をそっと取り出し、



「牧野…」

その名を呟く。

やっぱり愛しい…
愛しくて逢いたくて、たまらない…


と、



「花沢、類…!?」


…あ…

確かに…階段の上で、驚いた顔の彼女がそこにいる。


「…来て、くれたんだね…//」

「…え…」


「え、って… あれ?嘘っ//!? だって手紙は//!?」

あの晩の色気など嘘のように、慌ただしく子供っぽい彼女が、類の側まで急ぎかけ降りてくる。


「手紙、って… コレの事?」

「あっ///!そうだけど///…えと//…」

「開けたけど… 最後まで読んでない…」

「ハアッ//!? 嘘でしょ///!? 何でっ//」


「読むの…怖かったから」

ポツリと呟かれた類の言葉に、つくしの瞳がまあるく見開かれる。



「花沢類… なんか少し、痩せた?」

「…さぁ… どうだろ…」

薄く微笑んだ類は、明らかに数日前より、少し窶れて…

このまま類が消えてしまいそうで、ドキリとする。


そんな…
あたしの、せいだ…//



「司から…」

…えっ


「電話、あってさ…」

「それ… いつ?」

つくしの声が震える。
類に対するものとは、明らかに別の種類の動機を覚えながら、俄に緊張が走る。


「俺の様子が可笑しいって、どうやらアイツらが、わざわざ告げ口したらしくて…」

「”アイツら”って… もしかして、西門さん達?」

「そうみたい… 多分、ね…」


…それで、どうして道明寺が…//



「司にさ。出た途端、いい加減ふて寝してる場合じゃないって言われた。意味が解らなくて… でも兎に角、気晴らしに大学にでも顔出せって、そればっかり…

アイツはわざわざそんな事言う奴じゃないし、それに今、夏休みだし…」

「うん。そう、だよね…//」

それが司なりの…
不器用なエールだと気付き、つくしは胸を抑える。

そんなつくしを、類は静かに見守って

「なんだか妙だと思って…。で、とりあえず、ここに来たんだけど…」


束の間

夏の終わりの風が、ふわりと類の薄茶の髪を揺らした。

キラキラと日の光を受けて輝く類に、つくしは思わず目を奪われる。

やっぱり…
花沢類は、とても綺麗だ────



「あの、それで… 今日はここに来たの//?」

「あぁ… 」


つくしは密かに喜びを噛み締める。

たとえ偶然でも…

今、また二人で此処に居られる、
ただそれだけの、喜びを…


…道明寺… どうもありがとう……



「手紙… 今から読むね」

…へっ?

えええっ////!?


「ちょっと待って///!! もしかして、ホントに今からっ///!?」

「…そうだけど?」


つくしは慌てた。

何で//? 寄りによって今、書いた本人の目の前で、あんたはソレを読む気っ////!?

そんなの!!
羞恥プレーもいいとこだってのに…
この人は相変わらずっ、ヒトの気も、知らないでっ////!!!



「『花沢類へ』…」
「嘘っ//!! ちょっ、声に出さないでっ////」

慌てて類の口を塞ごうと、思い切り伸ばした手は、簡単に捕らえられる。


…へっ///?

見ればビー玉の瞳の奥が、キラリと悪戯に輝いた。

「あの… 手紙…///」
「ごめん、実はもう、読んじゃった」
「うっそ///!!」

たちまち耳まで赤くなる。

読んじゃった、って、それじゃ……



「騙してごめん。本当は… ちゃんと読んで、ここで待ってた…」
「なっ///…」


途端に類は、たまりかねたようにつくしを腕の中に囲い込む。

あの夜よりもっと、つくしが愛しいという想いを込めて────




─『花沢類へ』─

『花沢類 お元気ですか。この手紙を借りて、先ずは貴方に…私から、お詫びと御礼を、どうか言わせて下さい。』


司の電話の後に、改めて開いた手紙の内容───

ここから始まったつくしの告白を、類は今では…全てを記憶するほど、鮮明に覚えていた。


─『まずはお礼を言いたいです。あの日、蝉時雨の森に連れていってくれた事、本当にどうもありがとう。

この夏は、二人で何処かへ…
あなたが非常階段でそう言ってくれた時、あたしは、神様が秘めていた私の願いを、こっそり叶えてくれたのかと思いました。
それほどに、嬉しかった。

何故ならあたしは、もうずっと前から、自分の本当の気持ちに、気づいてしまっていたから。』


…牧野…

「もう、逢えないかと思った…」
「えっ… そんな…//」

きつくきつく
類は腕の中の、愛しい存在を抱き締める。


─『だからこんな形で、まさか願いが叶うなんて、思いもしなかったけど…。とにかくあたしは貴方に、たくさんの勇気を貰いました。

一緒の部屋にしようとしたのも、貴方と離れたくないと願ったのも…
少しだけ狡い、賭けに出たのも…

もしそこで貴方に拒まれたなら、自分の思いを潔く諦めなければいけないと覚悟していました。

でも貴方は… 花沢類は、こんな卑怯なあたしを、そのまま受け入れてくれて、そしてあなたに心から愛されたこと… それが何より、あたしは嬉しかったのです。』


「大丈夫。卑怯なんかじゃない…」
「…っ、でも…」

「俺も… あの日初めて、自分の心に、従っただけだから…」


いつからだろうか…

自分が想いを告げないことが、これ程彼女を思い詰めさせていただなんて…


「ごめん、牧野…」
「…やだ、そんな//」

ポロポロと、つくしの目からとめどなく涙が溢れる。



─『そして、たとえアクシデントだったとしても… あなたはあたしに、一番欲しかった言葉をくれました。信じられなかった。凄く嬉しくて、とても幸せで…。

でも言われてあたしも、同時に気づいてしまったの。

あたしはまだ、貴方に素直に答えられる程に、潔い身では無いのだと…。

だから…

これからあたしは、道明寺に会いに行きます。そしてあたしの気持ちを…
今の素直な思いを、直接彼にぶつけてきます。

でも、きっと優しい貴方は、こんなあたしのやり方を止めるかもしれない。

だから黙ってこのまま… 何も言わずに部屋を出ていくあたしを、どうか許して下さい。

そしてもし、無事にまた、日本に帰って来られたら。

その時は、ちゃんと貴方に─────』



「道明寺にね、ちゃんと、話せたの…」
「ん…」


「いつ帰して貰えるのか、場合によってはわからないって、覚悟もしてた。でも…」
「ん… 」


つくしは類に全てを話した。

宿を出てからすぐに司に連絡を取り、無謀ともいえる決意だけを胸に、予め用意していたなけなしのバイト代を叩いて、ニューヨークまでたった独り、司に会いに行ったこと。

そして類の名は出さずに、自分の心変わりだけを正直に話し、司に心から詫びた、とも。

あくまでも…
これは自分と司の問題だと、つくしは以前から、そう感じていたから…。

だが

思いの外あっさりと…
司がつくしとの別れに承諾してくれたことまで伝えると─────


「でも多分… アイツはきっとわかってるよ…。だってほら、昨日の電話…」

「あ…」

確かに、類の予想は当たっている気がする…

だったら自分は…
自分の裏切りは、確実に…

司を傷つけた事を、この先も決して、忘れてはいけない…



「また変な事、考えてる?」

「ふえっ//?」

突然大きな手で両頬を掴まれ、沈む気持ちと関係無く、情けない声が出る。

だが

「大丈夫。今は何も、考えないで…」

柔らかく細められた眼差しが、いつかの夜の類と重なり…

あ…// 確か、…あの時も…///


思わず頬を染めたつくしを、類は笑いながら


「多分さ… あんたが思ってる以上に司は… 牧野の事、大切に思ってたよ…」

…っ…


だからこれ以上、司がつくしに対して何もすることは無いと、類は断言した。

それはつくしにとって、余計に辛いことなのだと、きっと類も、わかっている筈なのに…


「大丈夫。その分俺が、殴られに行くよ」
「えっ!」

「あ。これはさ、…俺と司の問題? 」

事も無げに言いきり笑う類を、つくしはまじまじと見上げた。


そうだった…

…花沢類と、道明寺…
彼らにも…自分には入れない、昔からの二人の絆があるのだから……


「ね、だから今そんな顔しないで?
…じゃあ聞くけど。何であんたは、今日、此処に来たの…?」

「///!…それは…//」

少し驚いて類を見る。

魅惑的な瞳は、どうしてこうもクルクルと色を変えるのだろう…


「裏切ったのは、俺も一緒…
でも俺は… あの時、ちゃんと言ったでしょ?」

あの時…?

「変わってないよ。あれからずっと…どうしても、何を犠牲にしても、牧野が欲しいって、正直な、この気持ちは───//」


…あ…

すぐにあの、夢のような一夜が浮かぶ。

否…
あの時は、本当に夢だと思った。

類と二人、手を繋いで歩いた蝉時雨の森…

美しい蜩の蝉時雨と、
そしてまさかのアクシデントと…

そのまま… 大好きな花沢類に、あの晩、全てを愛されて────



「…じゃ、そろそろ教えて?」

「へっ///!?」


「俺、ちゃんと待ってたよ…」


あ…///

いつもより…
少しだけ体温の高い手が、つくしの手をしっかりと握ってくれている…

それだけで、つくしは不思議と安心する。


いつからだろう─────

この人の事ばかり、目で追うようにようになったのは…

好きになってはいけないと、何度も諦めようと、心に誓ったのに

昔と変わらないビー玉みたいな優しい眼差しは、気づけばいつも…つくしが辛い時、嬉しい時、分かち合うように、ずっと側に居てくれて…

いつも…この温もりだけで、いつだってつくしの心は、落ち着きを取り戻してゆくから。


「あのね。あたしも… ずっと前から、花沢類の事────///」


そして切ない夏の終わり
誰も居ない非常階段に、二人の影がそっと重なる。

けれどもう、これからは────


終わりゆく蝉時雨を思い出しながら
二人はそっと手を繋ぎ、互いの想いを確かめ合う。


「あのさ… 来年の夏も…」
「あぁ…そうだね」

きっと二人で、あの森に────


近い未来を誓う新しい季節が、静かな始まりを告げていた。






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Posted by桃伽奈

Comments - 4

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スリーシスターズ  

こんばんは。
前編・中編・後編の最初まではもう切ない展開で、どうなってしまうのだろう?と思いました。
つくしちゃんが初めてを類くんに捧げた時にはつくしちゃんの心は固まっていたのだろうな~とは思っていましたが、空港へ向かったこと、類くんに手紙が届いたことで、もうもう確信しました!
類くんは幸せになれるって。
類くんは司くんを裏切ったって感じちゃったのかもしれないけど、司くんも分かってくれたから類くんにわざわざ電話してくれたし、F4はみんな何も言わなくても分かりあえる部分が多いけど、類くんと司くんは一番分かり合えているって私は思っているので、類くんにならつくしちゃんを任せられると思ってくれましたよ!!
あっ、でもちょっとだけ司くん褒めていいですか~(笑)
司くん大人になったね~。
類くんの背中をちゃんと押してあげて、いい奴じゃん!(*^^*)
類くんとつくしちゃん、幸せになれて良かったですヽ(^o^)丿
凪子さんの類くん愛ひしひしと感じましたよ!
そして、凪子さん的類くんの真骨頂、切なさと一途なゆえの儚さもひしひしと感じました(^^♪
これからも類くんをたくさん幸せにしてあげてくださいね🎵

2018/07/10 (Tue) 18:54 | EDIT | REPLY |   
凪子♪  
スリーシスターズ様🎵

おお(。´Д⊂)💦💦
なんと慈悲深いお言葉✨
ありがとうございます!!(;∀;)
そして、ここはやっぱり類つくなので、どうしても切ない役回りでしたが💦💦
司くん、お誉め頂けて良かったですm(__)m💦💦(滝汗)
…ですよね💦
つかつくでも類つくでも、司と類との二人はF4の中でも特別通じあうモノがあり、そこがまた堪らないっ❤ってなるんですが… ドラマでも、二人を応援して類がひいたところで凪子号泣(笑)かなり悶えましたww
なのでスリーさん!!!
凄すぎです(;∀;)✨✨
…ってことで、やっぱりここは、ジャンピング土下座で(笑)
タタタッ、ピョン!…ドスッm(__)m💦💦
長文最後までお付き合い頂き、どうもありがとうございました!!ヽ(*´▽)ノ♪

2018/07/10 (Tue) 22:01 | EDIT | REPLY |   
はる  
凪子様

凪子ワールドの類つく!良かったですd(^_^o)読みはじめて、これはイベントの類つく!凪子さんなら切なくてもハッピーな終わりのはず!と自分に言い聞かせながら読みました。読み終わって、ほんのり心があったかく、また、幸せな気分に包まれた様な気持ち良さで感無量です(*^◯^*)
また、司が大人なのが良いですね!幸せになって欲しいなぁ〜って心から思えました。素敵なお話ありがとうございます!

2018/07/14 (Sat) 03:29 | EDIT | REPLY |   
凪子♪  
はる様🎵

コメありがとうございます!
わーい!嬉しいですっ♪ヽ(*´▽)ノ
実は、書き始めたのはわりと早かったのに、いろいろ拗らせてしまい…なかなかに筆が進まず難産になった、このお話(^^;💦
チームの皆様にご迷惑かけながらの、文字子発揮で(笑)結果せつない長編になってしまいましたが💦
でも楽しんで頂けたようで良かったです(*´ω`*)
はい!司くんも大人になって…
類つく意外に二人の友情も感じ取って頂き、ありがたいです❤
そしてこちらこそ!はるさんのコメにとっても励まされましたっ♪
長文最後までお付き合い頂き、どうもありがとうございました!!(*´ω`*)

2018/07/14 (Sat) 16:58 | EDIT | REPLY |   

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